月明かりの下の過去話。
お久しぶりです。1年ぶりに更新しました。懐かしいです…。
目の前の魔女は微笑んだ。月に照らされた黒曜石のように美しい髪が風になびいて、口元を歪めた。
「可夢偉がこの世界を作ったきっかけ、何だと思う?」
楽し気に語るわけではなく、寂しそうな顔で笑う。それは失笑と言った形に近かった。「分からない。多分、お父さんは、現実から逃げたかったんだと思う。」と答えると、半分正解と悲しそうに笑う。
「可夢偉の両親はね。離婚してるの」
私は知らなかった。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは、一緒に棲んでいるし、そんな話を聞いたこともない。
それは可夢偉と私の為と言う、ただの利害の一致だった。そういえば、最近いや幼い頃から祖父母はよそよそしく、仲の良さをアピールするような、不自然さがあった。父が失踪してから、余計その不自然さは強くなった気がした。
「可夢偉の失踪は、警察は当初可夢偉の両親が絡んでるんじゃないかって、ご近所で噂になったの。なんせ変わり者の可夢偉だもの、尾びれがついて噂だけが先行してもおかしくないわ。可夢偉は、両親がいがみ合うのを見ていたから、夫婦仲の良い美嘉の家に憧れていたの、同時に、美嘉を徐々に恋愛対象として見始めた。」
急に黙り込んで、風だけが強く吹いた。
「…可夢偉はこの世界を創ったんじゃない。
元々、この世界を創った人物にそそのかされたのよ。
可夢偉はその人の後継者で、この世界を継いで自分なりに構築したの。
美嘉が居なくなって、この世界は徐々に壊れ始め、主を求めているの。この世界を継ぐか壊すかは後継者次第。そもそも前の後継者が誰だったのかすら、誰も知らないわ。可夢偉は、恋愛を憎んだ。不仲の両親が結婚しなければ、離婚しなかったと思ってるからね。美嘉を失うショックを知らずに済んだ。今の可夢偉は、人を、魔法を、美嘉を彷彿させるこの世界をーただ憎んでるんだと思うわ。」
マリーゴールドの目に涙が浮かんだ。それは、愛しい人が手に入らない真珠の涙。
「…マリーゴールドは…可夢偉が好きなの?」
愚問だと思った。美しいマリー。目には真珠のように輝く、月の光を浴びた涙。
ただ、「愛しい人に会いたい」可夢偉の名前を甘く声を震わせながら呼ぶ。もう会えないに近いと知っていても。だから、マリーの前に敢えて現れないと知ってても。マリーは100年以上前から、ずっと彼だけを思ってたんじゃないかなと、勝手に心は解釈した。
「-後は何となく分かる通り、恋や愛を憎む可夢偉は、この世界で恋愛や結婚を封印した。
他の国では許されてる行為なのにね」
「まさか、それで益々子供でいたいってー可夢偉は思ったの?」
子供みたいな父、純粋で愛らしい可愛らしい父、誰でも持つ純粋さは、父には大きすぎて。当たり前の生活にいつまでも慣れないばかりか、こんな世界まで受け継いでしまう、そんな父に呆れるどころか寂しくなる。どうして、私を置いて居なくなったの?
ー何故、どうして。
「あたしを口説いてた時、彼一言呟いていたの。
美嘉に日に日に似ていく、大人になって彼氏が出来て、結婚して巣立ってく貴方が見たくないって。だから、いなくなったのかもしれないわね」
「そんなことが理由でー私いつまでも子供じゃいられないんだよ?」
それは父にだって言える、人はいつしか大人になる、そんな当たり前のことが分からないなんて。
「-そんな子供みたいな可夢偉だからー
あたしは惚れちゃったの。あたしに寄る不埒な思いで口説こうとするやつじゃなくて…
あんな純粋な目をした人どこにもいないわ」
くすくす、と楽しそうに泣きながら、マリーは笑った。
マリーの涙をポケットから出したハンカチで拭くと、マリーは何かを思い出したようで益々微笑んだ。
「やっぱり親子ね」
「?」
「ねぇ、貴方にとっては許せないかもしれないけど、
この世界を救ってほしい。あたし、貴方なら心から出来ると思うの…
そして、この悲しい連鎖を断ち切って。」
マリーは目の周りを赤く腫れながら。私の手を強く握って、真っすぐそらさずに目を見た。
私はーそのままそらさずに、「約束するね」と柔らかく微笑む。
お父さんが、
私の家に帰ってくる日、
それは、私の隠れた願い。
そのために、
私はこの世界を引き継ぐ。
そして、苦人君を絶対絶対に助けるんだ!
続きます。




