第四話『破滅の預言者』――Aパート『現在《きょう》』
「ハジメマシテ、『神山』奇跡デス」
「ハジメマシテ、神山戦デス」
気不味い雰囲気の中で自己紹介――知り合いなのに知らないふりをすること以上に、殺意の波動を送ってくるお姉さまの視線がイクサには気不味い。気不味すぎました。
だが父親はそんな息子の苦労には気づかず、笑って言う。
「はははミラちゃんウソはダメだぞ。キミの名前は奇跡と書いて『ミラクル』じゃないか」
「ぺ、ペンネームじゃなくて本名ッ!?」
「……フッ。神山ミラクル? それは世を忍ぶ仮の名! 私はこの世界の恋愛観を破壊し、人類を破滅と混沌へと導く美少女天才百合マンガ家・神無月奇跡よ!」
――……どこの鳳凰院さんだよ!
と、心の中でツッコむ恋愛観を破壊され百合趣味に目覚めた熱狂的ファン。
それに、たしかに百合というか同性愛に目覚めたら人類的に破滅と混沌の未来が待っているだろうから、そういう意味でも嘘は言ってない。名前は偽っているが……。
「……まあ、どうしても仮の名で呼びたいというなら『ミラ』って呼びなさい。でも人前でフルネームを呼んだら許さないから!! 絶対、ぜ~ったい、許さなんだからぁ!」
「だったら俺のことはお義兄ちゃんと呼べ! 愛情込めて呼ばないと許さないぞ!!」
『あきらかにお義兄ちゃんの方が無茶言ってるのです』
『……弱みに付け込むとか、やっぱり男ってサイテーよね』
精霊二人の非難の視線――だが、そんなのはイクサにとってはご褒美さ。
逆に「お義兄ちゃんか……まあ、いいけど」と受け入れちゃってる奇跡が物足りないと思ってる強者で……ダメだこいつ、なんともならない。なんともならないから話を進めよう。
「――で、この状況はなんかの作戦だったりするのかね、ミラさんや?」
「――いや、私も知らなかったんだけど、私達ってマヂで正真正銘の従兄妹同士らしいわね」
「――マヂ?」
「――……って言うか、二、三ヶ月前から伯父さん、ちょくちょくウチのアパートに遊びに来てて、てっきりお母さんの恋人で私の新しいお父さん候補かと思っていたらこの展開よ。斜め上を行かれまくりで、いつかマンガのネタにしてやりたい気分だわ」
「――天才美少女マンガ家の上を行く神展開か」
「――話は変わるけど、伯父さんは『母さんが駆け落ちした』って言ってるけど、私が物心ついた時にはお父さんいなくて、写真もなくて、ご近所さんも見たことないって言ってて、母さんは『好きになっちゃいけない人を好きになっちゃったの』としか教えてくれないのよ……もしかして伯父さんが私の本当のお父さんって可能性あるのかしら、オ・ニ・イ・チャ・ン?」
「――……ま、まさかぁ……あはは……」
珍しく歯切れの悪い返事で狼狽えるイクサくんでした。
心の中で「まさかさっき狼狽えていたのは、マヂでそういう事なのか!?」と恐怖していたりする。さすがにそれは恐ろしい。主に倫理的な意味で。
そんな恐怖に口を閉ざし、イクサと奇跡の家族としてのファーストコンタクトは終了した。
●平成二十三年七月八日(金曜)午前七時二十三分――通学路。
『――ってな事が昨晩あったのです』
「それはまた……『もう会うこともないでしょう』と言ったその日に、これからずっと一緒に住む事になるなんて……笑うしか、ない、ですよね。ププっ!」
「……本気で笑ってやがる」
微妙に我慢してるところが本気の証拠である。
これが東野葵――イクサの初恋の幼馴染で初失恋をくれた相手でありました。
登校中、外でこんな話をするのはデリカシーに欠ける気もするが、神音の声はマスターにしか届かないので問題ナシ。まあ、普通の人には葵が一人で突然笑い出したように見えて問題アリまくりかもしれないけど……本人が気にしてないから大丈夫、問題ない。
――……笑っていいのは笑われる覚悟のあるやつだけ、ってことだな。うん。
そんな覚悟で周囲の視線をスルーするイクサくん。
周りの事なんて気にしない。ただひたすら全力全開で葵と楽しそうにお喋りする神音をホンワカした視線で舐めるように愛で――ていたら、突然背中を『バシッ!』と叩かれた。
「――っぃて!? 何しやがる!」
イクサが怒りとともに振り向けば、そこには影二つ。
その姿を確認すると同時にイクサの怒りは霧散する。見知った顔――友達だったから。
