うす塩ゴリラ
「アンコールどうもありがとう」
うす塩ゴリラのドラム兼ボーカルのシオリが呟いた。
シオリは華奢で、大人しそうな見た目の女性だ。
「ここで皆に聞いてほしいことがあるんだけど、いいかな?」
僕を含む、うすゴリファンの黄色い歓声が飛び交う。
シオリは嬉しそうに微笑み、相棒のゴリ村に目配せした。
ゴリ村はおずおずと語り始める。
「今日はね、アタシ 皆に言いたいことがあるの」
ゴリ村は2メートルはあろうかと言う巨体と、格闘家のような筋肉を持ち合わせた男性である……はずだった。
うすゴリファンがざわついた。
そりゃそうだ。
この口調、この空気。
カミングアウト意外にあり得ない。
「おだまりっ!」ゴリ村がドラムを平手でバーンと叩いた。
いい忘れていたが、このうす塩ゴリラというデュオはメンバー二人ともドラムという、実に斬新かつ独特なスタイルを確立しているのだ。
「アタシ達がね、二人ともドラムをやるって言ったとき、皆 指をさして笑っていたのよ。でもそれが、今じゃ こんなにもたくさんのファンに囲まれて……アタシ、本当に幸せよ……」
うすゴリファンから暖かい拍手が起こった。
会場全体がほんわかした中、シオリがまた話始めた。
「正直なところ、このダブルドラムってスタイルには限界を感じてるんだよね」
ゴリ村が頷く。「声がドラムで掻き消されちゃうのよね」
シオリも頷く。「息が続かないし、キツイ」
うすゴリファンも深く頷く。
ずっと疑問に思っていたことだ。
やっぱりキツかったんだ……。
「という訳で」ゴリ村が続ける。
「アタシ達、うす塩ゴリラは 今日から
ダブルドラム改めダブルおねえになるからよろしくね」
えぇーーーーーっ!!
うすゴリファンの絶叫が、会場に響いた。