第二話「鍵」
私が産まれたのは海の近くの田舎だった。
周りには何も無かった。
大きなデパートも、おしゃれな店も。
だから、ここに来た。
思い切りおしゃれに生きたかった。
思い切り笑いながら生きたかった。
それなのに。
今、私に何があるんだろう。
何を手に入れたというのだろう。
適当にみつけたコンビニのバイトで、
知り合ったくだらない男にはまって、
気がつけば、おしゃれなモノも買えないくらいにそいつに貢いでた。
気まぐれにかかってくる電話を待ち続け、
夜中、酔っぱらいながらかかってくる電話に振り回され、
明日仕事があっても呼び出されれば、出かけてた。
あいつ好みの軽そうな女を演じれば、
くだらない男が声をかけてくるようになった。
こいつも、そうかもしれない。
私はいつしかまず最初にそう疑う癖がついてしまっていた。
こいつ。
そう。私をビルの屋上に連れてきたあいつ。
「シンイチ」
「いいだろ。ここ」
シンイチは私のほうも見ず、眼下に広がる光の湖を見ていた。
「…車がおもちゃみたいね」
細い道路で渋滞になって動く気配すらしない夜の街を見ながら、
ほんとに小さい、と思った。
「気に入った?」
私のほうを振り向いたシンイチの前髪が、ゆるやかな風でふわりと揺れる。暗くてよく見えないけれど、その影のある笑みが気になった。
私はまだ眼下にひろがる無数の光を見つめていた。
こんな小さな世界で、
何をやっているんだろう。
私のやりたかったことって何?
手に入れたいものは何?
…くだらない。
それまで悩み続けた色々な事がなぜかばかばかしく思えてきた。
走って、走って、この景色を見たら、
それまで重かった悩みも、ぜんぶちっぽけだ。
「ここに来たかったらいつでも来たらいいよ」
そういって、奴はポケットからさっきの鍵を出した。
そうだ、こいつ何で鍵なんか持ってるんだろう。
「なんでこんな鍵もってんの?」
やっとシンイチの顏をしっかりと見た。
整った顔立ち。流れる前髪。そこにある微妙な笑顔。
「内緒」
全く。こんな事を何人の女にしてるんだろう。
一人でここに来たとしても、違う女と逢う事もあるかもしれないな。
「くれるの?」
お金もないし、体で払う気もない。
でも、実はこの鍵は欲しいかも、なんて都合のいいことを考えてみた。
奴は少し楽しそうに笑いながら
「あげるよ。 そのかわり…」
…ほらきた。
こいつもか、と、その時そう思ったんだ。




