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からくり屋敷の悪夢  作者: 鳳仙花
・序章
6/22

蒼煌(そうき)

あの後、俺たちは日程やら細かいことを相談して決めていき、明後日の休みには屋敷に行くことになった。

詳しい場所は聞いてもあまりよく分からなかったが、距離ドライブになるほど離れているわけではないらしい。

しかも車だけで着けるらしいので、山登りするような道具もいらないみたいで特別な準備は必要なかった。

唯一の問題とすれば本当に兄はそこにいるのか、ということだ。

翔は多分行ったのだろうと言ってるだけで、兄の書き残しがあったりするわけでは無い以上何一つ確証はない。

そのため下手に警察に協力を仰ぐこともできないし、それらしい手がかりがあれば後で警察に連絡すればいいだけだ。

そう、警察はあとでいい。


そんな甘い考えをしながら、俺は自宅へと帰宅した。

ゲーセンの後は、みんなでファーストフード店で打ち合わせをしてそのまま解散となった。

意外にみんな真剣になってくれていたから、俺は申し訳ないのと感謝の気持ちで胸がいっぱいだった。

……もちろん、何回かは俺を茶化す言葉がまるで四方八方から飛んできたが。


「はぁ……、明後日か…」


俺は自分の部屋に荷物置いたあと、すぐに自室から出て足を進めた。

向かった先は兄の部屋。

兄の部屋の扉を前にして足を止めてから、昔を思い出す。

小さい頃はよく兄の部屋に訪ねていったな。

本当に幼少の頃だったが、兄はよく遊んでくれていた気がする。

もしかして仲が良くないと思っていたのは俺の思い込みで、周りから見たら案外仲の良い兄弟だったのかもしれない。

そして兄自身も良い弟と思ってくれていたのか。

だとしても、兄が実際はどう思っていたか俺には知るよしも無い。


俺は冷たくなった兄の部屋のドアノブに手をかけて捻った。

鍵はかかってないから、あっさりと開く。

扉を押し開けて、俺は薄暗い兄の部屋に静かに入り込んだ。

すぐに入口の近くのスイッチを押して電気を点け、輝き出す蛍光灯が兄の部屋を照らす。

久々に室内を見るような気がした。

いや、部屋に入るのはそれこそ幼少期の頃以来だ。

長い間に渡って俺は避けていた、そんな気がする。

全く避ける理由はなかったのに。


俺は室内を見渡した。

俺とは違うが、また男子らしい部屋だ。

特別に目に付くの物はないが、何もないという感じでもない。

本棚には買い集めていた漫画に小説、音楽プレイヤー、特に意味もなく買ったギター、テレビにそれに接続されているゲーム機、そしてパソコン。

あとはクローゼットやタンスとそれなりの家具あるだけで、よく分からない置物もある程度だ。

当然机もあるが、その上には教科書や参考書と面白みのない本が置いてあるだけだ。


「…いつもゲームしてるのかと思ったら結構勉強してたんだな」


俺は使い古された参考書を手に取った。

裏表紙には丁寧に兄の名前が書かれていた。

蒼輝(そうき)

