第二十四章:古びた発電所にて
ベラルーシでの演習のはずだった。
ニキータとラシドは、泥にまみれた軍用トラックの荷台に揺られ、ずいぶん遠くまで連れてこられた。降り立った先に広がっていたのは、廃墟と化した集落、錆びた看板、雑草に覆われた建物群。――チェルノブイリ。
侵攻初日のことだ。
二人は命じられるまま、スコップを手に塹壕を掘り始めた。演習では何度もやってきた作業だ。兵士にとって穴を掘るのは疑う余地のない日常であり、余計なことを考える余裕などなかった。
ニキータは汗を拭いながら、「今回もすぐ終わるさ」とラシドに笑いかけた。
ラシドも笑みを返した。――彼らにとって、ここが特別な土地であることを知る者はいない。
この時、周囲の放射線量が確実に上昇していることなど、部隊の誰ひとり気づいてはいなかった。
原子力事故の記憶も、クレムリンの都合で地方の若者たちに伝えられることはなかったのだ。
塹壕掘りの合間、ニキータは見つけた廃墟の扉を押し開けた。中には家具がそのまま残され、埃をかぶった食器棚には欠けのないグラスが並んでいた。
「ラシド、見ろよ。俺たちの村じゃ、結婚式でもプラスチックのコップしか出ねえぞ」
笑いながらグラスをひとつ懐に入れる。
ラシドは古い冷蔵庫を蹴り、錆びた扉の奥からまだ形の残る食料缶を引きずり出した。
「金になるかもしれん。バザールに持っていけば、誰か買うさ」
二人にとって、ここは呪われた土地でも危険な場所でもなかった。
むしろ、自分たちの貧しい故郷にはない「豊かさ」が、時を止めたまま眠っている宝庫に思えた。
ただ、夕暮れを過ぎるころから、ニキータの頭に鈍い痛みが走り、ラシドは妙に口が渇いて咳が止まらなくなった。
しかし彼らは「疲れだろう」と笑い合い、気に留めなかった。




