第40回 さすがのブラスト
「突撃ぃ!」
涼夏は自分の声が轟くのを感じた。まずはインフェリス側から仕掛ける。龍星は山の中腹にある本陣から戦況を眺めていた。
マーメイドの涼夏は、マグロ軍を率いてブラスト側に突っ込む。だが、相手は前回の戦いで自分達を手玉に取ったあのエビ軍であった。こちらのホタテ軍と同じく、非常に防御力の高い外骨格を持っている。マグロ軍の速さを活かした突撃でも、そう簡単に倒せる相手ではない。その点はよく心得ていた。正攻法でどうにかなる相手ではないのだ。
「分離っ!」
涼夏の指示を聞いたマグロ軍は一瞬で軍を二分。涼夏は前半分と急上昇する。そして、頃合を見計らって急降下、真上からエビ軍を狙う。そして、地上にいる残り千のマグロ軍が、正面から突撃した。自軍を瞬時に二手に分け、二方向から攻撃する。どうやら上手くいったようで、エビ兵にもチラホラと倒れる者が見え出した。
だが、いつまでも敵に主導権を握らせているブラストではないようだった。先の戦でエビと同じく用いたイカ軍を城から突撃させる。攻撃のイカと防御のエビの一体した攻撃。
涼夏もイカ軍の動きと特殊能力には閉口させられており、押しつ押されつの攻防戦になった。
戦いが開始して一週間が経過した。ここはブラストの本拠地である城。
「メルフィめ、あの龍星という小僧と組んでからというもの、なかなかやりおるわい」
評定の間において軍議の最中、ブラストは家臣を揃えて呟いた。
「兵質は我らが上であっても、兵科の種類では向こうの方が上ですからね」
ブラストは国を興すまで大小様々の戦いを繰り広げてきた。当然、戦に継ぐ戦である。兵士達もそのような毎日であったため、実戦の数はそれはもう計り知れないくらいであった。
対してインフェリス側は、ゼーモンがあのような政治を執っているため、領土拡張はおろか、兵士の訓練さえも顧みない。となれば、兵の質において大きな差が出るのは必定であった。
戦国期において、家康の祖国・三河国の兵は猛兵の代名詞といわれるほど屈強な兵であった。それに対して信長の尾張兵は東海一弱いとの評判である。当時、三河兵一人は尾張兵三人分に値すると言われているくらいであった。今のブラスト軍と涼夏軍も同様であろう。
「殿、持久戦に持ち込めば、おそらくメルフィ様たちの疲弊は我ら以上のものになるでしょう。このまま敢えて長期戦にしてみてはいかがでしょうか?」
「ふむ、確かにな。だが、それはまずいだろう。我が軍は長引かせるだけの食料を持ち合わせてはいない。それにここはインフェリス領土、メルフィ側にしてみれば食料の調達はいくらでもできるはずだ。それを考慮すると戦を長引かせるのは、得策ではないだろう」
「私も殿に同感です。兵糧攻めにするならば敵が倒れる前に、我々の食料が底をついてしまいます。兵質においては我らの方が上、屈強さを武器に短期決戦に持ち込みましょう」
家臣の一人がブラストの意見に賛同した。
「そうだな。あまり長引かせても、我らに不利となるだけだ。早めに決めて楽にしてやろう」
ブラストの言葉に家臣達は頷いた。姪っ子をあまり苦しませたくはなかったのだ。
「よし、ではヒラメ軍を用いるべく……」
涼夏を先頭に、マグロ軍の突撃は今日も冴える。しかし、今日のブラスト勢はどこか動きが違っているように思えた。今までは平野だったのが、徐々に奥地へと誘い込まれているような感じがするのだ。この先は森林地帯である。
(あそこは確か鬱蒼と木々が生い茂る……)
ブラスト勢が後退しているように思え、一気に勢いづいたインフェリス軍。だが、涼夏はどこか敵の動きが意図的なように思えた。こうも簡単に背を向けるのはどうも不自然な気がする。
涼夏はそう思ったものの、同行しているマグロ軍は追撃をしようとする息巻いているようで、表情にもそのような気迫がみなぎっているようであった。そして、森林地帯へと突っ込む。
速さを武器とするマグロ軍にとって、樹林帯は妨げになるものが多く、正直なところ特徴を殺されてしまう。侵入して早々、涼夏は顔をしかめた。その時である。
「がはあっ!」
すぐ後ろから自軍の兵による悲鳴が聞こえてきた。ハッとして後ろを向く、マグロ軍達が次々と正体不明の者達による攻撃によって斬り倒されていった。
「いかがされましたか!」
涼夏は何が起こっているのか分からない。敵の姿がまったく見えないのだ。木々がそこら中に生え渡っているとはいえ、兵を立て続けに攻撃すれば誰かしらの姿は見えるはず。
「分かりません! いきなり兵達が倒され……」
そうしている間にも味方の損害は大きくなっていく。
「撤退です! 総員、上に逃げて下さいませ!」
涼夏はすぐさま指示を出した。敵の姿が見えないようでは、これ以上戦いようがない。自分の後に続いてマグロ軍達がこぞって昇ってくるが、相当な数を倒されたようで、見た目からして人数が出陣前よりもかなり減っているように思えた。




