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囚われのルスキニア

前回のあらすじ

同僚のメイドを助けるために戦場に飛び込んだルスキニア。

ドミニクに見つかり囚われてしまう。

 銃弾の合間に魔力の矢がクヌギの枝を吹き飛ばし、月斗が一秒前まで立っていた木の幹を焼き抉る。

 樹上から死角をついたつもりだろうが、月斗の左目にはその魔力の高まりがしっかりと見えていたのだ。


「ロケット花火のほうがまだ役に立つぞ。術ってのはこうやって当てるんだよ」


 印を切った左手に雷撃の力を集中させる。


「奔れ、雷神!」


 撃ち出したワイヤーアームが枝葉の間を上昇し、次弾を準備していた敵兵の腹を殴りつけた。

 ただでさえ強力な鉄拳に、さらに電撃のおまけ付きだ。敵兵は白目を剥いて、そのまま後ろへと倒れていく。


「いまだ、撃てぇっ!」


 大ぶりのモーションを隙と見たのか、同士討ちも構わず敵兵たちが四方八方から銃弾を撒き散らす。

 しかし、月斗の身体は急速に上昇し、銃弾はかすりもしない。樹上で倒れる男の胸ぐらを掴み、滑車の要領で浮き上がったのだ。


 発砲音を手がかりにして月斗は右手に握ったアマツカゼの銃口を定め、トリガーを引く。二つの茂みに二発ずつ打ち込み、二人が断末魔の悲鳴をあげたところで弾倉が空になった。


「デュナミス、あと何人だ?」


 地面に飛び降りながら月斗は尋ねる。一応カウントしているが、見通しの悪い場所での乱戦では自信がない。


『残り6人です』


 倒した人数に対して、時間がかかってしまっていた。敵部隊の攻撃が消極的だったのが原因だ。ただ、そのお陰で佐々木隊の負傷者を迅速に、屋敷の中に搬送できた。


「まあいい、とっとこっちを片付けてあのジジイに引導を渡してやる」


 月斗はワイヤーを巻きとった左手で弾倉を交換しながら、敵の気配を探る。

 発砲音が途切れ、木々の葉が揺れ擦れる音が遠ざかっていた。まだ時間稼ぎをするつもりかと思ったが、様子が明らかに違う。ちらりと見えた後ろ姿は、銃をおろし一目散に屋敷から遠ざかっていた。


