第四話『破滅の預言者』――アバン『家族が増えました(リアルに)』
●平成二十三年七月七日(木曜)午後七時三十二分――神山家、食卓。
食後のまったりとした一時。
イクサにとっては奇跡との激しい戦いを経て辿り着いた安息の時間……だったのだが、それは家長のこんなセリフで壊された。
「喜べ、息子。いまからお前に『妹』を紹介してやる」
「……つまり『隠し子』ということか、親父?」
「そ、そういう危険なことを口にするな! 母さんに聞かれたら――」
「あらあら、何を狼狽えているのかしら、ア・ナ・タ?」
台所から現れたエプロン姿の女性はイクサの母親――実年齢よりマイナス十ぐらいの若々しい外見/葵と同じ長い黒髪/どこか神音に似た顔立ち――その表情はニッコニコな笑顔なのだが、その手にはギッラギラな包丁が逆手で握られていてメッチャ怖い。
そして、母が登場するやいなや弁解もせずに土下座する父親が情けない。と~っても情けない……が、イクサはそんな父親が嫌いではなかった。
――……やはり男は女の尻にしかれるのが良い。俺も愛した人の尻に敷かれたいものよ。
むしろ一変の曇りなく心の底から憧れていた。
刃物を持った妻にニコニコ笑顔で迫られるのが彼の理想だった。
父親はそんな息子の歪みには気づかず、咳払いを一つして話を続ける。
「話せば長くなるが……昔、駆け落ちして家出した妹とこの間バッタリ再会してな。いろいろ話し合った結果、一緒に住むことになったんで……つまりそういうことだ!」
『さすがお義兄ちゃんのお父さんです! 人に理解させようって気が全くないのです!!』
「――いや、できれば一緒にされたくはないんですけど」
呆れる神音に小声で反論するイクサ――声量をおさえたのは両親に不審がられると神音の方が気に病むためです。自分の事はともかく、彼女の為ならお気使いできる男・神山イクサ。
父親はそんな息子の少々不審な態度には気づかず、再び咳払いを一つ。
「じゃあ、満を持してのご登場。みなさま新しい家族を盛大な拍手でお出迎えください」
「おー、パチパチパチ♪」
母親の可愛らしい拍手の中、廊下から足音が聞こえ……。
ごく最近というか、今日知り合ったばかりの少女が現れた。