一人は学ランを着た超絶美形――顔は完全なシンメトリー/鋭い眼差し/高い鼻/瑞々しい唇/首の後ろで纏められた漆黒の長髪/身長はイクサと同じくらい――でもそのヘラヘラ笑顔が全てを台無しにしている。そんな残念イケメンで、どこかイクサに通じるものがある。
もう一人はカッターシャツ姿の少年――ほどほどに整った顔/ハイライトのない黒い瞳/左目に眼帯/ボサボサの黒髪/眼帯付近は白髪/鍛えられ引き締まった細身の身体/どこか野性的な雰囲気を身にまとう高校生――しかし、口元に浮かんだ優しい微笑みがその全てを好意的に見せている。どこかイクサと似た、でも決定的に真逆な印象を受ける相手だった。
ちなみにイクサの背中を強打したのは前者で……。
「おはよ、相変わらず仲いいな、御両人。結婚式には俺様も呼んでくれよ!」
「……おはよう。ラブコメ大好きで、他人を使って現実でラブコメシチュエーションを演出する漢、自称ラブコメマスター・斎藤縁。通称バカ縁。もしくはラブコメバカ」
「朝から喧嘩売ってんのかッ!?」
「……まあ、ウソは言ってないかな」
「さっちゃん、お前もか!?」
「そっちもおはよう――暁学園の生徒会長にして、病弱な義妹はヤンデレで、高校生なのに結婚してて極悪な姉さん女房がいて、その弟にして見た目美少女すぎる男の娘とBLな関係で、従兄妹はアイドルで、魔法少女やお嬢様にストーキングされてて、ついでに精神を病んでるラブコメバカに愛されまくってるエロゲー主人公・蒼井皐月くん。通称さっちゃん」
「……ま、まあ、ウソは言ってないかな」
「それでいいのか、さっちゃん!?」
イクサのあんまりな人物紹介を――少々顔を引きつらせながらも――受け入れてみせる生徒会長様。さすが生徒会長といえる器のデカさなのだが、怒ってるラブコメマスターの方が神音には人間らしく思える。我慢しすぎるのはダメ絶対。
『――お友達ですか?』
「――心の友とかいて心友。俺は神音ちゃんのためなら死ねるけど、コイツ等のためなら『どんなに苦しくたって生き抜いてやる』って思える奴等さ」
『――………………そうなんですか』
どっちの方が大事なのか判断に迷う。
だけど、迷うぐらい大事なんだという事は神音にも解った。
そんな相手だからこそイクサの紹介に遠慮がなかったという事も……。
胸に渦巻く嫉妬のような気持ちにモヤモヤする神音に――少年達が視線を向ける。
「イクサ、変な事聞くけど……そこ、誰かいる? 視えないけど、女の子っぽい気配がする」
「俺様も! 視えないけど、美少女のかぐわしい香りがしてフローラル!」
「『『――――!?』』」
イクサを除く三人――神音・葵・源氏が息を飲んだ。
マスターにしか視えない精霊を感じとれる――つまり、この二人はマスターか、と。
しかし、イクサは身構える三人を手で制し、友人達との会話を続ける。
「フっ。二人にはまだ視えないかもしれないがここに俺の恋人がいるのさ!」
「東野さんじゃなくて?」
「さっちゃん、ほら、イクサは東野さんにはフラれたんだって。そんな傷口えぐるようなこと言うなよ。可哀想じゃないか。哀れじゃないか。自殺したらどうするよ!」
「黙れや、このバカ!」
――……お、お義兄ちゃんが声を荒げて怒った!? そんなの私が生まれて初めてなのです。私の前ではいつもヘラヘラ適当なのに……本気になってもニヤニヤなのにぃ……。
それが本心を隠してるように思えてきて……神音はその小さな胸をさらにモヤモヤさせる。
だが、怒れるイクサは――そんな神音の気持ちには気づかず――溜息ひとつして、告げる。
「……今はできないけど、近いうちに紹介するよ」
「俺の手助け――」「俺様のアドバイス――」「「――いるか?」」
間髪入れず、息を吸うように手を差し伸べてくる友人二人。
そんな気づかいがイクサにはとても嬉しい。嬉しいのだが……男には惚れた女の前では格好をつけたいという本能があるのだ。だから、今は二人の好意を丁重に断ろうと決め……。
「アドバイス、プリーズ」
……たのに、口は真逆の言葉を紡いでいた。
その返事に満面の笑顔を浮かべるイケメンと、悔しがる生徒会長――そんな彼等の態度に葵さんはご満悦。ご飯三杯はいけそうな表情でヨダレたらり……腐ってやがる。納豆か!?
