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からくり屋敷の悪夢  作者: 鳳仙花
・序章
7/22

発車

更に翌日の兄の捜索当日、俺は荷物を持って住宅街の一つである自宅から出る。

朝日が出ているが外はまだ薄暗く、肌寒くもあった。

冬だったなら間違いなく真っ白な息が吐けそうだ。

俺はそんな朝の気持ちいい空気に包まれながら、近くの優羽の家へ寄った。

早朝だから他の家族の迷惑も考えて、チャイムは鳴らさない。

代わりに携帯電話で優羽に合図を送る。

優羽に通話をかけて、一度だけコールをかけて切るものだ。

これは通学する時とかにも使ってる合図で、早くこっちに来いって意味で使っている。

つまりはただの俺の呼びかけだ。


俺は近くの塀に寄りかかり、数分だけ優羽が来るのを待つ。

すると玄関の扉の開閉の音が聞こえたと同時に、優羽が頭を出してきた。

優羽の頭からアホ毛みたいな寝癖が出ている。


「おっはよ煌太!今日は絶好の捜索日和だね!」


「あぁ、よく分からんがそうだな。あとおはよう。で、お前の荷物はそれだけか」


俺は優羽の手荷物に視線を移した。

ただの小さなショルダーバックだ。

女性なら財布や化粧道具を入れただけでいっぱいになりそうなほどに小さなバック。

正直意外だ。

優羽のことだから遠足感覚でおやつをスーツケースにでも詰めて、沢山持ってくるのかと思っていた。


「うん!中には秘密兵器が沢山入ってるんだよ!あと逆に私たちが捜索対象になっても大丈夫なのような物もあるから!楽しみにしててね!」


「そうか。特に優羽は一人で遭難しそうだからな。これで優羽が遭難しても心置きなく帰れるな」


「そうだね!煌太、安心して遭難してよ!」


なかなか朝から物騒な話の上に、意図的に会話を噛み合わせていない。

優羽がうまく話を誘導させようとしているのが分かる。

あからさまながらもすり替えようとするのは、かなり度胸があるやつだ。

そんな変な会話も打ち切り、俺は一度あくびをしてから優羽と肩を並べて歩き出す。

向かう先は翔さんと出会ったゲームセンターだ。

そこが集合場所となっていた。

でも時間からして開店してないために、厳密には集合場所はゲームセンター前だ。


「今日は寒いねぇ!ほら白い息!」


優羽は歩きながらそう言って大きく息を吐いて見せた。

なにも白くはない息だが、優羽は楽しそうに笑っている。


「何も白くないぞ。でも寒いのには同意見だ。早朝だからな、これから暖かくなるだろ」


「そうかな!煌太が言うならそうかも!けれど捜索捜査している時に雨とか降ってきたら嫌だよね!あ、かっぱとか持って来た方が良かったかな?」


「あー、そうだな。って俺はそもそも折りたたみ傘とかすら持って来てないぜ。雨対策は皆無だ」


俺が持っていくのは懐中電灯と軽食、それにちょっとした道具くらいで天候への対策はない。

一応雨のこととかは考えていたが、別に濡れても死ぬわけではないから、俺は天候を気にするのをやめただけだ。

それに変に荷物がかさばるのは苦手だ。


「裕太達はもう来てるかな?一番乗りがいいから急ごう煌太!」


「別に競っているわけじゃないんだから一番乗りじゃなくてもいいだろ。って、いきなり走ったら転ぶぞ?」


「転んでも煌太が助けてくれるから平気だよ!さぁ行くよ!集合場所に向かって走ろうじゃないか!」


優羽はそう言って、駆け足でゲームセンターの方へ向かって行った。

その跡を俺は遅れて仕方なしに走って追っていく。

優羽は女子だが、俺からみて異常に体力があるようにずっと走り続けていた。

さすがに全力疾走というわけじゃないが、それでも走り続けれるなんて凄い話だ。

しかも汗や疲れた様子はなくて、途中で俺に激励を飛ばすぐらいだ。

もはや元気すぎるとか、そういう言葉では済まないような気すらする。


「煌太置いてくよー!ほら早く早く!一番乗りになれないぞー!」


「お、おい!そんな急いでも意味ないだろ!ちょ…ちょっと待っ…てろ!」


なんであいつは走りながら大声を発せれるんだ。

しかもただの呼ぶかけじゃなくて、会話として叫んでる。

喉が辛くなったりしないのだろうか。

俺は何とかといった所で優羽を追いかけていると、気づけばゲームセンター前に着いていた。

優羽は最後にスキップしてゲームセンターの入口前で足を止めた。

そして息切れもなく両腕を快晴の空へ伸ばして、満面の笑みを浮かべながら喜びの声をあげていた。


「私がいっちばん~!さすが私!また優秀な能力を発揮させて世間を驚かせてしまいましたよ!伊達に次期オリンピック選手と呼ばれてないね!ねぇ煌太!……あれ?」


優羽は俺に対してボケたつもりで言ってたんだろうが、振り返れば50メートルほど距離ができていた。

俺は息切れ切れで遅れて優羽の所に着いて、荒れた息を整えながら遅れながらも突っ込んだ。


「はぁはぁ…お前は……、いつからスポーツ選手に…はぁ、なった…んだよ…!」


「あらあら、煌太大丈夫!?私の秘密兵器その一の飲料水でも飲む?口移しで」


