第五話『絶対神降臨』――アバン『諸行無常』
●平成二十三年九月二十四日(土曜)午後十一時五十七分――赤月市、市街地。
「なんでこんなにも世界は悲しみで満ちているんだろうね」
少しだけ欠けた月を見上げ、フードを被った不審者は呟く。
声変わり前の子供のようなソプラノボイス――声からは性別不詳。
優雅に溜息をつきながら、彼か彼女か判らない不審者が視線を地面に移すと――
「……う……ひょおぉ……」
そこには、アスファルトの上に倒れ伏す老人の姿があった。
彼こそはこの現人神降臨儀式『魔導書大戦』における最古参――五十年間、自らの相棒である精霊『観音様』を人間にして、女王様になってもらうことを夢みていたドM・無常さん。
――……うん。やられたのに幸せそうな表情でピクピクしてるとか、かなり気持ち悪いね。
不審者は嫌悪感を抱きつつも全力で我慢して――変態の懐からボロボロの巻物を奪う。
表面にかすれた文字で『西遊記』と刻まれた巻物。
無常さんの希望が詰まった魔導書。
「これが最後の魔導書……これで、儀式を行える」
魔導書大戦の表向きの最終目的――精霊人化の儀式。
作り物の幻想に希望を託す哀れな人々が、醜く喰らいあった果てに掴める汚れた奇跡。
「でも、物語のキャラクターが現実に出てくるなんておかしいよね」
ソイツにはそれが許せない。
この世界の理を無視するファンタジーが許せない。
「待ってて、イクサくん。ボクがキミを――」
そんな最低の争いに、イクサが関わっていることが許せない。
だからソイツは――
「救ってあげるよ」
その手で、全てを終わらせることを決めていた。
そんなワケで五人目のマスター・無常さん、イクサと出会う前に……敗北!