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公園の怪物

ある外国人が思いつきで書いた現代日本の戦闘小説がある。外国人によって書かれたため、見ると奇妙に感じられるかもしれない。遠山止は一度、友人から奇妙な噂を聞いて知り、最後に奇妙な冒険を始めた。

「ねえ、聞いた? うちの近くの公園、夜の11時過ぎに、怖い怪物が出たってさ!」


下校のチャイムが鳴った瞬間、教室が一気に沸き立った。

クラスメイトたちは三々五々かばんを片付け、笑い声と椅子の引きずる音が混ざり合う。


私は窓辺に寄りかかって外をぼんやり眺めていた。

グラウンドには夕陽が長い影を落とし、すべてがのんびりとした雰囲気だった。


突然、後ろの席の甘露寺正人が寄ってきた。

肩まで伸びた髪が教室の明かりに揺れ、期待に満ちた顔で私を見ている。

まるでプレゼントを開けるのを待つ子供みたいだ。


私は顔を向けて、ちょっと苛立った調子で言った。


「お前、いつからそんな都市伝説に興味持つようになったんだ?

普段は文芸映画ばっかり見てたくせに」


正人は声を潜めて、頬を少し赤く染めた。


「いや、僕が興味あるわけじゃなくてさ。

新しく付き合い始めた彼女——前に話した日下真奈美が、昨日のデートのときに急に言い出して。

今夜、公園に行って噂が本当かどうか確かめたいって。

だからもちろん付き合うけど……僕、昔から幽霊とか怪物とか、めっちゃ怖いんだ。

心臓が持たない。だから止、お前も一緒に来てくれよ。

明日は休みだから授業に響かないし」


私はため息をついて、こめかみを揉んだ。


「僕だって怪談とか好きじゃないよ。ああいうの、全部嘘くさいじゃん」


正人は目をぱちくりさせて、首を傾げた。


「でもお前、よくホラー映画見てるじゃん。

先週も北米の連続殺人鬼のやつ、僕に勧めてきただろ」


「あれは違う」

私はだるそうに答えた。


「僕は現実寄りの殺人鬼映画が好きなんだ。ロジックが通ってる。

幽霊映画って、たいてい学校いじめとか首吊り怨霊とかで、無差別に殺しまくる強引な展開でしょ。

退屈だよ。

急に自分が誰にも見えないと気づいた人が、勝手に裁いて殺しまくるみたいな。

ホラーゲームも似たようなもん。

作者が背後から幽霊でジャンプスケア仕掛けてくるけど、プレイヤーはもう予想してるから驚かない。

見慣れちゃって、全然怖くない」


正人は話に巻き込まれて少し混乱した顔になった。


「話がどっか行っちゃったけど……とにかく僕は本気でビビってる。

お前、兄弟助けてくれよ。

これは女の子にカッコいいところ見せるチャンスなんだ……

彼女がこういう怖いもの好きっていうのも、よくわかんないけど。

頼むよ?」


私は眉をひそめて、彼の情けない顔を見た。


甘露寺正人——家柄も良くて容姿も整ってる、普段は穏やかで礼儀正しいのに、恋愛になるとこんなに恋愛脳になるのか。


「……わかったよ。

でもその怪物って、どんな噂なんだ?