それが兄の名前だ。

俺の名前にも輝くという意味で煌という字が入っている。

親は共に輝いてほしいという意味で(きらめ)きの名を兄弟に付けたのだろう。

捻りがないというか、仲良くして欲しかったのか分からない。

しかし、輝きか…。

今の俺は一人ではあまりにも弱い煌きだ。


「なに、考えてるんだろうな…俺は」


元々自分はそんな輝く人生を送っていけるとか。大層な人物だと思ってもいない。

ただ兄である蒼輝が行方不明ではなかったら、妙に落ち込むようなことは無かっただろうってだけの話だ。

俺は兄の蒼輝の私物の物色を再開して、本棚を漁り始めた。

漫画とかはどうでもいいので、とりあえず別に目に付いた本を取り出した。

俺が次に手にとったのはアルバムだ。


「大事に持ってるものなんだな。兄貴が赤ん坊の頃からのもあるじゃねぇか…」


アルバムを開けてみると、蒼輝の生まれたばかりからの写真から今に至るまでの写真が収められていた。

今の時代、写真をデータで保存することが多いために、近年の写真はかなり少なかった。

しかし蒼輝が中学の頃までの写真は多くあった。

家族との写真、学校での写真、旅行の写真、日常的な写真、友達との写真と色々ある。

俺はその写真を一通り目を通していくと、クラスでの集合写真に何となく目がついた。


そういえば、翔さん。

俺の記憶には全く見覚えはなかったけど、イメージチェンジとかでもしたのだろうか。

いくらちゃんとした面識が無いにしても、一切分からないってのはあまり無いことだ。

だから俺は記憶を呼び起こすためにも、翔さんの姿を探した。

けれど、翔さんと思われる面影がある人物は見当たらなかった。

何度も同じ写真を見返してみるが、翔さんの姿はない。

あくまで兄の蒼輝のアルバムだ。

クラスが違っていたとか、兄だからゲームセンターで知り合ったとかの友達かもしれない。

それなら写真が無くて当たり前か。

明後日にはどういう経緯で兄の蒼輝と知り合ったか訊いてみようと思い、俺は深く考えなかった。

そして続けてページをめくる。


「これは……」


次に目に付いたのはほんの二年前、家族で花火していた写真。

俺はつまらなそうな顔で写っていて、対して兄は寂しそうな顔をしていた。

いつからだろう。

俺が兄に対して距離を置くようになったのは。

特に意味もなく、疎遠な雰囲気になっていた。

まるで親に対する反抗期だ。

それほどに、兄に対して思うことは何もなくなっていた。

思い返せば、小さい頃はあんなに遊んで貰ってたり面倒見て貰ってたのにな。

兄は俺に対して何て思っていたのだろう。

嫌な弟か、つまらない奴か、分からないけど家族とは言え好意的に思われていたとは考えれられない。


「兄貴……」


俺は目の周りを服の袖でこすった。

わずかに濡れていた感触が肌に残っている。

感傷的になりすぎたな。

俺は大きくため息を吐いてから、アルバムを閉じて元の場所にあった本棚に戻した。

なんだかこの部屋にもういられない。

俺は早足で兄の部屋の電気を消して出て行った。

そして自室に戻って、ベッドへ身を投げるようにダイブする。

やわらかい毛布が俺の体を受け止めてくれる。


「くそっくそっ…!本当にどこに行ったんだよ…蒼輝兄貴…!心配かけやがって…!また、昔みたく一緒に遊びてぇよ。俺の面倒見てくれよ…!」


俺は久々に兄の名前を口にして、布団に身を包んで涙をこらえた。


そしてそのまま眠ってしまって翌日。

いつものように支度して、外に出ればいつものように一番に優羽と会って一緒に学校へ登校した。

そして学校では、授業以外の時は裕太やら優羽に日常のようにからかわれて、話の途中に香奈恵が入ってくるといういつもの調子だった。

そして昼休みの時、俺はいつもは口にしない兄の蒼輝のことを話題としてふった。

そのときは優羽と裕太と俺で昼食をしていて、香奈恵の姿はない。

さすがに香奈恵も一日中、裕太にべったりしてるわけではなかった。


「なぁ優羽と裕太。俺の兄のこと、どんなやつだったか覚えてるか?」


「えー、どうしたのいきなり煌太!?煌太から自分のお兄さんについて話すなんて珍しいんじゃないのかな!」


だからって目を丸くして、大声で驚くことだろうか。

それに比べて裕太はいたずらっぽい顔をしていた。

これはまた変なこと言われそうな様子だ。


「何だよ煌太。変な質問するんだな。その言い方だと、まるでお前の記憶には兄がいなかったみたいだぜ。そう、まさに記憶喪失でもしたような奴が言う台詞だ。だって兄について詳しいのはお前だぜ?普通に考えてよ」


「そうだろうけど…、ただお前らにとってはどんな奴に見えてたのかなって思ってさ」


そう言うと、裕太は視線を天井へ向けて考える仕草をした。

いきなりこんな質問されても即答できるわけないよな。

……だと思っていたが、優羽はあっけらかんに箸で弁当のおかずをつまみながら答える。


「私は煌太を大事にしている良いお兄さんだと思っていたよ!ん~、でもそれぐらいかも!」


「俺を大事に?おいおい、どこをどう見てたらそういう言葉が思い浮かぶんだよ」


俺は否定気味に会話を返したが、優羽の感想に裕太は便乗するように頷いた。

いかにも思いつきくさいが、裕太も同じ感想になってしまうらしい。


「俺から見てもそれは思ってたぜ。煌太をすげー大切な弟として見てるなーって」


「裕太もかよ。当の本人には分からないのに、なんでそう思えるんだ?」


裕太は鼻で笑う。

そして呆れが混ざった声で呟きながら、優羽に視線を送っていた。


「煌太の鈍さは随一な所があるからなぁ。煌太が気づかないことは大抵は周りの人には気づけることなんだよ。例えば優羽が煌太のこと…」


「あーーーー!つい手が滑って私の拳が自然な流れで裕太の顔面にぃーーー!くらえっ不純物!!」


優羽はいきなり握りこぶしを作って、裕太の頬を殴りつけた。

それはすごく綺麗な右ストレートのパンチだった。

何一つ迷いが感じられない殴打だ。


「痛いっ!?」


裕太は少し殴られた反動で顔を横に向ける程度で済む。

よかったな、事故みたいだから思っいきり殴られてはいないぞ。

頬は思いっきり赤くなっているように見えるが、事故だから仕方ない。

裕太は殴られた頬をさすりながら、涙目で優羽に静かに訴える。


「今…、罵声付きでくらえって言わなかったか?気のせいなのか?俺の空耳だったのか?これは不可抗力とかそういう扱いになるのか…?」


「ごめんね裕太!わざとじゃないんだよ!ただ少し顔が吹き飛ぶほど殴りつけたいなって思いながらご飯食べてたら、滑ってそうなったの!本当だよ!」


「優羽、いつもに増して俺はお前の日本語が理解できないぞ。でも滑っただけだからな。それはよくあるから罪はない。俺は裕太じゃなく優羽の味方をするぞ」


なぜ優羽がいきなり裕太を殴打したのか分からないが、相手が裕太なら香奈恵の前じゃなければ問題ないだろう。

それに最近は俺のことをネタにいじりすぎた罰だ。

たまにはお前がそういう目にあうのも良い経験になる。


「なんだよそれ、なんで煌太の兄の話からこんな流れになるんだよ…、意味が分からない…。俺が一体何をしたって言うんだ…?」


そこから別の話題へと移ってしまったが、どうも優羽と裕太には、俺と蒼輝兄貴は仲良く見えてたみたいだ。

俺は全くそうだと思ってなかったが、案外そうだったのかもしれない。

それはあくまで第三者からの視点の話だから、蒼輝兄貴がどう思っていたかは分からない。

実際はどうなのだろう。

俺たち、良い兄弟でいれてたのかな。

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