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ルスキニアを救え!

前回までのあらすじ

敵の本拠地である貨物船に乗り込んだ月斗。

兵士たちを打ち倒し、ついにドミニクのもとへたどり着く

 虚ろな兵器たちに囲まれた陰気臭い船倉の中央で、ドミニク・フーゲンベルクは背後に部下を従え待ち構えていた。


「ようこそ、我らが革命の方舟へ!」


 ドミニクの誇らしげな声が響く。芝居ポーズや虚勢ではなく、心の底から革命とやらを成し遂げる決意の篭った眼差しをしている。


「月斗さん! 来て……くれたのですね……」


 鉄の檻に入れられたルスキニアが驚いたように声を上げ、それから平たい胸を撫で下ろした。

 二人までは距離にすると50メートルほどだ。


「よう、元気そうだな。その檻と首輪、似合ってるぞ」


 挨拶とばかりに軽く手を上げた月斗は悠々と近づいていく。


「あ、はい、わたしは元気なのです……ではないのですっ! 危ないのです! 来てはダメなのです!」


 掴んだ鉄格子に顔を押し付けたルスキニアは、少しでも声を届けようと大声を張り上げた。


『この船倉内に確認できるだけで敵は21人います。慎重に進んで下さい』


 デュナミスが警告してくるが月斗の歩む速度は変わらない。


「わたしのことなら大丈夫なのです! 神さまのご加護が――」

「ゴチャゴチャうるせえ! 俺は俺のやりたいようにやるんだよ!」


 月斗の怒鳴り声に、背後に控えていた下っ端たちが殺気を増し銃口を上げるが、ドミニクがそれを手で制した。


「で、でもこれは罠なのです! どんな罠か分からないけど、絶対に危険なのです!」

「そりゃそうだ。もしこれで罠じゃなかったら、ただでラジエルの書をくれてやってもいいぜ」


 試すように言って月斗はドミニクに視線を向けた。


「なるほど、たった一人で罠を破る自信があると。若さゆえの蛮勇だな」

「年甲斐もなく、おもちゃの兵隊を集めてる奴に言われたくないな」


 互いの距離は30メートルほどまで近づいていたが、ドミニクやその手下に大きな動きはない。

 月斗の方も銃を下ろしていた。この距離で撃っても、どうせ氷の壁に遮られて当たらないからだ。


「方舟だと言ったはずだ。ここから新たな世界秩序が始まる」

「船一隻でか? さすがトンデモ兵器の国ナチスドイツの軍人さんは発想が違うな」


 20メートル。銃と魔法の撃ち合いがいつ始まってもおかしくない距離だが、月斗は歩みを止めない。


「ナチスドイツではない、神聖大ローマ帝国だ。そして、今日が記念すべき建国の日となる。式典に立ち会えることを光栄に思うといい」

「長いスピーチは大っ嫌いなんでな、悪いが俺とそこのポンコツは不参加だ。帰らせてもらうぜ」


 月斗の不躾な言葉にドミニクは小さく首を振る。


「草薙家の当主に出席を断られるとは残念だ。しかし、戴冠のための帝国宝物ライスクライオーディエンは、聖十字架だけでは足らない。ラジエルの書を渡してもらおうか」


 残り10メートルで月斗は足を止めた。

 踏み込んだ接近戦には遠く、遠距離で殺り合うにも互いに都合の良くない距離だ。


「交換って話じゃなかったのか? 新しい皇帝さまが約束も守れないとは、国債の信用もあったもんじゃないな」


 簡単に話が決まるとは月斗も思っていなかった。ドミニクにしても、それは同じだろう。


「儀式の手順と信用は重要だな。よろしい、まずは現物を見せてもらおうか?」


 ドミニクはそちらのターンだと言うように、右掌を差し出した。頷いた月斗は背負っていたバックパックを床におろし上蓋を開けた。無造作に手を突っ込むと、雑誌でも扱うようにラジエルの書を雑に取り出した。


