夢と現実の境界線。
いつも夢を見る。現実と夢との境界線が段々私を襲う。私は何を覚えていないの??いつもと変わらない日常が変わり始めた音がしたの。
熱く甘い吐息。
その意味を知りたくて、私は貴方を抱きしめる。
もう大丈夫よと。初めて触れた温もりに今までオモチャの家で遊んでたのかしら?知らず知らずに貴方に惹かれたのよ。オモチャは大人になったら飽きてしまい、現実を包む調べに翻弄されるの。
その誰とでも遊べた楽園に連れて行った彼を、愛したの。
子供だった私は、涙を浮かべる彼を抱きしめて、1人にしないわと囁いた。
「あ…」
私はこの先の夢を知らないし、教えてくれる人も居ない。
気が付いたら、私はお伽話の夢の中から現実に舞い戻る。
「今日も、働くぞ!」
明るく叫ぶと、「五月蠅いぞー!」と隣の部屋の住人から声で返ってきた。
いつものことなので、気にしないけども、私の名前は心と言う。
金井心独身、29才、恋人なし。学生の頃からバイトしてお金を貯めていたので、案外すんなり実家から出ることも出来たし、今の居酒屋さんのバイトはその頃からしていて、社員になった。これが結構大変で、居酒屋さんは夜だけと思う方もいるだろうが、社員は朝から仕込み、掃除、研修など、色々なってから大変だと思う事が多い。
「金井、女があんなうっせー声出すなよな、朝から」
「五月蠅いのはあんたでしょ」
「五月蠅いって言う方が五月蠅いんだぜ?」
隣の部屋で起きて来た彼は、さり気なくチクチク言う。
私たち、言って置くけど、色恋の可能性無いからね!
部屋をルームシェアしている学生の頃からの男友達なの。
「あんたじゃなくて、巧実っていい加減覚えろよな」
「はいはい、巧実は、ちゃらーい、茶髪にボーイ歴長いかるぅい男ですものねぇ~」
「金井こそ、髪の艶がないよな、長い髪一つ結びばっかじゃん、たまには色気出すような恰好で寝てみろよな」
むかっと来たが、確かに最近若い頃の髪の艶がなくなり、長い髪は半年ぐらい美容室に行くまでは伸びっぱなし。近くの雑貨屋で買った茶色い安売りの1000円(税込み)のパジャマはもう学生の頃からのお友達。買え変えるか~と思いながら、髪をくくって、気が付いたら時間が迫ってる。
「俺、今日遅いからお前はまかないでも食ってゆっくりしてろ」
「彼女さんと仲良く~」
「ばっ、お前、知ってたの??」
ふふんと笑うと、巧実は困ったような顔で照れる。巧実が最近帰りが遅いのは、彼女さんと会ってるから。「その彼女さんは、サラサラストレート黒髪の?女子校出のお嬢様で?で、どこまで行ったの-?」
クスクス笑うと、巧実は逃げるように、「彼女迎えに行ってくる…」と俯くように逃げていく。
上手く行ってるんだ?と思い、別にルームシェアしてるのは単に家賃が浮くだけで…いいと思うんだけどなぁ。
「あ、やばい、今日は新人さんが入るんだったぁ~」
鏡を見つめるといつもの薄目のメイクに、巧実の「色気出すような」が自分でも分かり、苦笑してしまう。表通りをひょいっと出て、人混みの多い路地に入る。
ざわざわ…いつもの喧騒。いつも通りだな、
「私、このまま…かな」
ショーウィンドウに映る私を見つめて、そっとその手をガラスにそっと付けた。
冷たい。そこに昔の私を重ね合わせて、何でこうなったんだろうと少し考えてしまう。
巧実も最初は―…。
「嫌なら、逃げちゃわない?」
と言う声が聞こえて、誰?と振り向く。
別に…そんな嫌でもないし…。
「本当に?」
何これ?ガラスに映った私以外が映ってないではないか。振り返るとみんな時間が止まったみたいに動かない。人混みの中で私だけが動いてる。何これ?ファンタジーなライトノベル?
