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しばらく拍手が鳴り響いた後、引き際を見計らって再び蓮が口を開いた。



「ありがとうございます。そして、……その祝福を私にも頂きたいのです」



とたん、水を打ったように静かになった。



「私にも、世界中で誰よりも大切な愛する女性がいます」


放心状態だった加藤は、その言葉で遠くに旅立ちそうだった思考を繋ぎ止めた。


隣で、葉月が”げ”と女性らしからぬ声を上げる。




「けれど彼女も、彼と同じ理由で私との結婚に躊躇していることを最近知りました。ダメですね。恋愛小説を書いている私が、傍にいる彼女の心を慮ることが出来なかった。恋人として失格です」






……なぜバレた……




葉月は自分が呼ばれた理由が分からないまま、それでもトーク内容が加藤に向けられていたことに安堵していた。

だというのに、いきなり自分の話を持ち出されて真っ青になった。



「彼女は私の為に、出版社へ相談に行ったそうです。私が不思議に思わない程度に仕事量を調整して、大きな休みを取りづらくしてほしいと」



田之倉に話していたことがバレていた!



昨年婚約を結んでからすぐに式を挙げたがった蓮を押しとどめるために、無理のない程度に仕事量を上げて欲しいと加藤の上司である田之倉に相談しに行ったのだ。

田之倉は蓮への依頼を断っている状態だからそれは嬉しいけれど、と了承してくれた。



の、に!!


ばらしてたわけ、ばらしてたわけぇっ?!




葉月は状況を瞬時に理解して、大急ぎでエレベーターのボタンを押した。


ここから逃げてしまえ!

そして、雲隠れだ!

この状況、蓮が怒らないわけがない!



しかし、いくらエレベーターのボタンを押しても、一階の階数表示を示したまま一向に上がってくる気配すらない。



パニックに陥った葉月に、加藤が諦めた様に笑った。

「多分、一階で”開延長”を押されてるんですよ。誰かが解除しない限り扉が開いたままの、通常のボタンじゃなくて強制的な方でね」


たまに倉庫のエレベーターで見る、鍵付きのボックスの中にあるあれ?!


「もしくは、古藤先生か田之倉先輩の手下がおさえているか」


サ・イ・ア・ク!!


「に、逃げらんない……」



呻くように呟けば、同じく、と加藤が肩を落とす。



そんな二人を置いてけぼりに、蓮のトークは続いている。




「彼女は、私の為を思って行動してくれました。正直、私にはもったいない存在です」



……やーめーてーっ! 蓮にもったいないとか、どんだけハードル上げてくれてんのよぉぉっ!



「それでも、私はその気持ちごと彼女と共に歩みたい」



……今すぐ破棄していいデスカ! 婚約破棄!!



「皆さん。私も桜子さんと同じく、愛する人と幸せになりたいのです。勝手な事を言っているのは分かっていますが……、祝福を頂けますか? 彼女にふさわしい私になるために」



乞うように不安げな声で皆に訴える、蓮。

こんな風に言われて、否を唱えられる人間がいたらおがみたい!



「……凄い、いい人になってる。いい人演じてる……」


実際は、自分の思う通りに進める為に、外堀埋めてるだけの蓮なのに――


加藤以外誰にも届かない葉月の呟きに被さるように、一気に響き渡った大音量の拍手。



思わず、加藤と二人ずるずると床に座り込んだ。



「逃げらんねぇ、な」

砕けた口調の加藤に、葉月も肩を落として同意した。











”あの古藤 蓮が描く、大人女子に贈るどこまでも真っ直ぐな”純愛ストーリー”

                  疲れた心を柔らかく癒してくれる、草食系男子の包容力☆”




蓮が今回書いた小説は、強気美少女絵描きとへたれくまさん編集者の純愛な物語でした。


蓮に渡したUSBは、ただ単にその時手がけていた小説の挿絵データだっただけで。

加藤が読んだものは、桜子さんが面白がって書いたものだったそうです。

(けど内容は真実なので、「いろいろ」な評価を読んだことには変わらない)

チラシは、田之倉さん作。加藤のみ宛。




そして、桜子と加藤の婚約は公のものとなった。











オマケ☆


シークレットイベント当日夜の古藤家




蓮にベッドに抑え込まれている葉月の姿。

その傍らには、転がったボストンバッグ。




「脱走、失敗しちゃったねぇ。葉月」


「だだだ、脱走なんてめっそうもない!」


「ふぅん? じゃあ、そのバッグは何?」


「え? 虫干し? 季節の変わり目には重要な事だし?」


「で。何か言いたいことが?」


見透かすような蓮の言葉と表情に、葉月は開き直ったように叫んだ。


「だって! 私、ただ巻き込まれただけじゃない!!!」


「へぇ? 俺に内緒で、変な画策しといて?」


「それは、だからっ蓮の為っていうか!」


「なら、俺の為に俺のものになってくれるよね?」


 




……ちゃんちゃん♪                              





                                  了  

お読み下さり、ありがとうございました!


                 篠宮 楓

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