ありきたりなやつじゃないといいけど」


正人は急に元気になって、声を潜めて話し始めた。


「二週間前、酔っ払いが深夜に公園を通ったら、ゴボゴボって変な音がしたんだって。

最初は酔いすぎたかと思ったけど、木の下に黄色い目が光る奴がいて、

特撮に出てくる宇宙人みたいな異形の姿で、人が丸ごと呑み込まれたって。

その酔っ払い、逃げてきたけど指が三本なくなってた——噛み千切られたんだって」


私は遮った。


「聞いてるだけでつまんねえな。もっと刺激的なのかと思った」


「でも今月、公園で連続五人行方不明なんだよ!」

正人は真剣な顔で言った。


「だから封鎖されてる。警察も周辺を見回ってる」


私は肩をすくめた。


「十中八九、ヤクザの抗争か連続殺人犯だろ。

まあいい、公園で会おう」


放課後、もうすっかり暗くなっていた。

街灯が一つずつ灯り、私は自転車で家に帰った。

風が少し冷たくて、制服が体に張り付く。


家の明かりは暖かくて、窓から夕飯の匂いが漂ってくる。

私はドアを開けて声をかけた。


「ただいま」


母の遠山尋月がキッチンから顔を出した。

エプロンに油のシミがついていて、優しく微笑んだ。


「止、おかえり。ちょうどご飯ができたよ」


食卓には箸が二膳だけ。妹の遠山怜の席は空だった。

私は何気なく聞いた。


「怜はどうした? ご飯食べないの?」


母は一瞬言葉を詰まらせて、笑顔で答えた。


「お友達の家に遊びに行ったんじゃないかな。

女の子って、そういう秘密もあるものよ」


私は頷いて、それ以上聞かなかった。


両親が離婚したのは私がまだ小さかった頃。

父の松下仁天鬼は最初、僕たち兄妹に冷たかったのに、離婚直前になって急に怜に執着して、親権を争おうとした。

母は離婚の理由を一切話さず、「大人の事情よ」とだけ言った。


その後、父は指名手配犯になった。

ニュースでぼんやりと「違法な人体研究」みたいなことが報じられたけど、私は深く調べなかった。


今は母が一人で僕たちを育ててくれていて、生活は苦しくても穏やかだった。


食事が終わって、私は母に言った。


「正人の家に遊びに行く。今夜は泊まって、明日帰る」


母は手を拭きながら出てきて、


「そう、行っておいで。友達と過ごすのもいいことよ。

遅くならないように、気をつけてね」


私は返事をして、リュックを背負って出た。

夜風がさらに冷たくなっていた。


私はスマホを取り出して正人に電話した。


「今、出た。泊まりってことにした。今夜は俺、お前のとこで寝るから」


正人の声は安心しきっていた。


「助かる! 本当にありがとう、兄弟」


10時過ぎ、公園の入り口で落ち合った。

街灯が薄暗く、鉄柵には「立入禁止」の札が下がり、赤白の注意テープが風に揺れている。


向こうに少女が立っていた。

茶色の長い髪が腰まで届き、灯りに柔らかく光る。

赤い瞳が印象的で、頭頂きに二本のアホ毛がぴょんと跳ねていた。


彼女は私たちを見ると、笑顔で手を振った。


「正人君、来たね! そっちは?」


「よろしく。俺は正人の友達、遠山止。遠山でいいよ」


「日下真奈美。真奈美って呼んでね」


彼女は軽くお辞儀をして、風鈴のような澄んだ声で言った。


私は思わず口に出した。


「真奈美……お兄さんがいたら、名前は『郎』がつくんじゃない?」


彼女はくすっと笑って、目を細めた。


「みんなそう言うの。正人君も来るって言って、びっくりしたよ」


正人は即座にアピールした。


「彼女を一人でこんな危ないところに来させるわけないだろ!」


と言った後、柵を見て声を小さくした。


「でも……ここ封鎖されてるし、警察も巡回してるし、本当に中に入るの?」


真奈美は軽い調子で言った。


「来ちゃったんだし。私は噂が本当かどうかだけ見てみたいの。

普通の犯罪だったら、つまらないし」


(普通の犯罪が普通だろ)


