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交渉人

作者: 耕路
掲載日:2026/06/18

 その異星からの円盤が最初に地球に飛来したとき、その国の軍隊の防空システムは当然のことに警報を発令し、迎撃の戦闘機は緊急発進した。しかし、円盤は戦闘機が近接すると、ひらりとコースを変更した。威嚇のために発射された空対空ミサイルはレーザー兵器と思われる円盤の防御機能によって、目的を達成することなく、空中爆発した。

 円盤は高積雲を突き抜け、ジェットエンジンの戦闘機の追いつけない高空のかなたへと飛び去った。

 三日後、今度は別の国の領空に円盤は現れた。今度も同じように戦闘機が緊急発進し、ミサイルを発射したものの、同じようにミサイルは空中爆発し、円盤は高空へ消えた。

 前代未聞の出来事に各国政府は驚愕した。 

 国連安全保障理事会は、理事国15ヵ国の全会一致で国連軍を組織することを決定し、事務総長は、声明を発表した。

「いまこそ、われわれは一致団結すべきです。このような脅威がほかにあるでしょうか。もはや目先の利害に関わりあっているいとまは、微塵もありません。地球全人類の平和が脅かされているのです」

 事務総長の発言が終わると小国の大使が意見を述べた。

「最初からミサイルを発射し、暴力的な行動で対応するのは、あまりにも知性を欠いたふるまいではないですか? もしかしたら未知の文明が我々の地球に対して親善の意図で接触をしてきたのかもしれない……あくまで平和な応対に徹するべきです」

「あの飛来物は」 

 事務総長が一喝した。

「国家の領空を侵犯しているのですぞ。われわれには国民の生命財産を守る大きな責任があるのです。貴君にも家族はあるでしょう」

 小国の大使は黙ってしまった。

 世界は戦闘態勢をかためた。

 動員可能な最大限の軍隊が各国の領土領海に配備された。早期警戒管制機と情報をリンクした戦闘機が空に舞い上がり、編隊を組んで飛行した。海洋では、ミサイルを満載したイージス艦が艦首で波を切りながら疾駆していた。

 世界の人びとは固唾を呑んでテレビの報道を見守った。中継は各国の現状を伝えた。過去の戦争の記憶が残っている国では集団疎開が始まっていた。また別の信仰深い国では寺院や教会で人びとが祈りを捧げていた。

 と、突然テレビ放送の画面に見るも奇怪な姿が映った。両腕があることから生き物と認識はできたが、その頭部には飛び出した金色の目が輝き、口は大きく裂け、鋭い歯列がのぞいていた。

 その生き物は言った。

「地球人よ、われわれはギラン星人だ。お前たちの地球というこの星を占有することを通告するために、こうしてお前たちの電波で話している。抵抗は無駄だ。おとなしくわれわれの言うことをきけ」

 その言葉が終わった瞬間、飛行していた戦闘機の一機が突然、火を噴いて失速して墜落した。パイロットは間一髪、脱出した。海洋では、イージス艦の一隻がエンジンが停止し航行不能になった。その艦艇の上を音もなく、円盤が旋回していた。

 ギラン星人のデモンストレーションに、安保理の緊急会議は紛糾した。

 と、会議室のドアを押して一人の小柄な男が入ってきた。

「皆さん、お困りですね。」

 安保理のメンバー全員の目が、この小柄な男の姿を注視した。

 事務総長が怪訝な表情で言った。

「あんたは、何者だ?」

「エル星人、と説明しておきましょう。ギラン星人のことはよく知っています。彼らは非常に高い科学力をもっています。地球など、ひとひねりです。わたしは地球の皆さんに好意をもっています。わたしならギラン星人の暴挙をやめさせることができます。わたしに交渉を任せてください」

 事務総長は決意の言葉を探していた。

 一週間が過ぎた。円盤は姿を消した。ギラン星人といった、あの怪異な姿をした生命体もぷつりと現れなくなった。一ヶ月が経った。各国の軍隊は防衛態勢のレベルを順次落としていった。

 関係者のなかで、エル星人がどんな言葉でギラン星人を説き伏せたのか話題になったが見当もつかなかった。

 国連本部の38階の執務室で事務総長は小柄なエル星人と対座していた。

 事務総長は、言った。

「あなたには、世話になった。地球の恩人だ」

 エル星人は、

「そう言っていただけると、わたしも嬉しい。」

「なんとお礼を言ったらいいか……」

「事務総長、今日はその相談をしたいのです。交渉の成功報酬のことを」

 エル星人はにこにこしながら事務総長の顔を見ていた。

「何が望みなんだ?」

「オーストラリア大陸をわがエル星の領土として割譲してほしい。地球すべてを占領されることに比べたら安いものだと思いますが」

 エル星人は、涼しい顔で言った。


 地球周回軌道上の宇宙空間の円盤のなかでギラン星人とエル星人が笑っていた。

「うまくいったな」

 エル星人が言うと、怪異な頭部を持ったギラン星人は、その頭部のかぶりものを脱いだ。現れたのは落花生の殻のような頭の形をしたタレ目の情けない表情のギラン星人の本当の姿だった。

 二人は植民地経営の前途を祝って祝杯をあげた。

読んでいただき、ありがとうございました!

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