「じゃあ、いくぞ――気をつけるコトは、『最大の敵はお前のすぐ側にいる』『ルールはルールを作ったモノのためにある』『最後に勝つのは正義じゃなくて愛』の三つだな」
「…………了解。代価はいつもどおりか?」
「おう。全部終わったらお前のラブコメ話を聞かせてくれればいい。じゃあな、アディオス」
そう言ってイケメンは去っていった……何故か学校とは逆方向に。直後、本気で家に帰ろうとしていたバカを生徒会長が捕獲――肩に担いで校舎へ。バカが「いや~、犯されるぅ~!」とか叫んでいたけど、周りの人達は笑ってスルー。これが彼等の日常風景らしいです。
『……変な人が集う変な学校なのです』
そんな神音の呟きを、イクサと葵は笑ってスルー……これが彼等の日常風景なのである。
●平成二十三年七月八日(金曜)午前八時三十分――暁学園、三年A組。
「転校生を紹介するぞい」
「神山奇跡です。みなさんよろしくおねがいします」
「同い年かよ!?」
クラスメート達の前でツッコム迂闊者――集まる視線/説明を求める無言の圧力――だが、イクサは圧力に屈するような漢ではない! ノリで口を滑らせる漢ではあるが!!
「あ、えっと……あの娘、親父の隠し子です」
「従兄妹よ! イ・ト・コ! なに言ってんのお義兄ちゃんっ!?」
「つまり俺と結婚したいと?」
「どこをどうしたらそいう結論になるのよ!?」
「兄妹は結婚できないけど従兄妹同士は結婚できるんだゼ☆」
清々しいほどの得意顔で常識を言う――つまり、彼は兄妹ではなく従兄妹同士だということを強調するのは『結婚したい』と言ってるに等しいと考えているらしい。
そんなイクサも問題だが、奇跡にとっての問題はそれだけでは終わらないというか……。
「……えっと、つまりあの転校生はイクサの親父さんの隠し子で従兄妹ってこと?」「え、それってあの娘の母親って親父さんの……?」「いや、兄嫁とかに手を出した可能性も」「それは論理的にマズイだろ!」「姉や妹に手を出すほうがマズイって」「どっちにしろ禁断の愛よね」「インセストなタブーに一票!」「兄嫁サイコー!」「近・親・相・姦」「妹は兄の嫁」
てな感じに、少ない情報から状況分析してくれちゃってるクラスメート達の方が大問題。
「……やれやれ。相変わらず狂ってるな、このクラスは」
「言い出しっぺがなに言ってんのよぉ!」
涙目で抗議する奇跡が可愛い――とイクサが思った瞬間、その背後から全力全開の殺気を放つ花音さんと目が合い…………――その日、神山イクサは血を吐いて病院送りになりました。
……こうして、神山奇跡とちょっとおかしな三年A組のファーストコンタクトは終了した。
おかしなクラスメートたちとの学園生活に奇跡は不安で小さな胸をドンヨリ曇らせた……のだが、その日が終わる頃には馴染みまくっていましたとさ。類友、類友♪
●平成二十三年七月十日(日曜)午前八時三十分――神山家、イクサの部屋。
「いいかい、神音ちゃん? ……触るよ? 触っちゃうよ?」
『優しくお願いします、お義兄ちゃん』
恥じらいながら、その胸を差し出す神音。
羞恥に頬を赤く染め、迫る少年の手から目を逸らそうとしつつも逸らせない――そんな仕草がイクサの胸を高鳴らせる/緊張に生唾を『ゴクリ』/人差し指に神経を一点集中――ゆっくり、ゆっくり、彼女の胸の頂点へ向けて進め……。
いよいよ触れるその瞬間――
「やっぱり嫌ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」
稲妻のような右ストレートがイクサを吹き飛ばした。
さらに、前のめりに倒れたその背中を――
「朝っぱらから人を呼び出しておいて、なにイチャついてるんですか、このバカップル」
葵が踏みつけて、行動を封じた上でお説教開始!