「ほらこれでどうだ?」


 不思議な質感の表紙が船倉の照明を受け、鮮やかなサファイア色に輝いていた。


「その光輝、まさしく本物のラジエルの書……」


 積年の夢を目の当たりにしたドミニクが感慨深げに声を漏らす。

 十分に確かめさせてから、月斗はもったいつけるようにラジエルの書をバックパックに再びしまい込んだ。


「そっちのポンコツは……、確かめるまでもないな。人間に捕まるマヌケな天使なんて、そうそういないからな」

『その言い方~。愛の力で分かったぐらいハッタリかまさないと、女の子にモテないわよ』

『愛は判定できませんが、正面に存在する魔力の波動は間違いなくルスキニアのものです』


 緊張感の欠片もないアスモデウスの言葉に、デュナミスが情報を付け足した。これで幻影や映像を使ったトリックという可能性は消えた。


「よろしい、では交換の手順を確認しよう。キミはその場にラジエルの書を置き、私はここに檻の鍵を置く」


 ドミニクは懐から鍵を取り出すと、それを地面に置いた。


「時計回りで進み、お互い目的のものを手に入れたら、後は『自由』にする。どうかね?」

「基本はそれでOKだ。ただ、その前に余計な連中を武装解除して下げてもらおうか。1対21ってのは少しばかりハンデがありすぎだろ?」


 単純な戦力として考えればドミニク以外は大したことはない。しかし、何の準備をしているかわからない上に、これからルスキニアという荷物を抱えなければならない。リスクを低く抑えるに越したことはない。


「キミの当然の権利だな。総員、銃をその場に置き船首側の隔壁まで下がるのだ」


 ドミニクに心酔しきっているのだろう部下たちは、迷いなく銃を手放し駆け足で壁際まで下がった。


「これで満足かね?」


 ここまでの駆け引きは想定済みなのだろう、ドミニクに動揺はみられない。


「ああ、上等だ。いくぜ」


 二人は同時に一歩目を踏み出した。床に引かれた白ラインの交点を中心にして時計回りにぐるりと回りこんでいく。

 不審な動きはない。見つめ合うわけではないが、お互いに視界の端に捉えあったまま3時と9時の位置を迎えた。


 月斗は注意を前方にむけて走りだした。ほぼ同時にドミニクも足を速める気配があった。僅かな差だが、先にゴールしたのは月斗だった。


「うっ、うぅ……げっどざぁああああん」


 張り詰めていた緊張の糸が途切れたのか、ルスキニアがボロボロと涙を零し、鼻の詰まった酷い声で泣き始めた。


「ええい鬱陶しい。開くまで我慢してろ」


 いつものルスキニアの情けない顔に月斗は溜息をつく。そして安堵した胸の内をさとられないよう、顔を下げて地面に落ちていた鍵に手を伸ばした。


『素直に無事で良かったって、言ってあげなさいよ』

「うぇえええん、ありがどうございまずぅう」


 鍵穴に差し込んだ鍵を回す。ガチャリと音がして鉄格子の戸が手前に動いた。


「ほらさっさと――」


 一歩下がり道を開けた時だ、地面からブンッという重低音が聞こえ、月斗の身体が地面に叩きつけられた。


「がっ! うぐぐっ、な、なんだ?!」


 身体が左腕を押しつぶし、地面に貼り付けられたようになっていた。


「月斗さん?! ど、どうしたのですか?!」


 檻から飛び出したルスキニアが、泣いてる場合じゃないと月斗の傍らにかがみこんだ。


「身体が重くなって、うぐっ、動けない……」


 左腕と右脚、そして胴体が異常に重くなり、辛うじて自由が利くのは右腕だけだった。


『これは磁力です。雷神を使ったことにより滞留した電気で磁化されていた金属部分が、床下の強力な電磁石により引きつけられています』


 デュナミスの説明に月斗は心のなかで悪態をつく。

 侵入の段階からドミニクの罠にハメられていた。たいしたダメージを与えられるわけではない兵士たちをけしかけることで、雷神を使わせこの磁化を狙っていたのだ。

 どうにか引き剥がそうと藻掻いていると、背後からドミニクの勝ち誇った声が聞こえてくる。


「私が力を手に入れる瞬間を、そこで這いつくばって見ているが良い」

『アハハハハハ、方向的に月斗ちゃん見えてないわよ』


 馬鹿笑いするアスモデウスを尻目に、月斗はデュナミスに合図をする。


「やれ、デュナミス!」


 意識を失うなどの不測の事態を想定し、月斗は胸部に発信機を取り付け、その権限をデュナミスに渡していた。


『了解しました』


 左目から発せられた天使の力が、エーテル式発信機を作動させる。

 電磁妨害をされていようと発せられた信号はバックパックに届き、底の部分に仕掛けられた高性能爆薬を炸裂させる――はずだった。

 振動も衝撃もなければ爆音も聞こえない。信号は確かに発せられたはずだが、爆発は起こっていなかった。


「おい、ドミニクはなにをしている! なぜバックパックが爆発しない!」

「爆発!? え、えっと、あっ! 凍ってるのです! ドミニクさん、拾う前にリュックを凍らせちゃってたみたいなのです!」


 極低温で爆弾に使われている電池や電子部品を無効化したり、薬品の反応速度を遅くするのは爆弾処理の常套手段だ。実際、バックパックの爆弾は送受信にはエーテルを使っているが、起爆は電子制御によるものだった。


