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天使と暴君4

前回のあらすじ

正体がバレバレの天使ルスキニア。

クズイアル様に言い渡された監視任務はどうなってしまうのか?!

「天界からの監視だってバレバレなんだよ、タコマヌケ天使」

「えっ……えっ、な、何を言ってるのですか、わ、わたしが天使だなんて、そんなことあるはずないのです! あっ、あっ、そうです! 天使に見えるぐらいカワイイってことなのですね! あ、月斗さんのその微妙な表情はわたし間違っちゃってますね、えっと、えっと、あ、別にプロモーションに自信があるとか、あうぅ、そういうのじゃないのですぅっ!」


 どうにか取り繕わないと、と焦れば焦るほどルスキニアは自分でも何を言ってるのか分からなくなっていった。


「お前、何も聞いてないのか?」


 少し意外そうに言った月斗さんが左目を一度ぐっと強く閉じてから再び開く。

 瞳の色が黒から金色に変わっていた。さらに左目を中心として目尻の方向に向かって、羽を思わせるオーラがたなびいている。


「な、な、な、なんで人間が天使の力を?!」


 純白のオーラはルスキニアの背中の羽根と同じように神さまから力を授けられた証だ。


『私が彼の左眼となっているからです』


 性別は定かではないけれど、平板で少し早口な声が頭に直接響いた。月斗さんに抱きついてしまった時に聞こえたのとは別の声だ。


「だ、誰ですか?! ハッ、分かりました! 月斗さんにとりついている悪魔ですね、姿を表しなさい!」


 とりあえず拳を握ってファイティングポーズをとってみると、月斗さんがなぜかプッと吹き出した。


『私は悪魔ではありません』


 冷静に訂正する声とともに、うず高く積まれた書物の塔の天辺に一羽の白い鴉が現れた。


『力天使デュナミスです。お見知り置きを、我が姉妹』


 白い鴉は紳士が腰の前後に手を当ててお辞儀するように、両翼を器用に前後させて軽く嘴を下げた。精神体だからこそ可能な仕草だ。


力天使パワーズ?!」


 ルスキニアは素直に驚きの声を上げた。力天使といえば天に弓引く堕天使や、人間を堕落せしめんとする悪魔と日夜戦い続けている超エリートだ。

 人間世界で言うところの騎士団長にあたるぐらい偉い役職でもある。それがなぜ人間の身体に取り憑いているのか、ルスキニアにはさっぱり分からなかった。


『あなたの名前は?』


 そんなルスキニアの困惑を無視して、デュナミスさんは平然と尋ねる。起伏の少ない声に促されルスキニアも少しだけ落ち着きを取り戻した。


「わたしはルスキニアと申します! あっ、所属は第一天シャマインで、えっと、えっと、ただの天使です!」


 思わず背筋をピンと伸ばしたルスキニアはしどろもどろになりながら答える。

 言ってから、自分で天使だと認めてしまったことに気づいたけれど、もうそれどころではない。


『そう畏まる必要はありません。事情があって今の私は本来の役職を離れています。堕天したわけではありませんが非常に不完全な存在です』

「は、はい……?」


 デュナミスさんは少々回りくどい言い方をする人のようだ。

 そんな二人の一連のやりとりを見終わった月斗さんは、呆れたような表情で耳の裏を掻く。


「今度の奴はとんでもないポンコツだな。しかも第九ヒエラルキーの天使を送り込んでくるとは、いよいよ天界も人手不足か」


 月斗さんの天界を馬鹿にしたような言い方にちょっとだけムカッとしたけれど、それよりも最初の一言が気になった。


「あの今度ってどういうことなのですか?」

『ふふ、生け贄のウサギちゃんはあなたで三人目ってことよ』


 沈丁花のように甘く艶っぽい女性の声がし、月斗さんの右腕に絡みつく紫色の蛇が姿を現した。その身に纏う禍々しいオーラが、精神体の正体を雄弁に語っている。


「出ましたね、悪魔!!」


 身構えたルスキニアは神聖術を使おうと両手を突き出し、親指と人差し指で三角形を作った。神さまから授かった天使の力を両手に集中させる。


『威勢のいい娘も好きよ』


 床に降りた邪悪な蛇は、ルスキニアの威嚇などまるで気にせず、にょろにょろと急速に近づいてくる。


「邪悪よ退くのですっ、光の盾!」


 三角形の中心に集まった光が盾の形になる。


『食前酒とは気が利くわね』


 蛇は顎をガバッと開くと、出現した盾をバクバクと食べてしまった。


「そんな……」


