日常・2
「で、結局はみんないつものグループでいるわけだね!このゲームセンターに!」
優羽はしみじみにと、自身満々にして頷きながら言う。
わざわざそんなこと口に出さなくても一目で分かるよ。
こいつは思ったことを大声で喋らないと死んでしまう病気にでも、かかっているのかと思いたくなる。
俺たちは4人で集まったらゲームセンターに直行して、ゲーセン特有の爆音に負けずに和気藹々としていた。
「そうね、くす。でもいいじゃない、いつものメンバーが最高よ。ねぇ裕太?」
キツネ目のように細い瞳で、香奈恵が裕太に同意を求める。
香奈恵は香奈恵で、なにかと裕太に話しかける意図的な行為は控えて欲しいものだ。
別に目ざといわけではないが、あからさまな態度で接しているのは第三者から見ていても反応に困る。
俺は早速助け船出すように、香奈恵に一声かけてあげた。
「おいおい、香奈恵。お前は何か予定があったんじゃないのかよ。裕太がいるからって無理して付き合っても得は無いと思うぞ?」
香奈恵は背中まである長い生まれつきの茶髪を揺らし、わざとらしい仕草で前かがみになって俺の質問に答えた。
その細い体の動きと眼はまさに妖艶で、女子高生でこれとは末恐ろしい魅力の出し方だ。
でもその仕草を自宅の鏡の前で、裕太を魅了するためにと練習しているのだとしたら少し面白い話だ。
「馬鹿ねぇ。私の予定は常に裕太といることよ?つまりは裕太のすることが私の予定になるの。分かるかしら?」
「そう…か、それは野暮な事聞いたな…うん」
香奈恵はあまりにもあからさまだ。
なんで優羽と香奈恵が仲良しの友達になれたのか分からない。
案外香奈恵は外堀から埋めていこうと、優羽を手駒にしたのかもしれない。
そうだとしたら、香奈恵は恐るべき女子だ。
「おいおい、煌太さっさとしようぜ。最近は台でやる人少なくてなかなか対人できる機会が少ないんだよ。時間は無駄にできない、いいな!」
「そうね。裕太とのラブラブな時間は無駄にはできないわ!さぁ一戦交わりましょう!私は絶対に裕太のテクニックに負けない!」
香奈恵は握り拳を作って気合いれてそう宣言した。
それに対して裕太は相手が誰でもいいのかやる気満々で、もはやコントだ。
実は俺が思っている以上にこの二人は仲良いんじゃないだろうか。
それでいいなら俺は別に構わないわけだが。
「えへへ、香奈恵はいつも以上に張り切ってるねぇ!」
先にゲーム台に向かう香奈恵と裕太に置いてかれた優羽と俺だったが、優羽は笑顔で俺に話しかけてきた。
至近距離でも声が大きいのは、多分ゲーセンの音でかき消されないようにだろう。
モラルある友人だと思いたいから、そういうことにする。
「あぁ。そうだな。ってか香奈恵が裕太の相手なんて初めてじゃないか?あいつ、そんなにゲームできるやつだったのか」
「何でも一人で色々練習したらしーよ!マニアックな本も購入して勉強までしたとか言ってたから。すごい一途だよねぇ!」
一途というか熱心というか、そこまでいくともはや感心してしまうな。
でも残念ながら裕太は香奈恵が好みじゃないらしいから、その努力も水の泡となる可能性が非常に高い。
そう思えば少しかわいそうなやつだ。
俺と優羽はのんびりと歩いて、香奈恵と裕太が対戦してるゲーム台に向かっていった。
どうも裕太の方が攻めが何枚も上手で、格闘ゲームでは香奈恵は相手になりきれなかった。
それが悔しいのか香奈恵は喘ぎながらプレイしてる。
「だめっ…!そんな攻めたら…!あっあっ……!ちょっ…待って!早すぎて…私……!あ、その攻め方苦手だからやめてっ!一応初めてだから優しく……ね?あれ、聞いてない?ねぇ裕太?ゆう……あ、逝っちゃう!待って待って!それは駄目!そんなのズルいわ!あぁあぁ…!もう駄目ぇ!」
「いくぜ香奈恵!これでフィニュシュだ!」
裕太がそう叫んで、止めの一撃を香奈恵の操作キャラクターにヒットさせてゲームキャラを昇天させた。
あっさりと裕太の勝利、いくらなんでも容赦がなさすぎる。
裕太のためにも練習したと言っても、熟練プレイヤーに敵うわけがないのがゲームの恐ろしい所だ。
でも香奈恵はどう転んでも裕太に接近するチャンスとする。