私たちは横の壊れた柵から忍び込んだ。


公園の中は真っ暗で、遠くの街灯の光がわずかに入るだけ。

木々の影がゆらめき、風が葉を鳴らす音が誰かの囁きのように聞こえる。


空気には土と草の匂い、それに湿ったカビ臭さが混じっていた。

連続行方不明事件で、もう一ヶ月誰も来ていない。

普段は賑わうベンチも今は空っぽで、妙に不気味だ。


私たちは特に目的もなく10分以上歩いた。

靴底が落ち葉を踏む音がカサカサと響く。


私が沈黙を破った。


「結構歩いたけど、何もいないな。そろそろ帰ろうぜ。明日休みだし」


正人は引き攣った笑いを浮かべた。


「だよな、ここ何も……はは」


真奈美はまだ興味津々だった。


「そう簡単に諦める? もう少し行ってみようよ」


私は頭を掻いた。


「それにしても退屈だな。せめてその五件の行方不明事件の話でもしてくれよ。物語として聞くか」


正人は声を潜めて、詳しく話し始めた。


「今月3日の夜10時、一人目は夜勤のサラリーマン。

下手に公園を通ったら、監視カメラに映った最後は草むらに吸い込まれるように消えた。

会社が通報して、警察が調べたら隅に少し血痕があっただけ。


二人目は彼の彼女。五日後に手がかりを探しに来て、同じく公園に入ったところで監視カメラに映り、現場には争った跡と血痕。


三人は公園の管理人と警察官が一緒に巡回してたのに、生き残ったのは警察官だけ。記憶がないって言ってる。


四人目、五人目は動画配信者のカップル。探検動画を撮りたくて、例の酔っ払いを案内人に連れて潜入して、行方不明。

酔っ払いだけが逃げてきて、怪物を見たって言ってる」


私は聞きながら、典型的な怪談だと思った。


風が急に強くなった。木の枝が激しく揺れる。


突然、前方から強い光が数筋、こちらを照らした。


「なんだ、学生か?」


警察官が三人近づいてきた。懐中電灯の光がまぶしくて目を細める。


リーダーの警察官は無表情で、冷たい声で言った。


「ここは封鎖中だ。看板見なかったのか。連れ出せ。ちょうど俺たちも撤収する」


メガネをかけた警察官がため息をついた。


「田中、お前、管理人と一緒に巡回して何かあってから、様子がおかしいぞ」


田中と呼ばれた警察官は淡々と答えた。


「外傷後ストレス障害だろう」


がっしりした松平が首を振った。


「ストレスってレベルじゃねえ……お前ら学生、ちゃんと躾けろよ。さっさと帰れ」


私たちが踵を返した瞬間、正人が遠くを指さした。


「待って! あそこの木の皮……動いてる?」


懐中電灯の光に照らされて、確かに古い木の樹皮が微かに上下している。

まるで何かが下で呼吸しているみたいだ。


メガネの警察官は苛立った声で言った。


「話題そらすな、行け」


「本当に動いてる!」

正人の声が震える。


松平は鼻を鳴らした。


「そう言うなら、見てやるよ」


彼は大股で近づいて、太い手のひらで幹を叩いた。


「え?」


次の瞬間、眩い黄色の光が爆発した。

松平の左腕が肩から先、瞬時に蒸発した。

血すら飛び散らず、焦げ臭い匂いだけが残る。


樹皮が蛇の脱皮のように剥がれ落ち、二メートルを超える怪物が現れた——

緑色の外骨格に逆棘が生え、関節がねじれ、両目は冷たい黄光を放つ。

十本の指の先は砲管のような穴で、金属光沢を帯びている。


怪物は低くゴロゴロと喉を鳴らし、掃討するような蹴りを松平の腰に食らわせる。

彼は吹っ飛ばされ、別の木に激突した。


立ち上がる間もなく、怪物が踏みつけ——ガリッ。

頭が熟したスイカのように弾け、赤と白の脳漿が飛び散った。

空気に血と焦げの混じった悪臭が充満する。


「何だこの化け物!?」


メガネの警察官が叫び、震える手でリボルバーを抜く。

引き金を引く前に、怪物の一本の指から黄色い光線が放たれ、彼の胸を貫いた。

体はくずおれ、目は見開かれたまま、信じられない表情を浮かべている。


田中はいつしか闇に消えていた。


私の心臓が激しく跳ねた。

でも、想像していたようなパニックは……なかった。

頭は混乱するはずなのに、何か本能的なものが静かに目覚めていく。


小さい頃に時折見た、ぼんやりした夢の影——遠いのに、どこか懐かしい。


「真奈美、危ない!」


怪物は近くの金属ベンチを掴み、おもちゃのように投げつけた。

風を切る音と共に、ベンチが真奈美に向かって飛ぶ。


正人が飛び込んで彼女を突き飛ばした。


「危ない!!」


ドン——ベンチが正人の腰に直撃し、彼は数メートル吹っ飛ばされ、草地に倒れて動かなくなった。

口元から血が一筋流れている。


怪物は私の方を向き、ドンドンと地響きを立てながら近づいてくる。

地面が微かに震える。


それは砲管のような指を掲げ、穴の中で黄色い光が溜まる。


私は一歩下がった。


光線が放たれる直前——


バン!!!


