第44回 和解、そして新生インフェリス軍
龍星が来てくれた! やはり彼は自分の傍にいて欲しかった。彼がいれば安心して背中を預けることができる! 涼夏は改めて龍星の存在に感謝した。
「流れが俺達の方に傾いて来てらぁ。このまま一気に方ぁつけるぞ!」
ガンファの声により自軍の兵が大きく呼応する。
「涼夏、あそこだっ!」
前方に一際大きな扉が見えてきた。本丸と見て間違いないだろう。涼夏は最後の追い込みと言わんばかりに一気に駆け寄り、尾の一撃で扉をぶち破った。中は―、
ガランとした殺風景な部屋である。壁際に置かれている椅子に標的―、ブラストはいた。その脇に重臣という感じに、貫禄の備えた人物が何人かいる。
「メルフィ……」
降伏宣言とも取れる呟きをブラストが漏らす。そんな伯父を、涼夏はジッと見つめた。
「勝負……ありましたわね」
涼夏は静かに、穏やかに言った。これ以上の抵抗は醜いだけだ。インフェリスの未来を誰よりも思う者として、何にも言わず黙って降伏して欲しかった。ブラストが涼夏に危害を加える気はなかったように、自分もブラストを処断する気は毛頭ない。
「ふっ……、嬉しいぞメルフィよ。これほどまでの器に成長してくれたとはな、お前ならば国を安心して任せることができる……。最後にお前と死力を尽くして戦えてよかったぞ」
妙に意味深な言葉だった。まるで大きな決意を秘めた、そんな感じであった。
「そこの龍星とやら、それからガンファ。メルフィをよろしく頼むぞ」
そう言うとブラストはグレートソードを首元に当てた。
「伯父様っ!」
しかし、ブラストが今まさに剣を動かそうとした瞬間――、
「バカ野郎っ!」
傍らの龍星が一喝した。涼夏は思わずビクッとする。龍星には自分を救出してもらった際、バルコニーでブラストが動き出す理由と目的を話しておいたのだ。
「アンタよ……、国を建て直すって誓ったんだろ? そのために涼夏が必要だって彼女に言ったんだろ? 涼夏に危害を加える気はないんだろ? 涼夏を大切に思ってるんだろ? だったらどうして死のうとするんだよ! アンタが死んだら涼夏が悲しむって分からないか? 他人が悲しむってことを考えないような奴に君主たる資格はないぞ!」
龍星が機関銃のようにまくし立てる。今までのオドオドしがちだった彼からすれば、信じられないほどの変わり映えだ。彼の横顔はあまりにも凛々しい。龍星はなおも続けた。
「アンタが涼夏を大切に思っているように、涼夏もアンタを慕ってるんだよ。一緒に国を建て直そうって気はないのかよ! アンタは国にいる時、民衆から大きな信頼を得たんだろ? それは他人の気持ちを考え、それに合った政治を執ってきたからじゃないのか? 他人の言い分をちゃんと理解できるアンタが、身内を悲しませるようなことするなよ!」
龍星の言葉が響いたのだろう。ブラストは剣を手から落とし、その場に片膝をついた。
「伯父様っ!」
涼夏は慌てて伯父の下へ駆け寄った。
「メルフィ……、すまない……」
ブラストの目頭に光るものが見えた。そんな伯父の肩を優しく抱きしめる。プレートアーマー越しとはいえ、幼少の頃に感じた伯父の逞しさと温もりは当時のままだった。
「いいのです……、いいのですよ……。過去を水に流して、また一緒に暮らしましょう……」
「メルフィ、メルフィっ!」
涼夏は伯父と抱き合った。また一緒に暮らせる、そして伯父と一緒に新しい国づくりができるんだ……。今度こそ、離れ離れになることがならないよう……。
ブラストは涼夏の肩を突き放す。そして、自分の目をキッと見つめ――、
「これより、貴女に忠誠を尽くします。姫」
こうして、忌まわしい過去は清算され、ブラストは涼夏の傘下に入ったのであった。だが、涼夏には君主となるべき、最終試練が待ち受けているのであった。




