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からくり屋敷の悪夢  作者: 鳳仙花
・序章
2/22

日常・1

兄が行方不明になった。

別に仲が良かった兄では無い。

むしろ険悪なぐらいだ。

だから俺はあまりショックを受けないはずだったし、どうせすぐに兄は家に帰ってくると思っていた。


でも親が慌てて、やがて失意しているのを見ていると、本当に兄は失踪したのだと実感した。

その実感と同時に俺の胸の中にはぽっかりと穴が開いたみたいで、言い様の無い虚無感ができた。

自分が思っていた以上に虚無感は異様に大きく、学校では上の空になる事が多くなっていた。

あんな兄、どうでもいいはずなのに。


「大丈夫か、煌太(こうた)


煌太と俺の名前を呼ばれて現実に引き戻される。

また意味の無い思考に囚われていたようだ。

俺からしたら普通にしているつもりだが、周りから見たらどうも心ここに在らずと言った状態らしい。

様子だけで分かるというのだから、相当ぼんやりとしてしまっているのだろう。


「あぁ、裕太(ゆうた)か。どうかしたか?」


俺は声がした方を向けば、裕太という俺の親友が立っている。

親友というのは大げさかもしれないが、幼稚園の頃から知り合いでお互いある程度信頼はしている。

だから親友と言っても差し支えないはずだ。

それにしても相変わらず裕太は小綺麗な顔をしている。


「最近話しかけても無反応が多いぜ。さっきも気づいていなかったみたいだしな。調子でも悪いのか?」


どうやら呼び掛けられていたみたいだ。

それで俺がどうかしたかと疑問を裕太に投げ掛けるなんて、調子が悪いと疑われても仕方ないか。

でも別に調子が悪いわけではない。


「そんな事は無いさ。むしろクリアーなぐらいだ。頭がすっきりしていて俺の意識や視界には(かすみ)の一つも無い」


「と、言うわりには煌太はぼんやりとしているんだな。それだと優羽(ゆう)に心配かける事になるぞ」


裕太は冗談っぽく言って茶化してくる。

ただし優羽なら本当に心配してきそうだ。

優羽は少しお節介好きな性格だからな。


「何でいきなり優羽の事が出てくるんだよ。あいつは俺の保護者か何かなのか?」


「俺から見たら少なくともそう見えるぜ。幼なじみという一言では片付けれないほど、優羽は煌太の面倒見が良いからな」


「お前も優羽と幼なじみだろ………」


だが裕太の言う通り、優羽は何かと俺の面倒を見るような真似事をしてくる。

裕太の方がだらしないはずなのに、何故か優羽は俺の手伝いをしてくるのだ。


「煌太の言う通り俺も優羽とは幼なじみってやつだろうけど、明らかに優羽は俺と煌太には対応に差があるだろ。だから煌太にとって優羽は、単に幼なじみって簡単な単語では表せない関係だと言いたいんだよ」


