第一話「雨」
朝から降り始めた雨が未だやまない。
テレビのニュースは梅雨入りを宣言したけれど、
とっくに私には梅雨がきていた。
夜になっても明るいこの通りを、何も考えたくなくて歩いていると、キャッチのお兄さん達が呼び止める。
…どうでもいい。
なにもかもが色褪せて見えてくる。
「どう?うちの店で」
……でもこんな状況で誘いに乗る程アホじゃないやい……。
「ごめんね」
にっこり微笑んで、足早に路地裏に入る。
…ばかみたい。眩しいくらいだったネオンは、一歩路地に入れば闇を濃くするだけでしかなかった、
傘を打つ雨音が消えていた事に気付き、傘を閉じると大きく降って雨粒を落とした。
ガシャーン
…あ、やば。
そこにあったゴミ箱のいくつかが倒れて、中にあった生ごみが散乱している。
私は考えるより早く走りだした。
行くあてがあるわけじゃない。
とにかく路地をまっすぐに走って、走って、赤いライトが点灯する踏切の前で、息をきらしながら後ろを見た。
誰もいない。
それでもしばらく息をきらしながら後ろを見ていると、煩いまでに鳴り響いていた踏切の音が途切れた。
さすがにもう誰もこないだろう、と、最後に大きく息を吐き出すと、踏切をわたろうと振り向いた。
「大丈夫?」
…息が止まるかと思った。振り向いた目の前に大きな影があって、そいつが喋った。背が高く、真っ黒なスーツを着ている。
さらりと流れる前髪をたらして、背の低い私を覗き込む。
「おいで」
そう言うと、私の手を掴んで走りだした。
でも私の足はもうすでに限界を越えている。
もつれはじめているのに、彼の勢いにひきずられていた。
「な、なに!?」
そう言うのが精一杯。
一体何なんだろう。
ていうか、こいつ誰?
「俺、シンイチ」振り向きもせずに、楽しそうに走っている。
こいつ、ばかなんじゃないの?
「名前なんて聞いてないっつーの」
まともに話す事すらできなしない。運動不足だよなぁ、なんて考えながら。
シンイチの流れる髪を見てた。
カンカンとやたら響く階段を駆け上がり、どっかのビルの屋上のドアノブに鍵を入れた。
なんでこいつ、こんな所の鍵持ってんの?
がちゃ、と、重い音がしてドアは開かれた。少し生暖かい風がシンイチの髪を撫でる。
しばらくして私の肩にかかる風にも風がやってきた。
目の前にはネオンの洪水。
さっきまでいた場所がまるでちっぽけな場所のように、あくせく動く人間がまるでおもちゃのようだ。
「俺は聞いてる。名前は?」
「……アキ」




