第4話 悪くないよ
ミサトの誕生日は、平日だった。
「どうする?」と聞くと、
ミサトは少し考えて言った。
「普通でいいよ」
彼氏としてのプライドが許さなかった。
普段よりもきれいで喜んでくれそうな店を予約し、
プレゼントも普段のミサトの何気ない言葉をヒントにベストなプレゼントを用意した。
佐藤の自宅にはオーダーケーキが隠されている。
軽いサプライズの気持ちもあったのでいつもの場所に集合し、
予約したお店に案内した。
「え、なにこれ」
お店を見たミサトは目を丸くした。
「誕生日だから」
「普通でいいって言ったじゃん」
「でも、誕生日だし」
ミサトは笑った。
「ほんと、ちゃんとしてるよね」
佐藤は少し照れて、笑い返した。
料理は美味しく、会話も途切れなかった。
帰宅後、ケーキとプレゼントを見せたときには涙を浮かべてミサトは喜んだ。
写真を撮り、何度も「ありがとう」と言った。
その日の夜、ミサトが思い出したように言った。
「明日さ、地元の友だちに呼ばれてて」
「祝ってもらうの?」
「うん。泊まりになると思う」
「そっか。しっかり祝ってもらって」
それだけで、会話は終わった。
誕生日の三日後、ミサトが泊まりに来た。
彼女は目が覚めるいつもと変わらずシャワーを浴びに行く。
浴室から水音が聞こえる中、ミサトのスマートフォンの画面が光った。
「☆」
ミサトのスマートフォンを手に取った。理由は分からなかった。
ロックはかかっていなかった。
指が動くまで、ほんの一瞬、躊躇があった。
☆の名前は、すぐに見つかった。
誕生日の次の日。
元カレと一晩過ごしていたことが短いやり取りからはっきりと分かった。
それがかえって現実味を帯びていた。
浴室の水音が止まり、ドアが開く音がした。
その瞬間、佐藤はスマートフォンを元の場所に戻した。
心臓の音が、自分でも驚くほど大きく聞こえた。
ベッドでずっと黙って下を見ている佐藤に
ミサトは不思議そうに声をかけた。
「どうしたの?」
「いや」
佐藤は、いつも通り答えた。
その夜、佐藤は眠れなかった。
朝の時点では、裏切られたという感情は確かに大きかった。
それだけじゃない気がした。
でもその違和感がなにかはわからなかった。
次の日、佐藤はミサトを自宅に呼んだ。
問い詰めると、ミサトはすぐに泣いた。言い訳は多くなかった。
「嫌いになったわけじゃない。ただ、寂しかった」
「ごめん」
「私が悪い」
佐藤は否定しなかった。
「そうだね。もう無理だね。」
別れの言葉を口にしながら佐藤は考えていた。
感情がすでに落ち着いていることに違和感を感じたから。
自宅の玄関で別れるとき、ミサトは言った。
「佐藤くんは、悪くないよ」
佐藤は何も返せなかった。
正しいかどうか判断できなかった。
ただ、忘れることもできなかった。