「…………すまないけど、本当に何を言っているのか分かりづらい。遠回しな言い方じゃなく、もっと簡潔に分かりやすく話してくれよ」


俺がそう言うと裕太は深くため息を吐いて、苦々しい顔をした。

口には出さないが俺を馬鹿にしているのが分かる。

いや、裕太の言葉を上手く理解できなかったから実際に頭の回転が悪いのかもしれない。


「変に言うのも野暮ってのかな。まぁ、別にいいさ。それより授業は終わったんだ。帰ってゲーセンでも行こうぜ」


裕太はそれで話題を変えてきたが、俺は大して気にせずに喋りだした。

俺はあまり自分をネタにするような話は好きじゃないからだ。


「またゲーセンか。よくお金が尽きないな」


「おう。残念ながら、それなりの頻度で底に着いているぞ」


「お前はアホか。娯楽に金銭を費やすのは勝手だが、少しは自重して管理はしっかりしろよ」


俺の言葉に裕太は嫌らしそうに笑った。

この笑みを見せた時点で、財布の紐を締める気が無いのを察せれる。

それだから(ふところ)が寂しくなって、たまに俺に奢らせてくる。


「いやぁ、分かってはいてもゲーセンが止められないんだよ。これは煌太の兄の影響だな、間違いなく」


俺の兄はゲームセンターが好きだった。

正確には遊び自体が好きで、ゲームセンターに通うのは趣味の一つだったはずだ。

そのゲームセンター通いに、俺と裕太と優羽はよく付き合ったものだ。

俺と優羽はメダルで遊ぶ程度だったが、裕太は俺の兄のように体感系ゲームや格闘ゲームにめり込んでしまった。

それでこの有り様だ。

裕太もすっかりとゲーセン通となってしまっていた。

おかげで会話の通り散財が酷い。


「きっかけは俺の兄でも、ハマったのは自分のせいだろ。500円分くらいは付き合ってやるよ」


「それでいいから早く行こうぜ。強者が俺を待っている!」


「自分より強い奴に会いに行くってか?俺には真似できないゲームに対する真剣さだな。片付けるから待ってろ」


俺は教材やら何やらを、鞄に乱雑にいれて席を立つ。

それから俺は、兄とゲーセンに行ったという些細な出来事を一瞬だけ思い出してしまった。

早足で行く裕太を前に、俺は玄関へと付いて行く。

それで外靴へと履き替えている時、ドタバタと騒がしい足音が近づいてきた。

学校には色んな人が沢山いるから、別に慌ただしいのは普段は気にしない。

だが、俺と裕太にはこの騒々しい足音の主を見なくても分かっていた。


「煌太と裕太!もう帰るの!?」


走ってきた小柄の女子は、いきなりそう呼び掛けてきた。

急いで来たにしても、よく校内で大声を出せるものだ。

放課後は帰宅できるから皆は元気に溢れるが、この女子は常に元気に満ちている気がする。


「やっぱり優羽か。見たら分かるだろ、帰るんだよ」


強調しなくても、すでに外靴に履き替えているのは一目瞭然だ。

鞄を手にしている以上、別に外の掃き掃除をするわけでもない。

俺がそう教えると走ってきた女子、優羽は手で自然とセミロングの髪を少し整えながら驚き気味に言ってきた。


「えぇ、それなら私も一緒に帰る!」


「わざわざ一緒に帰る必要無いだろ。香奈恵(かなえ)と帰れば良いんじゃないか」


「香奈恵も連れて行く!だって2人はどうせ遊びに行くんでしょ?」


優羽のこの言葉に裕太は小さく笑ってしまう。

見透かされていたみたいで、どこか面白かったのだろう。


「優羽は何でもお見通しだな、煌太」


「裕太を見れば俺でも道草を食うのは予測できるよ。おい、優羽。香奈恵にも予定があるだろ。あまり振り回すものじゃあ………」


俺が言い切る前に優羽は制して言ってくる。

そこまで慌てたり急ぐ必要はないのに、せっかちなのか真面目なのか判断しづらい。


「大丈夫!香奈恵は裕太の事が好きだから!じゃあ待っててね!」


優羽は明るい笑顔で一方的に話して、また走り出して行った。

次第に慌ただしい足音が玄関から離れていく。

守らなくても良いような規則とは言え、廊下を走りすぎだ。


「まるで台風か嵐だ。それか通り雨の豪雨」


俺がさっきの優羽の様子を自然現象で例えると、裕太は頷いて同意した。


「分かりやすい例えだな。あと香奈恵の見知らぬ所で公開処刑級の発言は、天災の被害を大きくしている。周知の事実だとしてもさ」


優羽の親しい友人である香奈恵は、裕太に好意を抱いている。

裕太はだらしない性格ではあっても見た目はかなり良い方だと、同姓の俺からでも分かる。

だから裕太に恋心があっても不思議な話ではないだろう。

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