横から黒い影が飛び込み、怪物の横顔に重い一撃を叩き込んだ。

衝撃で二メートルを超える巨体が横に吹っ飛び、三本の太い木を薙ぎ倒す。

木が折れる音が爆発し、木片が飛び散る。


私は振り返った。


真奈美は上着を脱ぎ捨て、体のラインにぴったりと張り付く黒い防護装備を露わにしていた。

流動する金属のような光沢を放っている。


頭上には銀色の液体金属の楕円球が浮かび、水銀のようにゆっくりと表面を波立たせている。


怪物は後方宙返りで着地し、鋭い咆哮を上げた。


「ググガガ!!!」


十本の指が一斉に黄色の破壊光線を浴びせる。

空気が裂ける音が響き、滋滋と爆ぜる。


液体金属球が瞬時に変形し、二枚の巨大な盾を展開。

青い光が盾面を流れ、すべての光線を弾き返す。

火花が散り、余波で地面が溝のように削られた。


怪物は諦めず突進し、爪で真奈美を掻きに来る。


彼女は静かに、まるで詩を読むような声で呟いた。


「異界より来た、罪深き魂よ……消えなさい」


金属球が両腕を寄せ、表面に無数の光点が灯る。

そして流星群のように粒子光線を放つ。


シュシュシュシュ——


怪物の体が数十の塊に切り刻まれ、緑色の体液が雨のように飛び散り、鼻をつく悪臭を撒き散らす。

断片が地面に散り、まだ微かに痙攣している。


私は立ち尽くしていた。

頭がようやく混乱し始めた。

でも純粋な恐怖ではない……どこかで見たような、懐かしい感覚が混じる。


この光線、この怪物——夢の中で? それとももっと昔?


周囲から、突然ゴクンゴクンと無数の飲み込むような音が響き始めた。

闇の中に、無数の黄色い目が灯る。

星の海のように、私たちを取り囲む。少なくとも百を超える。


真奈美は息を整えながら額の汗を拭った。


「やっぱり……一匹じゃなかった。この数の怪物兵、背後に召喚者がいるわ」


「お前、何を言ってるんだ? これはいったい何なんだ!?」


私が問いかけると、彼女は叫んだ。


「今は説明してる暇ない!」


真奈美は私の手を掴み、もう一方の手で正人を引きずる。


「私についてきて! 正人君も連れて!」


頭上の金属球が粒子光線を連射し、迫る怪物群を牽制する。

黄色い目がいくつか消えるが、さらに多くの数が押し寄せる。


私たちは公園の奥へと全力疾走した。

落ち葉が舞い上がり、背後では怪物の咆哮が地獄の合唱のようだった。


三分後、真奈美は私たちを広い芝生の空き地に連れて行った。

地面には、いつか誰かがスプレーで描いた巨大な円形の魔法陣があった。

複雑な線が淡く蛍光を発している。


「やっぱりあった」


真奈美はバッグからスプレーを取り出し、数笔で線を補強する。

魔法陣の輝きが増した。


数人の警察官がそれぞれの方向から現れる。

リーダーは無表情で言った。


「危険な音がした、ついてこい……」


言葉を終える前に、真奈美が手を上げ、粒子光線を放った。

頭が爆発したが、血は出なかった——脊椎から灰色の触手が伸び、体を繋いでいる。


他の警察官も同じ特徴を露わにし、触手が蠢いた。


「さっきの田中の殻はバレたから捨てて、新しいのに乗り換えたわけね」


真奈美は冷笑した。


金属球が彼女の全身を包み、流動する鎧となる。

表面を青い光が走る。


プチプチ——すべての偽警察官の頭が同時に爆発し、触手が痙攣しながら縮んでいく。


ベンチの陰から、さらに巨大な怪物が現れた。

頭部はワニのように細長く引き伸ばされた人間の頭蓋だが、皮下に骨が浮き、眼窩は赤く光るだけ。

下半身からは十数本の触手が垂れ、そのうち四本の先はカマキリの鎌のように鋭く、冷たい光を放っている。


同時に、百を超える怪物兵が完全に包囲し、ゴロゴロという音が耳をつんざく。


真奈美は深く息を吸い、両拳を魔法陣の中心に叩きつけた。


ブゥン——眩い白光が天を突き、小さな太陽のように輝いた。


甲高い悲鳴が公園中に響き渡り、すべての怪物兵が黒煙となって魔法陣に吸い込まれ、跡形もなく消えた。

焦げた土の匂いだけが残る。


芝生は再び静寂に包まれ、残ったのはあの巨大な怪物だけだった。


「てめえ!! この……クソ女!!」


それは金属を引っ掻くような、歪んだ咆哮を上げた。


「俺がどれだけ時間かけて兵を集めたと思ってんだ!? 後悔させてやる!!」


「そう?」


真奈美は挑発的に微笑んだ。


「どっちが先に後悔するか、見てましょうか、八本脚」


「俺はマルバンガだ!!!」


それは激昂し、十数本の触手が同時に鞭のように振り下ろされる。

空気が爆発し、雷鳴のような轟音が響く。


真奈美は後方宙返りでかわし、二本の触手がぶつかり合い、衝撃波で近くの木の葉がすべて散った。


彼女は怪物の死角を突き、両手を合わせて上へ——

真っ白な光柱が一直線に放たれた!