「さすが凄いわね、裕太。貴方のテクニックには勝てなかったわ。一体どんな指使いしてあんな動き可能にしてるのか興味あるくらいよ。だからもう一回しましょう。でも今度は激しく攻めるのは無しよ?私がただのサンドバッグになるから」
「分かったよ。ほら、向かい側に座れ。今度はやさーーーしく攻めたててやるから」
裕太は優しくという単語を強調したが、俺には分かる。
こいつ優しくする気なんて一切ない。
いじめてやるぞ、というあくどい顔が完全に出ている。
意外に性悪というかサドスティックな奴だ。
「あーあ、もう二人だけで盛り上がってるね!なら私たちは私たちで別のゲームしよ!」
「…そうだな。なんだか邪魔してはいけない気もしたからな」
「じゃあまずは手軽にUFOキャッチャーからしよ!私、上手なんだよ!」
俺は優羽に引っ張られるように、腕を掴まれて無理やり走らさせられた。
本当に優羽は元気がありすぎる。
俺が優羽だったら普通に生活してるだけで、体力が無くなりそうほどの騒ぎっぷりだ。
しかし優羽が前を走るから、優羽の匂いを自然と嗅ぎ取ってしまう。
嫌いな匂いではない、それは俺の優羽への気持ちと同じような感想だった。
嫌いじゃないのは確かだ。
そもそもそういう眼で優羽をみたことはない。
それは優羽も同じことだろう。
お互い今を楽しむのに一生懸命で、それで充分なはずだ。
優羽は硬貨の音鳴らしながら、どんどんと硬貨投入口に100円玉を入れていく。
おいおい、得意といってたのにそんなにいれてしまうのか。
俺は半ば呆れ気味にその無駄に労力を費やす後姿を見ていたら、優羽は俺の顔を見て得意げに語ってきた。
「知ってた煌太!?こういうゲームって硬貨の入れる枚数でアームの掴む力が変わるんだって!だから沢山いれたらすっごく強くなるんだよ!これだけ入れたらもう景品壊すぐらい強くなるよ、きっと!」
「それだと本末転倒じゃないか。だいたい硬貨の入れた枚数でアームの力が変化するって眉唾もいい話だな」
優羽は口をすぼめて頬を膨らませ、あからさまに不機嫌そうな表情をしてきた。
何が気に入らないんだ。
そんなに優羽の調子に合わせて欲しいのか。
「でも、それで本当に取れたら信じてやるよ。って、今何枚ぐらい入れた?」
「んー?20枚ぐらい、かな?」
20枚…、早速二千円も使ってたら普通に入れた方が安く済みそうな額だ。
本当に得意なのか?まさか出まかせか?
優羽なら…、勢いで発言するからあり得てしまう。
良くも悪くも口だけなところが多いやつだからな。
「ほら、見てて!私の裕太に勝てずも勝らないボタンを押す華麗な指さばき!」
「その言い方だと負けてるだけしかないだろ…」
俺の突込みに全く耳を貸さず、優羽は真剣な目をして遊ぶ。
変に顔を動かさずアームの場所確認しない所を見ると、空間把握できてるみたいで下手ではないのは確かだ。
できるかどうかは完全に別の話であるのだけど。
「ここだ!いけ!私の第三の手よ!景品を掴んで我がもとへ引き寄せろぉ!」
…こいつ、自分で言ってる言葉の意味を理解して発言してるのか?
少なくとも俺には理解が追い付かない。
悪いが追いつきたくもない。
優羽がボタンから指を離すとアームは真下へと降りていき、景品であるぬいぐるみに近づいていく。
あのままだとアームの爪はぬいぐるみにぶつかってしまって、掴むのは不可能だ。
でもそれこそが優羽の狙いなんだとは思う。
「ほらほら~、恥ずかしがらないでいいから私の所に来なさいよ~。沢山可愛がってあげるからね~」
優羽はガラスに顔が張り付きそうなほどに近づけて、期待に満ちた顔をして景品を見つめている。
するとアームの爪はぬいぐるみの顔にめり込むようにぶつかり、そのまま掴む動作に入った。
その動作で爪はぬいぐるみを落とし口へ一気にひきづっていき、見たところあと二回ほどで落とせそうになる。
これがいわゆるクレーンゲームのテクニックの一つだったか、ひっかけとかいうものらしい。
他にも優羽は色々と試行錯誤してる間に色んな技が使えるみたいで、アームを障害物にぶつけてアームを揺らしたりとかよくするらしい。
俺から見たら嫌な客にしか思えないが、割とそれが常識だったりするみたいだ。
優羽がそう言ってただけなので、何一つ信じてはいないけれど。
「おーあと少しで落とせそうだな、やるな。頑張れよ散財少女」
俺はいい加減に後ろから応援してあげて、少しだけ微笑ましく思っていた。