魔法。
巧実目線で、過去の心との出会い→今の観覧車→心と苦人が出会う数日前→今に飛んでいます。
分かりにくくてすみません…(ノД`)・゜・。
学生の頃、帰宅部だった俺は校舎でたまたま日直で遅くなり、外を見たんだ。
外を見ると、他に運動部は沢山居たのに、グラウンドの端に居る女の子に目が行った。
背が高いわけでも、特別美人なわけでもない、スタイルがいいどころか胸小せぇなぁなんて思いながら何故か目を離すことが出来ない。
足に沢山傷があるにも関わらず、
最初は遅いスタートダッシュ。
それから、グイグイと引き寄せる磁石のように近づきあっという間に抜いていくスピード。
キレのある走りを魅せてくれる子だった。陸上何て興味ねぇなと思っていたのに…
「へぇ、すげぇじゃん」
その女の子が楽しそうに笑うのをいつしか先生の用事を引き受けてまで窓から見るようになったのは、
気にしていたからだろうか。
地味顔で特別な素質何て走るぐらいなのに、県下でも弱小な陸上部に入る変わった子。
それが心の初めての印象だった。
ある日日直も終わり、
「帰るかぁ」
校舎の下駄箱で陸上部のユニフォームを着た女子たちが入ってきて、
もう練習が終わったのに帰らないのかと思ったら、
「雨が降って来たのか。そりゃ、部室の方が遠いもんな」
白いユニフォームから透ける肌を見ていたら、
「サイテー!!見ないでよね!!!」
前後ろから女子たちに集団で蹴られたが、「じゃあ、見せてくんなよな、見たくねーよ!」と口論してる時だった。
「ややっ!!」
「…?」
「あのイケメンだけど冷たいと噂の緑川巧実君だね??」
あまりに突拍子な事を言う女の子がいつも見てる女の子だと気が付くのが遅く固まる。
「だけど、何だよ??」
何故か女の子にモテないわけではないのだが、いつも「冷たい」と言って振られる俺は否定のしようがなかったから、否定しなかった。こうしてみてもやっぱり地味顔でお世辞でも美人とか可愛いとかの印象はなかった。ただそれだけのことなのに、何でこんな奴を見ているのか全然わからない。
「あはは~、何だ、否定しないなんて自信家だね!自慢か!!
私は金井心。私陸上部の副部長なんだけど~って私もこれ自慢だよね」
「…何だよそれ。本当に自慢じゃん…って、あんたが一番すげぇ透けてるじゃねーかよ!!」
そう、何故か異常に全体的にびっしょりなので、慌ててカバンからスポーツタオルを引っ張り出して、頭に掛けてガシガシと乱暴に拭いてから肩に掛けた。
「ってか、お前赤い下着辞めろよ!!下にキャミソールぐらい着ろ!!」
「煩いなぁ~」
自分が真っ赤になりながら、今度はブレザーを掛けてるのを見てると「優しいんだねぇ」と柔らかく微笑んだ。
「…変な奴。」
「褒めてくれてありがとう!」
「褒めてねぇよ!!」
それから、俺と金井はよく喋る「異性の友達」になった。
廊下を走っては駆けて俺の方に走ってくるのが子犬みたいで可愛かった。
俺はいつしかつられてよく笑うようになった。そうすると、友達が一人増え二人増え、口の悪さも照れ隠し何てポジティブシンキングな理由をつけられるようになった。
金井は「面白くていいやつ」「変で女を感じない」「異性とは思えない」の3拍子整った、馬鹿なやつ。
そう思っていたのに、
ある日それは崩れてしまった。
金井は部活内で苛められていたことを知ってしまったから。
「何で怪我してるんだろう、あんなに…」
そう思って、金井に直接聞いてしまったある日の部活休みの放課後。
「巧実になら話してもいいかなぁ…。」
「含みのある言い方すんなよ」
「ごめんごめん、巧実には隠せないや…私、苛められてるんだよね」
シンとなって、クスクスと笑いながら金井は語り始めた。
「私、部長がね、悪く言われてるのに同意しなかったの。
いつだって、部長にはこういうところがあって~って、下らない悪口を笑い話にするみんなが…嫌いで。
部長ね、みんなが片づけないから私と部長で片づけてたんだけど、
雨の日、とうとう一人になっちゃった。私が片づけてたら、部長は逃げた。
部長は、あっさり裏切って、『私の悪口を言うことで』味方になっちゃった。
だから、あんなに濡れてわざと私馬鹿だなってふけってたの。
あの時巧実が居てくれて助かったよ。私にも友達が居るんだ~って。」
心は明るくニッコリ笑った。その笑顔は超合金の塊のようないつもの可愛さのかけらもない乾いた笑み。
「…笑うなよ。こっちが辛い」
「巧実は優しいね。」
「…優しくねぇよ」
足の生傷は、どうやら本気で走ってる時に足を途中で引っ掛けてくる馬鹿が居たらしい。
元々心は本当は不器用で、誰かを庇ったりする器用な奴じゃない。それでも、その気持ちが「冷たい俺には」理解できない。俺だったら助けない、俺だったら好きでもないやつを庇わない。見て見ないふりしていくらでも同調出来る。俺はこんなに純粋じゃない。
「だからさ、私が最初は遅ければみんな油断するじゃない?