「わざわざバックパックに戻したのが気になってな。念の為と思ったが正解だったか」


 ドミニクがあざ笑う。交換手順を指定して、立ち位置を入れ替えさせたのも、ルスキニアの救出時に完全な死角を作るためだったのだ。


「この勝負、私の勝ちのようだな。魔術ではなく、科学の勝利というのが実に痛快だ」


 凍りついたバックパックを手にしたドミニクは、悠然と月斗とルスキニアの横を通り過ぎていく。兵士たちは宝物を手にした英雄を歓喜の声でもって出迎えた。


「ジークハイル! ジークハイル! ジークハイル!」


 悲願が叶ったと感極まっているのだろう、胸が張り裂けんばかりの大合唱だ。涙を溢している者さえいる。そんな兵士たちの前にドミニクは凍りついたバックパックを掲げた。


「これより戴冠式を執り行う! 革命への前奏曲を聞くがよい!」


 バックパックが氷ごと砕け、鮮やかなサファイヤ色の本が姿をあらわす。ドミニクが部下から聖十字架を受け取ると、永く待った再会の時を喜ぶように本は輝きを放ち始めた。


「さあラジエルの書よ、神々の秘術を私に授けるのだ!!」


 聖十字架を押し当てられたラジエルの書が空中に浮かび上がり、ひとりでにパラパラとページが捲れていく。聖十字架が鍵となり、ついにラジエルの書の封印が解かれたのだ。


『急激に魔力が高まっています』

『あ、この嫌な感じ思い出したわ』


 デュナミスとアスモデウスが揃って不吉なことを口走る。一方で敵の兵士たちは渦巻く力の影響で、熱に浮かされたように賛美の声を上げ続けていた。


「おおおおおおお! ついに神聖大ローマ帝国ドミニク皇帝が誕生されるのだ! ジークハイル! ジークハイル!」


 突き上げられる敬礼の手を他所に、這いつくばったままの月斗は歯噛みしていた。


「くっ、ドジッたぜ。今は儀式の最中で力を引き出してるだけだが、どうせろくな事にならない、お前は早く逃げろ!」


 月斗はルスキニアを睨みつけて言った。ラジエルの書を奪われ、こいつまで失うようなことになっては、何のためにドミニクの誘いに乗ったのか分からない。


「逃げるのなら、月斗さんも一緒なのです!!」


 ルスキニアは涙を振り払うようにして首を振り、月斗の右腕を引っ張った。右腕だけなら動くが、強力な磁力に捕らわれた月斗の身体はビクともしなかった。


「バカか! お前の力でどうにかなるかよ! それに俺はひとりだって、ぐっ!」


 諦めたわけではないと、左腕を腹の下から引き抜こうとするが上手くいかない。


「左腕を動かせばいいのですね!」


 今度はこっちだと、ルスキニアは月斗の身体をひっくり返そうとするが、トリモチのように離れない。


「メイドだったら、俺の言うことを聞け!」

「聞けません! 諦めません! 一緒に帰るのです!」


 振り払おうとする月斗の右腕を、ルスキニアはギュッと抱きしめて言った。

 まっ平らな胸のくせに不思議と何かに包まれているような心地よさで、月斗の強張っていた身体からふっと力が抜けた。


「ったくよ……頑固天使が」

「そうなのです、わたしは頑固なのです!」


 さっきから一ミリも動いていないにも関わらず、ルスキニアは月斗の腕を引っ張り続けた。

 こいつには何を言っても無駄だと分かった。だったら、二人で無事屋敷に戻るために力を合わせるしかない。


「一瞬でいい、俺の身体を持ち上げてくれ。そうすれば、左手の波動砲をぶっ放せる」

「わかったのです! んぬぬぬぬっ! このぉお、ふぐぅううううう!!!」


 月斗の身体に跨ったルスキニアは、学ランを掴んでカブでも引っこ抜くように力を込める。がに股で踏ん張る姿には天使らしさの欠片もないけれど、初めてこいつが頼もしく見えた。


