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俺と杉の木

学校からの帰り道に、大きな杉の木がある


樹齢600年、などの噂を聞いたりしたが、本当の所はよくわからない

でも、うちのひいじいちゃんが子どもの頃にすでに生えていたらしいから、少なくとも樹齢100年はこえているようだ


そんな古い木だからか、地元では神樹とか言われて町の守り神みたいになってたりする訳で

買い物帰りのおばあちゃんがこの木に向かって拝んでいたりするし、俺も子どもの頃に「この町はな、あの杉の木様が守ってくださってるんだよ」とか祖父に言われたものだ


そんな杉の木が俺は嫌いだった

いや、別に杉の木そのものが嫌いな訳じゃないし、神格化されているのが気に食わん!って言う訳でもない

むしろこういう物に神格が宿るっていう八百万の神みたいな発想は好きな方だ


ただ、俺がこの木の傍を通ると、決まって頭痛がするのが嫌なのだ

オカルトな話だが事実だから仕方がない


そんなに酷い頭痛ではないのだが、気分が悪いときにこの杉の近くを通ったりすると頭痛で更に気分を悪くしてしまうのがいただけない


ならば避けて通れば良いじゃないか、という話だが、俺の家に帰るにはこの杉の近くを通る他に方法は無いのである


そういう事情がますます俺の気分を悪くしてしまう


中学1年の頃から始まった、杉の木を通れば毎回起こるこの現象は、俺の杉の木に対する嫌悪感を生み出すのには十分だった


そういう訳で俺、清倍(きよべ) 昌明(まさあき)は憂うつな気分で帰宅していた


(もうすぐ、例の杉の木の近くだな)


そう思うと、足取りも自然と重くなる


……


杉の木が見えてきた

地上からどっしりと太い幹が生え、刺々しい葉っぱはまるで何かから木を守るように茂っている


(相変わらず立派だな…嫌いだけど)


そんな事を思った矢先に、鋭い痛みが頭の中を襲う

いつもの頭痛だ…そんなふうに思っていたのだが


「クッ…ウゥ…」


いつもとは違う強烈な痛みに、俺はアスファルトの道路に頭を抱えてうずくまってしまっていた


膝にアスファルトの地面に食い込んで痛かったが、それ以上に頭が痛い

脳ミソが引き裂かれそうだ

呼吸すら上手く出来ず、ハッハッと犬のように息を吐き出すしかない


やっとの思いで顔を上げるとそこには信じられない光景が広がっていた


杉の木の幹に、ぽっかりと穴が開いたように大きな黒い渦があり、その黒い渦から一つ目の怪物が顔を出しているのだ


瞳の色は赤く、視線は明後日の方向を向いていた

口元からは、蛇のような舌をチロチロと覗かせる


俺が頭痛と恐怖でその場から動けない中、怪物はのんびりと黒い渦から這い出す

蛇のように細長い胴体には、長さや大きさの違う手足が何本もついており、それを器用に動かしながらアスファルトの地面に着地した


怪物は着地した後、足をわちゃわちゃと動かしたり、胴体を伸ばしたりして、まるで身体の調子を確かめるようにしていたが、やがて視線を杉の木に移すと、長い胴体を幹に絡ませ、締めあげた

その直後、ミシッと木の幹がきしむ音が聞こえる


(木を折ろうとしてるんだ)


相変わらず頭痛と恐怖で動く事ができない俺はぼんやりした頭でそう思った


木のきしむ音は時間が経つ毎に大きくなる

それはまるで杉の木が悲鳴をあげているように聞こえた


……


その瞬間が訪れるのにさほど時間はかからなかった


一際大きくな音が木から鳴り響いたと同時に、怪物が一際大きな声を上げる

まるで喜んではしゃぐように


怪物が杉の木から離れると、ゆっくりと杉の木は倒れた


…神樹と呼ばれた杉の木は、怪物の手によって折られてしまったのだ


木が折れた瞬間、俺の頭痛は無くなった

だいぶ落ち着いて、恐怖も無い

いや、もう俺の脳ミソは諦めてしまったのだろうか


もう逃げ出せない、と


これから自分が死ぬというのに、諦めるのが早すぎじゃないかと思ったが、そういえば俺って諦めるのが早い人間だったな、とすぐに思い直す


小学校の通信簿にも「すぐに諦める癖をなおしましょう」と書かれていた気がしたが、結局最後まで直せなかった


そういえば小学校の頃にクラスメイトだった佐藤はどうしているだろう


よく見ればイケメンなのに、「霊界」がどうのとかオカルトみたいなこと言ってて女子に敬遠されてたっけ


…いくら女の子との関わりが少なかったからって、死ぬ間際に思い出したのが男って、ホモかよ俺は



そんな事を思いながら、俺は口を開けて迫ってくる怪物を眺めていた


「死んだら霊界に行けるのかな」


怪物は俺を飲み込んだ

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