 唯一の攻撃術を破られたルスキニアに、蛇の接近を止める術はなかった。縮めたバネを伸ばすように跳躍した蛇は、ルスキニアの左足に絡みついた。

 精神体とはいえ、強い力を持っているので霊的な干渉がそのまま物理的な力として作用してしまう。


「きゃぁっ、いやです! 離れて下さい!」


 左足をぶんぶん振り回すが巻き付いた蛇はびくともしない。それどころか、ぬるりとした感触とともに、太ももを這い上がりローブの裾から、中に入ってきてしまった。


「ちょ、ちょっと、何するのです?! ひあぁあっ!」


 もぞもぞと下腹部を這いずり上ってくる蛇を、ルスキニアは手で押さえようとするがその動きは止まらない。


『三人目って言ったわよね、前の二人はこうやってあたしが食べちゃったのよ♪』

「ふわッ、う、嘘はやめるのです!」


 ひんやりと冷たい蛇皮がローブの下の素肌を撫で回す。その気持ち悪さにルスキニアは身体をぶるっと震わせた。


『ふふふっ、天使ってとっても美味しいって知らない? ぷりんとしたお肉を一口食べると、頭の奥のほうがジンジンしちゃうのよ』


 蛇の小さな舌がルスキニアのおへその穴をチロチロと舐め回す。穴の中をヌルっとしたものが出たり入ったりするこそばゆさにルスキニアは身を捩った。


「あっ! くすぐったっ、ひぃっ! わたしは美味しくないのです! お肉もないし、昨日はお風呂に入らなかったのです!」


 ローブの上から押さえても、ルスキニアの必死さを嘲笑うかのように蛇の顎は胸元まで達してしまう。


『我慢できないわ。未熟な果実を味見しちゃおうかしら』


 襟から首を出した蛇は嫌らしい笑みを浮かべると、ルスキニアの鎖骨に牙を突き立てた。


「ひゃぁああっ! あっ……」


 鋭い痛みは一瞬だった。牙が完全に肌に吸い込まれるとむず痒さへと変わっていく。そして足の力が抜けていくような浮遊感に襲われた。


「脅すのはそのへんにしておけ、アスモデウス」


 つかつかと歩み寄った月斗さんは躊躇なくルスキニアの胸元に左手を突っ込むと、アスモデウスと呼ばれた蛇をむんずと掴みあげ握りつぶした。

 濃度の薄いエーテルでできた精神体は簡単に霧散した。


『次は邪魔者が寝てるときに遊びましょうね』


 消えたはずのアスモデウスの絡みつくような視線を感じる。鳥肌の立ったルスキニアは乱れた胸元を押さえながら、もう一方の手で月斗さんの右腕を指差した。


「はぁ……はぁ……あ、あなたは危険です! 草薙月斗さんを困らせていないで、早く身体から出て行くのです!」

『あら、月斗ちゃん困ってたの?』


 アスモデウスは他人事のように白々しく言った。


「そうだな、確かに困ってるが今すぐに出て行かれるのも困る」


 月斗さんはなんとも言いがたい微妙な表情をしていた。デュナミスさんのこともあるし、単純な悪魔憑きではないのかもしれない。


「理由は分かりませんが、わたしで良ければなんでも力になります! ちょっとだけなら神聖術も使えるのです!」


 この邪悪な悪魔をどうにかすれば、監視の必要もなくなるはずだ。そうすれば、デュナミスさんと一緒に天界に帰れるとルスキニアは思った。


「お前じゃ蝿一匹退治できないだろ。大人しく天界に帰れ」


 面倒くさそうに言う月斗さんだけれど、きっと本心では助けを求めているに違いない。他人に迷惑を掛けたくなくて、遠ざけるような態度をとっているのだ。


「わたしのことは大丈夫なのです! この事態を解決することこそ、神さまのご意思に違いないのです!」

『頼もしいわね。貴女がどんな声で啼くのか今から楽しみよ』


 姿の見えないアスモデウスが怪しい気配を放っている。蛇腹がズルズルと肌を撫で回す感触を思い出して、ルスキニアは身体をぶるっと震わせた。


「ま、負けないのです!」


 ルスキニアが自分に言い聞かせるように言うと、月斗さんはシッシと犬でも追い払うように手を振った。


「いや、負けませんじゃなくて。おまえは諦めて帰れよ」

「絶対に帰らないのです!」


 ルスキニアはダンッと床を踏みつけると、大声で啖呵を切った。

天使との共同生活が始まります。

次回は明日の18時頃、投稿予定です。


【宣伝】講談社ラノベ文庫より、高橋右手の名義で『白き姫騎士と黒の戦略家』というファンタジー戦記小説も出しています。よろしくお願いします。


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