わざわざ呼び出しに応じたのに、イチャつかれたら怒ってもしゃーないでしょう。
「違うよ、葵さん。これは修行なんだ! いや、グリグリはやめて! アイヤ――ッ!!」
「……恋人の胸を触ってどんな境地に至ろうっていうんですかね、この変態さんはッ!」
「いやいや、葵さん! 真の達人によるパントマイムは見ている人間に視えないはずの壁や、重い荷物や、昆虫やら味噌汁を見せたりできるという話を聞いたことがないかい!?」
『ま、まさかイクサくん、キミは……!』
「ああ。俺が神音ちゃん相手にそのレベルのパントマイムをできるようになれば、神音ちゃんが人間にならなくても、周囲の人から視えるようになるんじゃないかと思ってさ」
「……それは『エア彼女』と言って、アナタがもう通り過ぎた道なのです」
『そういえばイクサくんは神音ちゃんとの登校初日にそれをやって、クラスメート達を保健室送りにしてたね。懐かしいな~』
二人からの指摘に顔を真っ赤に染める……神音さん。本気でそのことをド忘れして、真剣に修行に取り組んでいた御様子です。恥ずかしい。メッチャ恥ずかしい……だから、彼女はその恥ずかしさから逃れるために『キッ』とイクサを睨んで怒鳴りつけた。
『……お、お義兄ちゃん! そもそもなんで胸を触ろうとするんですか! 他のテキトーな場所でもいいじゃないですか!!』
「本気でやるからこそテキトーな場所じゃダメなんだ! 俺だってホントはその美脚にスリスリしたいけど、それはさすがに卑猥だと思うから胸で我慢してるんだぞ!!」
『足は卑猥なのに胸はOKなのですかっ!? お義兄ちゃんのコト解らないです……』
「胸なんて飾りです! その身体を支える『脚』こそ美の象徴!!」
『……ソウダッタデス。ダカラ私ノ胸ハ『つるぺた』ナンデシタ、DEATH』
殺気を感じたイクサが後退る。
だが彼は、その殺気に恐れつつもときめく末期のヤンデレ好きゆえご褒美です。
「イクサくん、胸は飾りだって言ってるのに気持ち高まるのですか? 矛盾してません?」
「フっ……それでも胸を触るという状況にはドキドキするものなのさ。男の子だもの!」
「……源氏様、同じ男としてなんか言ってあげてください」
『葵さん、オッパイに貴賎はないよ。小さいのには無限の可能性が、大きいのには夢が詰まっているからね。小さいのを育てたいという父性愛と大きい母性への憧れの狭間で漢は揺れるものなのさ……ホント、男も女も罪深いイキモノだよ』
「『なんで擁護してるですかっ!?』」
親指を立てて『グッジョブ!』な漢達。
もちろんその後、彼等がそれぞれのパートナーに引っ立てられてお仕置きされたのは言うまでもないことでありました……合掌!