冗談が言えるほど余裕があるとは本当に驚く。

単に俺が体力ないにしても、優羽が一切疲れてないのはおかしいだろと言いたくなる。

俺は生唾を飲み込んで、優羽の方を向いて真面目な顔で囁いた。


「……へぇ、口移ししてくれるのか?本当に?」


「え?あ、う…うん!私の神聖なお口で煌太の喉の渇きを麗してあげるい!」


「なら、して貰おうかな…」


俺がそう言って優羽の口に顔をわずかだけ近づけた。

すると優羽は一気に顔を赤くして慌てふためく。

視線も泳いで俺の顔を見ない。


「へっ!?あれあれ!?煌太おかしいよ!らしくないよ!それにこれ口移しじゃなくてただの…その…!そんな…!あぅっ……!」


顔を近づけていけば優羽は体を萎縮させるように力んで身を固くして、目を思いっきり瞑る。

あと少しで顔が密着するところまで行けば、優羽は完全に固まって緊張しているようにすら見えた。

触れるまで20センチほどになった時、そこで俺は優羽の頬を軽く指で叩いた。


「微妙に痛いよっ!?」


「ったく、俺が本当にこんな真似するかよ。俺を余計に疲れさせたお返しだ。ついでにもう片方もくらっておけ」


俺は優羽のもう片方の頬も同じように、指で軽くビンタしてやる。

それに優羽はあうあう言いながら少しだけ痛がっていた。


「ちょっと期待した私が馬鹿だったよ…。うーんもう冗談は言わないから離して~」


「懲りたなら少しは淑女らしくするんだな」


俺は優羽を開放するように二歩ほど離れる。

それから優羽は顔を赤くしたまま、静かに自分の両頬を撫でていた。

それからしばらく待機していると、裕太と香奈恵の二人が遅れてやってきた。

裕太が香奈恵と二人きりで行動とは珍しいこともあるものだ。

俺がそう思って眺めていたら、裕太は俺に近づいていきなり状況を説明してきた。

その表情は朝だというのに苦々しいものだった。


「よぉ…煌太。あいつ…、香奈恵が朝から俺の家の前で待ち伏せしていたみたいでな。家から出た直後に声をかけられたんだよ。あまりにも驚いて心臓が飛び跳ねたぜ」


「あ、朝から待ち伏せか…。確かにいきなりそんなことされたら怖いな。香奈恵も張り切ってるんだろけど、やりすぎだな」


「だろぉ?まったく堪ったものじゃないさ!しかも俺は朝が弱いってのに、香奈恵は上機嫌でマシンガントークしてくるしよ」


俺は香奈恵の顔をチラッっとだけ見てみたが、裕太の言うとおりに上機嫌でかなりのご満悦だった。

そんな香奈恵はいつもの長い茶髪を束ねていて、ほとんど手ぶらの状態だった。

裕太のことしか考えてなかったのか手ぶらとは準備不足すぎる。

俺はそのことを含めて香奈恵に挨拶をした。


「香奈恵、おはよう。朝からご機嫌みたいだな」


「あらあら煌太、おはよう。そうよ、今のは私はとてもハッピーだわ。あまりにもハッピー過ぎてトリップしそうなくらいよ」


「そ、そうか。本当にトリップって意味、分かって使ってるのか知らんがそれはよかったな。しっかし、いくら何でも手ぶらはまずいんだろ。色々と困るぞ?」


俺が親切心でそう指摘してあげたが、香奈恵は妖艶にクスッと笑う。

まるでそんなのは問題じゃないと表情が物語っていた。


「現地調達するから大丈夫よ。それに最低限の物はポケットに収まってるから」


「そんな外出する男性みたいな…、ちなみに何持ってきてるんだよ」


「たいしたものじゃないわ、ハンカチとかよ」


香奈恵はそう言って、携帯電話とハンカチをポケットから取り出して見せてきた。

他に持ち物があっても財布とかなんだろう。

身軽なのは結構だが身軽すぎる。

大丈夫かよ、と思っていると一台のワゴン車が近くで停車してきた。

俺たち四人はそのワゴン車に視線を移すと、運転席から手を振る翔さんの姿があった。

優羽が大きく腕ごと振り返すと、翔さんは微笑ましそうな顔をしながらワンゴ車から降りてくる。

そして俺たちに近づいて軽く会釈してきた。


「おはよう、みんな。準備は大丈夫かな?」


「おはようございます、翔さん。すいませんけど今日は兄の捜索お願いします」


俺は深く頭を下げた。

俺は世間知らずの無礼な部類だが、最低限の礼儀は忘れない。

それに内心有り難く思っているから、態度で示すのは当然と言っていいだろう。

翔さんはそんな固くする必要はないよとフランクに接するように言ってきた。

それからワゴン車を指差して言葉を続けてきた。


「じゃあ準備がいいなら乗ろうか。明るい内にしか探索はできないからね。暗くなったら大変だ」


挨拶もほどほどにして最後に持ち物の確認を適当にしてから、俺たちは翔さんに促されてワゴン車に乗り込んでいった。

後部座席では裕太の隣にはもちろん香奈恵が座り、更に奥の後部座席には俺と優羽が座る。

全員が乗ってから翔さんは運転席に座り込み、ハンドルとレバーに手をかける。


「みんな乗ったね?さぁ、いこうか」


ワゴン車はゆっくりと発進して、屋敷がある方角へ走り出した。

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