第八章:「余韻を裂く閃光」
放送塔の残骸が、火花を散らしながら倒れていく。
Su-27の爆発音が、ようやく遠ざかり、キーウの街が静けさを取り戻しつつあった。
イヴァンはスロットルを緩め、深く息を吐く。
「……ふぅ……終わった……」
その瞬間だった。
ピ──ッ、ピ──ッ!
耳障りなロック警告。
しかも、音のトーンが低く、長い。
──遠距離からの発射警告。
「まだいたのか……!」
反射的に機体をバンクさせ、建物の陰へ潜り込む。
だが、警告音は途切れない。
頭上のiPadに表示された点が、恐ろしい速度で接近してくる。
R-27中距離空対空ミサイル。
射程はR-60の十倍。
一度捕捉されれば、逃げ切るのは至難。
イヴァンは低空を縫うように蛇行しながら、必死に距離を稼ぐ。
しかし、背後から迫る白い煙の尾が、ビルの間を追ってくるのが見えた。
「くそっ……離れろ……!」
最後の瞬間、彼は機体を急上昇させ、川沿いの上空へ飛び出す。
ミサイルはそれを追い、機体のすぐ脇で──
ドォォンッ!!
白光と衝撃波。
コクピットが揺れ、視界が真っ白に塗り潰される。
警報灯が一斉に点滅。
右主翼の外端が、なかった。
「……まだ、飛べる……!」
スティックが重い。
機体は片側に傾きながらも、彼は必死に姿勢を立て直す。
速度計は急落していたが、エンジンはまだ生きている。
火を噴く機体を、必死で川の上空へと運ぶ。
川面に映るのは、片翼を焦がしたMiGの影。
その後方、敵のシルエットは追ってきていなかった。
おそらく、こちらの損傷を見て追撃を諦めたのだろう。
「……もう一息……水の上なら……落ちても……」
イヴァンは、燃える主翼を引きずりながら、ドニプロ川の中央を目指す。