●平成二十三年七月十日(日曜)午前九時五十六分――神山家、居間。
「……やれやれ、なのです」
と、溜息をつきながら葵はソファーへ腰を沈める。
既に源氏へのお仕置きは完了済みなのだが、あちらのバカップルはま~だイチャついているようだった。部屋の外までイチャつく声が聞こえてくる。死ねばいいのに……。そんなワケで葵はキッチンでお湯を沸かして紅茶を入れ、棚からクッキーをゲットして優雅にティータイムと洒落こんでいたのだが……それがマズかった。クッキーも紅茶も美味いけどマズかった。
「あ、葵ちゃん。こんにちわ」
「……こんにちわ。ミラちゃん」
なんの覚悟もなく、この家の新しい住人と遭遇してしまったから。
――……メッチャ気不味いのです。
テーブルを挟んで無言で向かい合う二人の少女。
葵にとって奇跡は前回倒した相手なので、一対一で会話するのは気不味い。かなり気不味いので、とりあえず紅茶でも飲んで一息――と思った瞬間、奇跡がその沈黙を破った。
「ところで葵ちゃんは『カミ☆イクサ』っていうのがどんなお話なのか知ってる?」
「……し、知っていますが、ミラちゃんはまだ読んでないのですか?」
「お義兄ちゃんってば『身内には読まれたくないでござる』とか言って見せてくんないのよ」
『なんで「ござる」……?』
「あ~、その気持ちはわかるのです」
『わかるのかい!?』
「……『ござる』じゃなくて『身内に見せたくない』って方のことですよ。……なんといいますか、創作物を家族に見せるっていうのは親に自慰行為を見せつけるようなものですからね」
「『すっごく嫌な例えねッ!』」
どこか遠くを見ながら言う葵に、奇跡と花音が声を揃えてツッコんだ。
乙女のあんまりな言葉に狼狽えた奇跡だったが、なんとか全力全開で精神を立て直し――聞きたかった本題に入る。遠回しに言うと失敗しそうだったので、単刀直入で。
「じゃあ、あらすじ! あらすじ教えて。解りやすく千文字ぐらいにまとめて教えてくれないかな? あ、ネタバレは有りでいいからさ」
「……まあ、いいですけどね。え~っとですね――
――ある日神山イクサは父親から「今日からお前の妹になる神音ちゃんだ」という言葉とともに、一人の女の子を紹介される。
イクサは自分の理想そのままな少女に一目惚れするが、少女の方は頑なに心を閉ざし、イクサのことを石ころのように扱うのであった。
それでもめげないイクサと神音の学園生活。
日々の生活の中、段々心をひらいていく神音。
そして、明らかになる真実――神音は昔引っ越していった初恋の幼馴染だったのである。
そして、それが解った時、二人の真のラブコメ道が始まった。
続々現れるサブヒロイン達――BL好きだけどホントはイクサにベタ惚れな『幼馴染』と、その彼氏なのにホモな『イケメン』。父親の隠し子で、その境遇ゆえに男嫌いになって百合趣味に走った『実妹(?)』と、その憧れの『お姉様』にして神音にソックリな女の子。師匠の愛娘な『ゴスロリ幼女』。ドSな『姐御』に『男装の令嬢』……と、そんな個性豊かなサブヒロイン(モブ扱い)達とハーレムラブコメを繰り返した結果、神音さんがヤンデレ化。
襲い掛かってくる彼女を、海よりも広~い心でイクサが受け入れて……ハッピーエンド♪
――って感じの駄作です」
あらすじ約四百文字――千文字にはかなり足りないが内容は十分解るだろう。たぶん。
「……父親の隠し子?」
『そのお姉様で、神音ちゃんソックリな娘?』
『……ホモなイケメンって……』
解っているからこそ、誰もが顔を青くする。
イクサの物語の登場人物は葵達全員に当てはまる――でも、その物語が書かれたのは奇跡達がイクサと出会う前のこと。深く考えなくても怖いだろう。
「……順番が違うでしょ」
「そうですね。出会ったのはゴスロリ幼女のほうが先だったのです」
「そうじゃなくて……」
「冗談です。でも、その答えはアナタがイクサくんの本当の家族になる時まで秘密にさせてもらうのです。ゴメンナサイ」
暗に『今の奇跡には知る資格が無い』と言い、葵は強引に話を打ち切った。
再び気不味い空気が流れる居間。そして、先に席を立った方が負けと考えたのか、頑として座り続ける二人の乙女。彼女達はトイレも我慢してひたすら無言で座り続け……。
……その激しくも静かな戦いは、一人の少年が人身御供となるまで続いたそうな。