そして、油断した後に思い切り速く走って抜くの。一番じゃないけれど、気持ちよくって、
馬鹿にすんな、私は実力があるんだ!!っていつしか優越感の塊でみんなを大事に出来なくなったの。
そんな狡い自分が自分で許せないから私さ、部活辞めるんだ。」
そんな潔さが眩しくて、心は絶対泣かなかった。
こんな高校生にもなって、純粋な心を持てない。
「名前の通り「心」が綺麗なんだな。」
「口説いてんの?」
「尊敬してんだよ。馬鹿」
頭にぽんと手を置いて、タオルを掛けて「泣けよ」と言うと、震えた声で泣き始めた。
悲しかったんじゃない、悔しかったんだ。先輩の裏切りもフォローしきれない自分の弱さも、優越感を感じる狡さも、全部自分に向ける本当はネガティブな奴。
『巧実君は人の事見ないよね』
だって、興味がない。みんな同じ人間にしか見えない。綺麗、可愛い、カッコいい、不細工の区別だけ。
付き合ってなんて言うから、俺の事だけ見つめて分かってくれるかと思ったのに。
『巧実は、私の事なんてどうでもいいんでしょ』
だって、本当にどうでもいい。見ようとすると逃げるのはそっちだろ。
俺は俺なりに考えて—…。
「嘘だな」
俺は自分が可愛い。そして、愚鈍で下手に強いんだ。冷徹になり切れないのにみんな逃げていく馬鹿野郎。大事にしたいのに出来なかった過去の彼女たち。好きになる前に居なくなるなよ。俺だって、少しは愛情があったよ。大事にしたいのに、出来ない不器用さは俺特有の愛情だった。客観的に見る冷静さじゃなくって、彼女たちは俺に隣で同調して欲しかったんだ。同じものを見て美味しい、同じじゃなくても「俺の意見」を求めた。
俺は何て答えた?
『映画は好きなのにすりゃいいだろ』
『どっちでもいいんじゃね?』
『洋服見たいなら一人で行けば』
彼氏失格だよな。
一緒の歩幅で歩けなくなって、彼女たちは逃げていく、全部俺のせいじゃねぇか。
「…分かってたよ。」
こいつみたいに、みんなに歩幅を合わせて、誰の悪口も言いたくないなんて出来るわけない。
学校も会社も幼稚園もご近所も、全ての者は異端者を排除する。合わせられない奴は生きられないんだ。だから、異端者はそれで笑わせようとするんだろう。それが余計に見てられないほどに綺麗な心を持ちながら、大人についていく子供のように。
「これから、遊園地行かね?」
「…子供っぽいなぁ~」
泣きながら笑った姿が愛おしくって、初めて女の子を守りたいと思った。
そんなことを思い出しながら、俺は目の前に居る心の問いに答えた。
「俺は魔法なんか弱い者の夢物語としか思ってないな。」
「夢物語で人を傷つけても?」
「それは支えてやって立ち直ればいい。
本当に縁のあるやつは別れても縁が繋がる。
一人で立てない奴は、手を差し伸べて感謝するような謙虚さが欲しいけどな。」
「苦人君は、魔法が使えるの。私も…私の本当の名前をは呪い《a curse》。
巧実はきっと呪いに掛けられて、私の事…。」
「じゃあ。今まで見てきたお前のすべてが呪いなのかよ。
俺は例えお前に惚れ薬何て飲まされても、
呪いを掛けられたりして死んでも、
全部自分の天命だと思う。
俺の心は俺のものだ、例え心でもあっても譲れない。自分の心は俺だけのものだ。
それに本来魔法は癒すものであって、傷つけるものじゃない。
傷つけるのは魔法じゃなくて、攻撃だ。
「魔法」の使い方が問題なんじゃないか?
