第六章:「炎の中の援護飛行」
iPadに浮かんだ地図上で、味方地上部隊の位置が赤く点滅した。
キーウ南西の工業地帯。
敵の攻撃機が頭上から機銃掃射しているという。
「Su-25か……」
イヴァンはレバーを引き、進路を切り替える。
低空へ。
地形を這うように、川筋と煙に沿って、味方の位置へ。
廃ビル群の合間を抜けると、火点の煙が風に流れていた。
その煙の向こうに──いた。
黒い鉄塊。Su-25 フロッグフット。
重たい体躯でゆっくりと旋回しながら、対地ロケットを撃ち下ろしている。
味方車両の1台が、火を吹いて横倒しになるのが見えた。
イヴァンは即座にHUDを切り替える。
「R-60、アクティブ──」
肩越しに伸びるミサイルポッド。
誘導は赤外線。エンジンの熱を追う、小型で軽量な短距離ミサイルだ。
ロック音が、ヘルメット内にカチカチと鳴る。
ピーーーーーー……!
ターゲットロック。
イヴァンは一言、呟いた。
「狩るのは、こっちだ」
発射──!
空気を裂く白煙。
ミサイルは一直線に、Su-25のエンジンナセルに吸い寄せられていく。
0.8秒後。
爆発音とともに、敵機の尾部が吹き飛んだ。
右へ傾いたまま制御を失い、Su-25は廃工場の屋根を削って落ちていく。
大地が揺れ、黒煙が上がった。
「ターゲット、ダウン」
味方からの無線が入る。
「ありがとう……誰だ、あんた……?」
「後で名乗るよ。生き延びてくれ」
その時だった。
甲高い警告音。レーダーロック。
背後。高空から──来る。
Su-27 フランカー。
制空戦闘機。双発、超音速、高機動。
MiGの何倍も強い。
しかも、それはもうこちらにミサイルを撃ち込んできていた。
「くそっ、やっぱり護衛付きか!」
旋回。急降下。
イヴァンは街の谷間へ逃げ込む。