新時代
元号が、平成から《新平成》の表記へ移行してから、百四十九の歳月が経った。
日本は、国名を《日本東京都》と改め、首都名を東京から《新新宿区》とした。その理由が、百年前の平成百二十一年、七月三日の金曜日、午前十一時二十三分三十秒まで遡る。
世界はその時、未曾有の大災害に陥っていた。
地球が地球上のありとあらゆる物を死に至らしめる息吹、《毒素》を地表から吐き出したのだ。
死の息吹は生物の命を刹那的に奪い、建物や車や道路といった科学の結晶である人工物をドロドロに溶かし、瞬く間に地球全土を死の海へと変えた。
それにより、生物の数は見る見るうちに激減していき、人工物は跡形もなく消滅する。
災厄に見舞われる中、唯一、生き残りを賭けた戦いに打って出た生物が存在した。
それが、人類だ。
彼らは生物の中で最高峰の頭脳を持っていた。その優れた頭脳を活かして、とある計画を実行したのだ。
それが、空の上で生きていく事だった。
毒素は、地上から千メートル以上は噴き上がらない。《死の領域》と呼ばれる毒素の有効範囲から抜け出す事で、人間は生き残れるのだ。
だが、この計画には難点があった。どのようにして空で暮らすか、だ。
人々を乗せる乗物――神話に出てくるノアの方舟よりも巨大である必要があり、加え、膨大なエネルギーがなければろくに稼働しない。
さすがに一から舟を創造するのは労力と財源と資源の無さにより、何よりも毒素や病魔により、時間が限られていたため不可能だった。
けれど、元からある物を改造して利用すれば、時間も労力も財源も資源も半分以下に出来るという事に人類は気付いた。そこで選ばれたのが国自体だ。だが、国をまるまる一つ浮かす技術は当時、なかった。だから領土を狭めて、都市を改造する事を選んだ。
そして、もう一つの問題点。都市を浮かすために必要な膨大なエネルギーだ。空の上でも調達しやすく、尚かつ半永久的に使用し続けられるものでなければ意味がない。
そこで選ばれたのは、人々の生きたいと思う気持ち、生きる希望を力に変換した――《生命力》だった。
この二つの要素が合致した事で見事、空中都市が完成する。
その頃には、生き物という生き物がほぼ死滅していた。人工物は、無へと還っていった。
毒素の脅威から逃れた数少ない人々は、ようやく実現した空中都市へと駆け込んだ。そうして人類は滅亡から免れたのだった。
ここまでが《旧時代》の話しだった。