「ふぬぬぬぬ、絶対に持ち上げるのです! わたしの全部を使ってもぉおおお!」


 ルスキニアの魔力が高まり背中から羽が伸びていく。僅かだが身体の持ち上がる気配があった。


「あと少しだ!」

「はいなのでぇ、ヒァアッ!」


 悲鳴を上げたルスキニアの手が緩み、月斗と床の隙間がピタリと塞がってしまう。


「どうした?」

『ルスキニアの首輪が反応していました。魔力に反応して激痛が走る呪具だと推定します』

「一旦、魔力を使うのはやめろ。いま他の方法を考える」

「大丈夫なのです! 痛いのは、ぐぅ、得意なのですぅぅ! ヒィッ、ぐぅう、あっ、アァアアアッ! 負けないのですぅうううう!」


 ルスキニアは苦しみの叫びを上げながら、それでも魔力を使い続け月斗の身体を引っ張る。

 ドミニクたちの儀式も、ルスキニアの苦しみを供物にするかのように盛り上がりを見せていた。


「見える、見えるぞ! 世界の真実が! これで力を手に入れられる! こんな簡単なことで、神々に匹敵する力がっ!」

「ジークハイル! ジークハイル! ジークハイル! ジークハイル!」

「偉大なる反逆者にして地獄の王よ! 我が身に宿れ!」


 熱狂の滾る様子はロックスターを崇めるフェス会場のようであり、それに呼応しドミニクの魔力も異常に高まっていた。

 ルスキニアにもその緊張感は伝わり、握る手により一層の力を込めていた。小さな身体でどれほどの痛みに耐えているのか、指先が震え、玉の汗がぼたぼたと落ちてきた。


「うぐぅううううっ、わたしは、月斗さんの、お役に立つのですぅううううううう!! こんな痛みぐらいぃいいい!」


 祈りではない強い意志の言葉に、ルスキニアの翼が反り返るように大きく広がった。今までは鳩のように慎ましかったそれが、雄々しい鷹のように大気を掴んだ。


『素晴らしい翼です』


 デュナミスが思わず賛美の言葉を漏らした。


「あがってぇええええええええええ!」


 ルスキニアの全身全霊をかけた羽ばたきが、ついに磁力を超え月斗の身体をを持ち上げる。

 このチャンスを絶対無駄にはしないと、月斗は引きぬいた左掌を床へと向けた。


「波動砲はっっしゃぁあああああ!」


 放たれたエネルギーは爆発的に広がる熱線となって、足元の鉄板を消し飛ばす。膨大な光のなかで露わになった巨大電磁コイルも一瞬後には溶けて、原型を失う。

 コイルのサイズも形状も分からなかったので、月斗はとにかく最大出力でぶっ放していた。

 そのせいで波動砲は、電磁コイルではとどまらず下層を貫き、船底にまで達する大穴を開けた。


「ひあぁあっ!」「おわっ!」


 全力で上へと引っ張っていたルスキニアが、力の均衡が崩れたせいで体勢を崩してしまう。身体を掴まれていた月斗も一緒になって床に転がった。


「や、やったのですぅ~」


 緊張が解けたルスキニアはヘロヘロと膝を崩し、ぺたりと床に座り込んでしまった。


「上出来だ」


 月斗は右手でルスキニアの頭をガシガシと引っ掻き回した。


「えへへ、初めて月斗さんに褒められたのです」


 学園の生徒や屋敷の人間に対してのように、上手い褒め方ができなかったけれど、ルスキニアは満足そうだった。


「朝礼で表彰してやりたいとこだが、本番はここからみたいだな」


 ルスキニアの首輪を破壊した月斗は、後ろを振り返り禍々しい気配と対峙する。


「本番? 認識が違うな、すでに終末は始まっている」


 瞳を爛々と輝かせたドミニクは、道端で説教を行う宣教師のようにラジエルの書を左手にしている。

 落ち着きを払った様子をしているが、漏れ出る凄まじい魔力だけで空気中の水分が凍りつき、ダイヤモンドダストが起きていた。

ラジエルの書の力を開放したドミニク。

月斗とルスキニアは恐るべき相手とどう戦うのか。


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