もう一度あれ?とガラスを見ると、背景に映画の中のような世界が映りじいっと見つめてしまう。
小さな…遊園地みたいな。何か懐かしいような…そこには…
ハッと現実に戻ると、みんな、普段通り動いてて…先ほどまで見ていたのが白昼夢だったのかな?と思い、私は慌てて仕事に向かった。
「遅い、金井!!今日、新人入ってくるから色々教えろって言っただろう」
「す、すみません…!」
「金井、いつも忙しい中、よくやってると思う。でも、お前、最近ちょっとボーッとしてるぞ。
心ここにあらずって言うのかな…たまに、お前大丈夫かって思う」
「そんな…いつもと変わらずですよ~!元々ぼーっとしたヤツなんです。動物占いコアラだし♪」
「なんじゃそりゃ」
ドキッとした。店長は学生の頃から気に掛けてくれ、親のような先生のような優しい人だ。
心配掛けてはいけないと、ニコニコと武装していれば、鉄板に張り付いたお好み焼きのような(お好み焼きの居酒屋チェーンだから、この表現力の無さを悔いるわ…)上手い具合に焼けて誰かに食べて貰える。
でも残った焦げ付いたお好み焼きは捨てられてしまう。
「金井先輩」
「はいっ?」
「先ほどから呼んでたんですけど…」
「ああ、君が後輩君?名札なんて読むの?」」
「はい、鎌ヶ谷苦人と読みます。よろしくお願いします」
ぺこっと行儀良くお辞儀して、礼をした顔を上げれば、綺麗な女の子みたいな顔立ちとキラキラな大きな目もと、美味しそうな唇。髪も何のシャンプー使ってるのかしら?などと、良い匂いと視覚で感じ取ってしまう。接客業が長いと、この人は危険だと何だか感じ取ることが出来るのだけど、
何か綺麗だけど…
お人形みたいに無表情だなぁと、苦手な部類だと思った(とか言いつつ、久々の美少年後輩!と少し浮き足立ってしまう所が嫌)
「金井先輩、僕の事覚えてますか?」
新手のナンパ??と思いつつ、何故かからかってるように見えない。
口説いてるようにも見えないし、照れてる様子もないので、「あはは、どっかで会っててもお客さんだったのかもねぇ~」と明るく躱してしまう。
本当に会った事があるのかな?と思ったけど、タイムカードを切るまで後10分だったので慌ててしまい、忘れてしまう。
仕事は相変わらずで、今日はミスが多かった。あの言葉のせいなのかなぁ?
後輩のイケメンの男の子に言い寄られた(?)のかもしれないのよ、そりゃ上がっていいとこ見せたいわ。
タイムカードを切ると、彼の方から声を掛けられた。
「一緒に帰りませんか?」
「え、いいけど…」
まただ、あの鋭い目つき。さっきは気が付かなかったけれど…何かそれは深い愛情にも憎悪にもとれて…ただ地顔が無表情だから?それにしても…
「苦人君って変わった名前だね」
「そうですか??」
「変わってるよ!」
彼の足が突然ピタッと止まってしまったので、どうしたの?と振り返る。
車も、鳥も、空も、人も止まっている。スローモーションの動画を一時停止したいみたい。
まただ、また私だけが動いてる。何で??怖い!!!
「本当に?覚えてないんですか?」
「ぅあわああああっ」
キスしそうな距離で…?ビックリした!
あれ、気が付いたらまた時が動いてる。
疲れたのかな…??
「私、疲れてるみたいだし、苦人君の事は忘れてるだけかもね、そのうち思い出すね!今日は送ってくれてありがとう」
笑顔を無理矢理作ると、営業スマイルになってしまい、心の中で強がってるなぁと思いつつ…
この悩みを誰に打ち解けていいのかも分からなかった。
「こちらの世界に引き込むのは時間が掛かりそうだ」
「彼女、本当に引き込んでいいんですか?」
「彼女はネバーランドの住人だ。助けてくれたんだ。苦人って名前を付けて。」
「でも、この国に来たら…彼女は死ぬことすら出来ない。狂った国の救世主になるのですか?」
「まぁ、待てよ。ゆっくり引き込めばいい」
いかがでしょうか?久々のファンタジーです!