「まさか東棟が落ちたのか?! 川岡、答えろ!」


 困惑した月斗は必要以上の声量でインカムに向かって尋ねる。鹿野が率いているのは精鋭部隊だ。たとえドミニク相手でも引けを取るとは思えない。

 その考えを裏付けるように、川岡から返事が返ってきた。


『月斗様、東は健在でございます。監視カメラとセンサー類の反応から、全ての敵部隊が撤収を始めました』

「なにがあった?」


 完全に想定外の事態だった。ドミニクがラジエルの書を狙っている以上は、この一戦に命運をかけてくるはずだ。簡単に諦めるとは思えない。

 月斗もそれを承知で、今日まで様々な準備を進めてきたのだ。


『それが……』


 川岡が珍しく言い淀んだ。何かマズイことが起きたのは間違いない。


『私からご報告申し上げます』


 こちらも普段は決して出しゃばったりしない鹿野が会話に割り込んできた。いつもはキリッとした冷静な声も僅かに動揺している。


『ルスキニアが敵に捕らわれました。私のミスです』


 月斗はグリップが手に平に食いこむほど強く、アマツカゼを強く握りしめた。


「……いや、俺の判断ミスだ。真っ先にあのポンコツを確保すべきだった」


 噛み締めた奥歯がぎりぎりと嫌な音をたてた。


『すでに足の早い部下に追跡させています。ヘリの準備ができ次第、上空からも捜索を行います』


 鹿野がすでに手をうっているのなら、今はこれ以上できることはない。


「無理はさせるな。攫ったということは、じきに交渉の連絡があるはずだ」


 自分に言い聞かせるように月斗は、努めてゆっくりと落ち着いた声を装った。


「それより負傷者の治療と病院への搬送が先だ。ヘリが必要なら、そっちに回せ」

『畏まりました。月門様のご温情に感謝いたします』


 鹿野の声が揺れていた。通信の向こう側で頭を下げているのだ。


「川岡は警察への対応と情報提供を要請しろ」

『はい、畏まりました』


 指示を出し終わった月斗はインカムのスイッチを切ると、アマツカゼのトリガーを引いた。


「っっがぁああああああああああああ!」


 換えたばかりの弾倉を撃ち尽くすまでの数秒間、月斗は自分の愚かさを叫び続けた。


 結局、追跡は失敗に終わった。

 警察からの情報提供も役には立たずドミニクたちの足取りは途絶えてしまった。

 月斗は戦いの事後処理をしながら、連絡を待っていた。慌てることはない。むしろ異国に出向いてきているドミニクたちの方が焦っているはずだ。そう理性に言い聞かせ続けた。


 そして一通のメールが月斗宛に届いたのは、夜半を過ぎてからだった。


=======


 鉄板に堅いものをぶつけたような激しい音に、ルスキニアは身体をビクッと震わせ目を覚ました。

 首に違和感があったので、触れてみると硬い感触があった。首輪なんてつけていた記憶はないけれど……。


「ん~? なんれしょうか……っ!!」


 ハッとして身を起こすと、周囲を鉄格子に囲まれていた。

 猛獣を閉じ込めるような鉄の檻の中だ。ベッドひとつより少し広いぐらいのスペースで、立つことはできるけれどジャンプをしたら頭をぶつけてしまいそうな高さだ。


 檻の外は広くて天上も高く、戦車や兵隊さんの姿が見える。

 倉庫のようだ。身体を起こして気づいたけれど、地面が揺れていた。まず地震かと思ったけれど、もっと規則正しくゆっくりだった。


 さっき聞こえた音の出処を探ると、檻の横に一丁の銃が落ちていて、兵隊さんがそれを持ち上げようとしていた。兵隊さんは両手で銃身を掴み、カブを抜くかのように力を込めているけれど銃は床から離れようとしなかった。


 そうやって、しばらく引っ張っていると留め具でも外れたかのように、唐突に銃が床から剥がされ、勢い余った兵隊さんはゴロゴロと後ろに転がっていく。

 不謹慎だと思いつつも、ルスキニアは少し笑ってしまった。


「お目覚めはいかがですか、お嬢さん」


 背後からの声に振り向くと、紳士然とした灰色のコートの男性が立っていた。自分を魔術の氷に閉じ込め攫った人だ。

 あらためてちゃんと見ると、シリアで月斗さんと戦っていた人だとも分かった。となり部屋から覗いていた時に、月斗さんにドミニク・フーゲンベルクと呼ばれていたことを思い出す。


「わたしを捕まえても意味はないのです。ここから出して下さい」


 ルスキニアは冷たい鉄格子を掴む。


「意味を決めるのは貴女ではありませんよ」


 ドミニクさんの口調は優しげだが、有無を言わせぬ迫力がある。月斗さんも人に命じたりすることに慣れているけれど、ドミニクさんの雰囲気はそれとはまた別で懐柔するように響く。


「なら勝手に帰らせてもらうのです! 『光のけ――」


 神聖術を使おうと力を高めた途端、バチバチッと音がして首に鋭い痛みが走った。


「きゃぁあっ!」


 驚いて力を止めると痛みはすぐに治まる。


「念のため魔力は封じさせてもらいました。少々デザインの悪い首輪ですが、なにもしなければ痛い思いをせずにすみます。あなたは大事な人質ですから、いい子にしてくださいね」


