表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

悠木遥

 

 一方、バイクでどうにか病魔の攻撃から逃れた悠木遙は、ロータリーを周り、一度大通りに出る。体勢を整えるためだった。それに――

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 病魔がいるんだよっ! ……怖いっ! 腕が痛むよぉ!」

 遙の背後に乗っている陽炎が、駄々をこねる子共のように、泣き叫んでいる。

 まず、彼をどうにか落ち着かせなければならなかった。

 遥はバイクを歩道の傍に停車させてから降り、バイクの背で蹲る陽炎の胸倉を掴んで、持ち上げる。そして、涙で目を赤くした陽炎の横っ面を平手で叩いた。パンッ! という音が良く響く。

「いい加減にして! あんた、それでも男!?」

「うぐっ……!」

 嗚咽を漏らし、彼は撲たれた頬を撫でていた。

「人類防衛軍に入ったからには人々を守らないといけないのに……あんたが守られる側になってどうするのよっ! それに痛いって言ってるけれど、もういつの痛みよ! あれから四年経ってるんだから! その痛みはただの空想の産物よっ!」

 遙は、瞳と声に怒りを込める。陽炎の左腕は、四年前の第一次病魔襲来の際に、鷹型の病魔によって喰われた。 

 その影響で、彼は病魔と相対すると喰われた時のトラウマが蘇ってしまうのだ。

 それを知っているのは、遙ただ一人。だからこそ、彼にはっきりと言うのだ。

(宮下をどうにかするには、あたし以外に他にいないからっ!)

「今、あんたの能力が必要なの! 分かってる!? この間にもカナハは病魔に殺されるかもしれないのよ! あんたがうじうじしてる間に! それでもいいっていうの!? 同じチームなのに、彼女を見捨てるの!?」

 陽炎の肩を揺さぶりながら問い詰めると、彼はぶんぶんと首を振った。

「見捨てたくない! これでいいわけないって事は分かってる……分かってるんだ。でも、病魔を見ると怖くて、あいつらに喰われた時の激しい痛みが蘇ってくるんだ……。駄目なんだ、どうしても。怖いんだっ……」

 荒い息を吐き、がくがくと全身を振るわせながら、彼は左肩を掴む。

 遙は、陽炎の手と肩を優しく掴んで、優しく微笑む。

「大丈夫、あたしが付いているから。怖がんなくていい。四年前はどうだったか分からないけど、今は仲間がいる。だから、仲間がピンチになったら助けに行く! その代わりにその仲間がピンチになってたら、あんたが助けに行く。ギブ・アンド・テイク。でしょ?」

「ゆ、悠木さん……。……うん、僕、やってみるよっ!」

 不出来ではあったが、彼の顔に笑みが戻った。しかし、遙は頬を膨らませて怒る。

「さん付けはいらない、宮下。……あたし達はチームなんだから、もっと親しい呼び名んで」

「あ……うん。じゃあ、悠木……で」

「ま、まあいいわそれで。許して上げる」

 妙にくすぐったくなり、遙はそれを誤魔化すようにカールした髪先を弄る。

「どうしたのさ、急に黙り込んで……?」

 陽炎は首を傾げて、不思議そうに見詰めてくる。カナハはゴホンと咳払いした。

「べ、別に何でもない! いいから、拳銃を用意して!」

 遙は恥ずかしさを隠すようにそっぽを向きながら、陽炎の前に手を差し出す。

「う、うん。……でもなぁ」

「何よっ! あたしが拳銃を使ったら駄目っていうの!? 文句でもあるわけっ!?  それとも用意出来ないからって、言い訳してるわけっ?」

「いや、そうじゃないけどさ……。(ただ、悠木に武器を持たすと何されるか分かったものじゃないから……心配なだけだよ。こんな事を、本人には直接言えないけどなぁ)。僕は何かあった時のために様々な資料を読み漁ってるから、刀ぐらい知ってるよ。《補強(サクリファイス)》出来るさ」

「なら、とっとと出しなさい!」

 ガルルルと犬歯を剥き出すと、声を裏返らせながら陽炎は「分かった」と返事した。

 彼は目を閉じて、大きく吸い込んでから、長く吐き出す。そして、目を見開いた。

「(大丈夫、僕には悠木や一ノ瀬さんという心強い味方がいるんだから……)拳銃よ、僕の腕となり力となってくれ!!」

 肘から先がなかったのに、陽炎の一声により、甦る。そして、本物と見紛う彼の手には、黒光りした自動式拳銃(オートマチック)が一挺あった。

 これが、彼の能力だった。想像による、創造。しかし、何もかもを創造出来るわけではない。制限がある。知識以外のモノは創造不可能なのだ。

 遙は創造した拳銃を奪い取って、それを握り締める。

「これが平成の時代で流通されていた拳銃……。能力者が現れてから、こういう原始的な武器は製造が激減したのよね……。でもこれに頼らないと、あたしの能力の意味がなくなる。皮肉よね……」

 拳銃は何度も使っているので、手慣れていた。弾倉を取り出し、弾数を確認。十七発しかなかった。無駄撃ちしようものならば、あっという間に弾切れを起こす事になるだろう。

(節約して、なおかつ効率的に倒さなければならないわけね……!)

「ところで宮下、あんたバイクの運転は出来るかしら?」

「えっ? 一応、二輪の免許は持ってるけど……どうしてそんな事を聞くんだい?」

「なら、運転をあんたに任せるわ」

 そう言うと、陽炎がえーっと嫌そうな顔をする。

 遙は腕を組んで、豊満な胸を強調して、言う。

「じゃあ、あんたが病魔と戦う?」

「……ごめん。それはまだ無理かなぁ……。でも、いつかは……いつかはきっと戦ってみるさ」

 陽炎はそれまでとは打って変わって、真剣な顔をした。

「あたしは、あんたの背後から射撃するから。あんたは運転に集中しなさい。もし事故を起こしたら、ただじゃ承知しないから!」

 にっこり微笑むと、陽炎は、あはは、と乾いた笑いを浮かべた。

 遙はバイクに膝をついて乗り、陽炎は遙の前に座ってハンドルを握る。

 バイクが発進すると、追い風を受けて遙の長い髪が乱れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