ギャアアア——


光柱がマルバンガの頭部を直撃し、外側の鱗が大面積で剥がれ、下の暗紅色の筋肉が露わになり、黒煙を上げた。


「うああああてめえ!!!」


それは狂ったように触手で頭を掻き毟り、両目が血走り、四本のカマキリ腕を振り上げる——

無形の剣気が横薙ぎに放たれ、触れた木々が根元から切断され、切り口は鏡のように滑らかだった。


倒木が地響きを立てて崩れ落ちる。


真奈美は両腕を交差させ、金属鎧で剣気を真正面から受け止める。

火花が飛び散り、鎧にいくつもの亀裂が入る。

衝撃で数歩後退し、片膝をつき、肩から血が滲んだ。息が荒い。


「くくく……もう限界か?」


マルバンガが嗤い、最も長い触手を真奈美の腰に巻き付け、高く持ち上げる。

触手が締まり、骨が軋む音がした。


正人は這うようにして起き上がり、震える声で叫んだ。


「真奈美!!」


私の頭の中で何かが弾けた。

恐怖でも怒りでもない、純粋な本能が完全に目覚めた。


私は横に倒された太い木に駆け寄った。

本来なら数百キロはあるはずの丸太が、私の手にはまるで棒切れのように軽い。


私はそれを頭上に掲げ、全力でマルバンガの頭に叩きつけた!


ドン!!!


木は粉々に砕け、衝撃で私の腕が痺れる。

マルバンガは痛みに身を捩り、こちらを振り返った。目が激しく震えている。


一本の触手が横薙ぎに飛んでくる。


私は跳び上がり、空中で身を捻ってかわし、その勢いで接近。

アッパーで下顎を砕いた!


ガリッ——顎の骨がはっきり砕ける音がして、触手が真奈美を離す。


私は着地し、回し蹴りでその巨体を吹っ飛ばした。

マルバンガは灌木を薙ぎ倒しながら転がり、地面が揺れた。


それはさらに狂乱し、頭を掻き毟りながら叫んだ。


「うがあああ!! てめえは……一体何者だ!?!!」


そして高速回転し、四本のカマキリ腕が眩い紅光を放つ。

まるで四つの電動ノコギリだ。


「殺戮光輪!!」


真奈美が息を切らして叫んだ。


「受け取りなさい!」


彼女は金属球の一部を投げ、私の右拳に液体金属が瞬時に巻き付き、銀色のガントレットを形成。

表面を青い光が流れる。


私は半分に折れた木を投げて誘い——木は紅光に触れた途端、数段に切り刻まれた。


私はその木片を足場に跳び、階段を駆けるように接近し、隙を突いて全力の拳を頭部に叩き込む!


拳が触れた瞬間、液体金属が増幅した。


「グアアアアアア——!!!」


マルバンガは断末魔の叫びを上げ、体が黒紅の破片となって爆散した。

悪臭が広がり、破片は地面に落ちると黒煙となって腐敗した。


戦場がようやく静かになった。


私は立ち止まり、自分の拳を見下ろした。

ガントレットがゆっくりと剥がれ、腕の筋肉がわずかに膨張している。

でも疲労は全くない。心臓は力強く鼓動し、まるで……楽しんでいるようだった。


真奈美は木に寄りかかって立ち上がり、私を複雑な目で見つめた。


「あなた……大丈夫? さっきの力、あれは普通じゃない」


私は息を整えて答えた。


「小さい頃からこうなんだ。母さんが人前で出すなって言ってた。

他人を怖がらせるからって。

さっきは……緊急だった」


正人はまだ意識を失ったままだ。


真奈美はスマホを取り出し、電話をかけた。


「もういいわ、来て現場を片付けて」


すぐにスーツ姿の男たちが現れた。

夜なのにサングラスをかけ、素早く残骸や血痕、折れた木を処理し始める。


誰かが担架を持ってきて、正人を運び、診察を始めた。

空気には次第に消毒液の匂いだけが残った。


私は彼らを見ながら、ようやく心臓が速く打ち始めた。

恐怖ではない……目覚めた興奮だ。


体が私に告げている。

これは終わりじゃない、始まりだ。


真奈美は部下に肩の包帯を巻かせながら、軽く首を振った。


「今夜はひどいことになった。正人君も怪我したし、私の家に来て。

少なくともあそこなら安全だし、医者もいる」


正人は弱々しく頷いた。


「……うん」


私は荒れ果てた公園を見回し、空を見上げた。

夜空は変わらず穏やかで、星はまばらだった。


でも、私の体内で何かが確かに目覚めた。

それが何なのかはまだわからない。

けれど今夜を境に、私の世界はもう元には戻らない。

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