 聞き分けのない子供を注意するように、ドミニクさんはルスキニアの目を見て言った。


「……月斗さんは来ないのです」


 ドミニクさんの思惑を否定する言葉は、術封じよりも強い痛みとなってルスキニア自身の胸の奥に響いた。

 過去を覗き見るなんて最低のことをしたのに、まだ月斗さんにきちんと謝ってもいない。そんな酷い天使を助けにくるはずがない。見捨てられて当然なのだ。


「それはどうでしょうか? ひとは自分で思っている以上に、他者から愛されているかもしれない」


 ドミニクさんは過去を振り返っているかのような遠い目をして言う。

 哀愁に満ちた目をして愛を語れるひとがなぜこんな事をするのか、ルスキニアにはその理由が想像もつかなかった。

 ただできることなら、月斗さんとこれ以上はもう戦って欲しくないと思った。


「絶対に来ないのです……」


 それは天に向けたルスキニアの祈りの言葉だ。

 人質として価値があると勘違いされて、自分が意味もなく閉じ込められているいるだけならそれで良いと思った。


「彼は来る。絶対に」


 そう言ったドミニクさんの顔つきは自信に満ちていた。


=======


 太腿の仕込みロケット弾が正しく装填されていることを確認した月斗は、一度右脚を伸ばして膝を嵌めこんでから立ち上がる。


 傍らに置かれた籠から黒いスラックスを取り出し、履いていく。洗いたての生地は滑りがよく、それでいて熟練のアイロンによって綺麗な折り目がついていた。


 次に袖を通した白いシャツは程よく糊が効いていて、実に月斗の好みの仕上がりになっていた。


 トレーニングルームの隣りにある『更衣室』には、各種銃器や爆薬、映画のスパイ道具さながらの特殊装備、そして呪札や聖水など魔術道具が並んでいる。


 その中から月斗はフックに引っ掛けられていた黒革のガンベルトを手にとった。

 紳士としてシャツをズボンの中へ入れてからボタンを留めて、腰にガンベルトを巻く。


 銃火器のショーケース前に移動し、アマツカゼを手に取り背面のホルスターにぐっと押し込んだ。

 ホルスターは蝶番のように稼働するので右手でも左手でも簡単に抜くことができる。

 ベルトの左右のポケットに二つずつ計4個の弾倉をセット。西部劇のガンマンではないので早撃ちスタイルではなく、継戦性能重視だ。


 次に月斗はずらりと並んだ黒い呪印学ランの中から、一番手前のものを手に取り、これに袖を通す。防弾仕様で、繊維に耐熱加工がされたものだ。


 右手には呪印グローブをはめる。アスモデウス相手には気休めだが、式神を使役する術を使う負担が多少減る。


 棚から呪札の束や人工ソーマのカートリッジを取り出し、それを学ランの内側のポケットに突っ込んでいく。前身頃が多少厚みを増してしまうが、学ラン自体がもとから大きめに作られているので、前ボタンは余裕をもって閉めることができた。


 身支度が済ませた月斗は、最後に黒いカーボン製のバックパックを背負った。厚みがあるのは、中にはラジエルの書以外に色々と入っているからだ。


 さて出かけるかという所で、テーブルに置かれた手榴弾が目についた。ついでと左右のポケットに1つずつ突っこんだ。

 端末で時間を確認したついでに、ドミニクからメールが目に入ってしまった。


“天使を返して欲しくば、ラジエルの書を持って沖合に停泊中のケーニヒ・ヴィルヘルムまで一人で来い”


 全ての準備を終え玄関ホールに降りた月斗を、使用人たちが一礼でもって見送った。


「ちょっとマヌケを迎えに行ってくる。腹を空かしているだろうから、パイでも焼いておいてくれ」


 そう言い残し、月斗は颯爽と屋敷の玄関扉をくぐった。

戦いは最後の舞台へ。

月斗はルスキニアを助け出すことができるのか。

船上でついにラジエルの書と聖十字架が揃う。


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