何を思って誰のために使うのかは本人の自由だ。
でも俺は魔法何て要らない、魔法に頼るよりも、俺は自分の力と周りを信じる。
例え周りが裏切ったって、俺は絶対に屈さない。
それぐらい強くなくちゃ好きな女は守れねぇよ。」
「だって」
「『だって』じゃない。俺はお前を信じてる。
苦人がお前を好きなことを信じろ。
俺は苦人がお前を好きなことを知ってた。
というか、それしか知らねぇ。後々説明するけどな。
そんな泣いてて不細工な顔、苦人も見たくねぇよ!」
俺はそのまま泣きそうな金井にデコピンした。
こいつに何があったかは知らないけれど、
苦人が金井のことを知っていたのは知っていたから。
それは金井と苦人が初めて会う前の前日の夜。
「あんた誰だよ」
「僕は…心さんが好きです。」
「喧嘩売ってるのかよ」
ピリピリした夜風の中の嵐の前の静けさ。
二人で消えるなんて想像もしてない1か月前。
「魔法の世界に連れていき、危険な目に遭わせます。
その前に運命を変えたい。貴方を殺しておかなければ」
「はぁ?警察呼ぶ…」
言いかけた瞬間、苦人という男の手には透き通った水晶の剣が握られていた。
「いつの間にそんなの持ったんだよ!」と言うと、「魔法ですから」と笑ってほほ笑む。
俺は殺されるのか…と冷静に判断しながら、このおかしい変質者を何とかしようと木の棒を握る。
「そんな武器で僕を殺せるんですか?」
おやおやとでも言いたげなふざけた挑発。
目が笑ってなく、妖しく光る赤い濁った瞳。
「やってみなきゃ分からねぇだろ!!」
殺されるよりも先の先制攻撃。木の棒を剣にたたきつけた。
木の棒は砕けて、俺は「終わりですね」と言う声を聞いたのを最後に心臓に剣を突き刺されてしまう。
死んだのか…と思って息が絶え絶えに…ならなかった。
「やっぱり、ですか…」
何かを納得するかのように俺を見た。
俺の確認するように恐る恐る心臓の位置を触っても、俺は剣すら貫通した形跡どころか、怪我も、血すらも剣すらもなかった。
「何だこれ!??」
新種のマジックかと思ったのだけれど、こんな夜の公園でそんな練習してるなんて奇特過ぎる。
しかも知らない奴を巻き込んでなんて、馬鹿馬鹿しいにも程があるだろ。
「貴方には魔法が利かない。
貴方は心があまりに強すぎて魔法の必要性がないから、
どんな魔法も無効化することが出来ます。
属性も無茶苦茶。長く生きていた中で…こんな人間初めて見ました。
心の父でさえも成しえなかったことが…可能かもしれない。」
「はぁ、何言ってるんだよ!!」
俺は怒り心頭である。何が何だか分からないまま、
ふっと笑うと、
「心さんを好きな気持ちは伝えられたのと実験は成功ですね。
心さんは僕が守ります、絶対に。
心さんを死なせない強い心を貴方に。」
そう言うと、近づいて俺の手に何かを握らせた。
気が付いたら、彼は俺の前から姿を消して、
公園中を探しても誰も居なかった。
でも、金井を好きだと言った時の目は真剣だったから。
夢みたいな観覧車のお伽噺に揺られながら、
心の話した話は馬鹿みたいに現実味のない儚い泡みたいだった。
このままじゃ心が消えてしまいそうで。
「俺がどんな理由も事情も受け止める。
苦人を探しに行っても構わない。
だから、俺の元へ必ず元気で戻ると約束してくれないか。」
小指で指切りげんまんした。
そして、「行って来いよ。その世界へ。」
と約束したら、
笑って、
「行ってきます」と心は観覧車から降りるといつの間にか現れた渦の中へ消えていった。
ただ、金井を信じて。あの恋の目をした青年を信じて。
心が…ああ、心が戻ってしまわれた…。