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第33回 龍星とブラストの永遠よりも長い一瞬

「おっしゃぁ! 野郎共、王女はこの通り助けた! 今すぐ引き上げだ!」

 ガンファの声に兵全体から勝ち鬨の声が上がる。インフェリスの存亡をかけた一戦であるため、兵達の緊張感も相当なものだっただろう。だが、それでも一糸乱れぬその掛け声に、龍星はインフェリス兵の頼もしさを改めて実感した。やはり団結の力は強い!

 と、同時に龍星はブラストのことが気になり出していた。話を聞いてブラストという人物がカリスマ溢れる存在であると思った。しかし、同時にブラストに対して憤りを感じてもいた。どんな理由があろうと、涼夏を牢屋に入れるような奴だけは許せなかった。

 龍星は怒りに任せて拳を震わせた。今までは強大な存在を見るとビクビクするだけであったが、もうそんな情けない自分ではない。しかし、今は兵を統べるという立場でいる以上、私情に流されるわけにはいかなかった。ガンファの言う通り、一刻も早く撤退すべきである。

「敵はこの騒ぎをかぎつけ、すぐにここに来るでしょう。急いで城に戻りますよ!」

 龍星達は来た道を急いで引き返した。アナゴ兵、カニ兵、ウナギ兵はマグロのスピードにはついて来れないので、掘った穴に潜って撤退することに。だが、自分達が撤退を始めてすぐ、前方に見慣れない人影を発見した。その人影は周囲に十数人ほどの共を連れている。

「……っ!」

 龍星は直感で悟った。同時に全身に一瞬で鳥肌が立つ。眼前の人物はただならない気迫を発し、そこいらの敵兵とは何もかも違う、それこそ人外の何かがあった。まさかアイツが……?

「ちいっ! 来やがったな、ブラストめ!」

 隣を泳いでいるガンファが忌々しげに舌打ちした。この男がそのような態度を取るとはやはりそれほどの人物なのであろう。

「………………」

 目の前にいる男が涼夏を捕らえた人物である。涼夏を冷たい牢獄にぶち込んだ張本人、そう、涼夏を冷たい牢獄に……。

龍星は腹の中から込み上げてくる何かを感じていた。火山のマグマのように沸々と煮えたぎるような、理性では抑えきれない何かが……。

「っ!」

 龍星はカッと眼を見開くと剣を抜き放った。そして、そのままブラストへ向けて突き進む。

「龍星様!」

「おいっ、龍星! 何考えてるんだっ!」

 涼夏とガンファの制止の声を背中で受け流す。許せなかった……、涼夏をあんな所に入れた奴だけは……。龍星は感じていた、ブラストほどの者では自分など足元にも及ばないことくらい。だが、それでも一太刀浴びせなければ気が済まなかった。涼夏をあのような寂しい所にぶち込んだ奴だけは!

「うおおおおおおっ!」

 龍星は恐怖を抑え込む激しい怒りに、鬼を軽々と踏み砕く明王の如き形相となっていた。ブラスト目掛けて脇目も振らずに突き進む。

「いい闘気だ。それこそインフェリスを統べる軍師の姿よ!」

 ブラストも得物であるグレートソードを抜いた。自分のと比べて長く、重量感もありそうだが、ここで退くわけにはいかない。憤りが今の自分を突き動かすエネルギーとなっていた。

 龍星は剣をブラスト目掛けて振り下ろした。同時にブラストもグレートソードを振り上げる。

“ガキインッ”

 鋼鉄同士がぶつかり合い、耳をつんざくような激しい金属音が生じ、火花が飛び散る。

 龍星はしかと見た。最早、戦いは避けられないであろう、これまでにない巨大な敵の確固たる姿を。凛とした表情に、決して揺るぐことのない信念を秘めているであろう眼光と、真一文字に結ばれた口元。そして、得物がぶつかり合った時に受けた激しいまでの威圧感。

「龍星っ!」

 ガンファの一喝で我に返った龍星。その瞬間、自分が何をすべきかを思い返した。龍星は再びマグロを走らせ、ブラストの傍らを離れる。そして、脇目も振らずに城への道を突き進んだ。


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