第二十七章:ホストメリ地上戦
ロシア空挺部隊を一掃した後のホストメリ空港には、まだ硝煙の匂いが漂っていた。焦げた機体の残骸と散乱する薬きょう。イヴァンは休む間もなく、遠方から近づくエンジン音に耳を澄ました。
「戦車だ……もう来やがったか」
彼は壁際に立てかけてあったRPGを肩に担ぐ。
その背中に声がかかった。
「おじさん、俺が弾を持ちますよ!」
振り返ると、ミコラが弾頭を抱えて駆け寄ってくる。若さと恐怖心の無さが入り混じった笑顔。
「お前、元気だな」イヴァンは苦笑した。
「元気じゃなきゃ死んじまうでしょ。ロシアのやつら、ぶっ飛ばしてやりますよ」
その言葉に兵たちは一瞬だけ笑った。しかしイヴァンは心の奥で冷えた現実を悟っていた。空港を奪い返しても、敵は次々にやってくる。しかも相手は正規軍。兵力も火力も桁違いだ。この空港が、長く持つとは思えなかった。
舗道を割るようにキャタピラの軋む音が響く。土煙の向こうから緑がかった車体が姿を現した。先頭はT-72、その後ろにBMPが続いている。
イヴァンは瓦礫の陰に身を沈め、RPGの照準器を覗いた。
「……ミコラ、二台目のBMPだ。そこを狙う」
「え? 戦車は撃たないんですか?」若者の声に、わずかな焦りが混じる。
「バカ、先頭のT-72は装甲が厚すぎる。撃ったところでこっちが先に粉々だ。BMPなら歩兵も詰まってる、やつらの足を止められる」
ミコラは唇を噛みしめてうなずいた。背中に抱えた弾頭の重みが急にずっしりとのしかかる。
「……撃ったら、すぐに逃げるぞ。連射は無理だ」
「でも、弾はまだたくさんありますよ?」
イヴァンは短く首を振った。
「違う。問題は弾じゃない。撃った瞬間、奴らの目が俺たちに向く。BMPの機関砲に狙われたら、石ころ一つじゃ隠れきれねえ」
そのとき、キャタピラがアスファルトを削る音がいっそう近づいた。地面が微かに震え、胸に響く。
ミコラは無意識に息を止めた。喉が渇き、指先に汗が滲む。
イヴァンは呼吸を整え、狙いを定めた。
「……来るぞ」




