第十九章:硝煙の中の三人
アレクセイは、耳鳴りの中で目を開けた。
視界は揺れ、焦げた煙の匂いが鼻を刺す。
そばにはミーシャが横たわっていた。顔は灰と血で汚れ、唇だけが動いている。
「……助けてくれ、アレク……」
その声は震えていた。
だが、ミーシャの右腕は肩から先がなかった。
地面に広がる赤黒い泥の中で、彼の命がゆっくりと流れ出している。
アレクセイは膝をつき、荒い息をついた。
「……じっとしてろ。すぐ戻る。」
それだけ言い残し、彼は立ち上がった。
戦車の残骸を背に、村はずれの道を全力で駆ける。
味方の陣地はすぐそこにあるはずだった。
そう信じて。
しかし、そこにあったのは砲座の跡、散乱する弾薬箱、そして無人の塹壕だけだった。
味方は、もういない。
アレクセイの胸を冷たい風が突き抜けた。
背後から、ミーシャのかすれた叫びがかすかに聞こえたが、それはすぐに風にかき消された。
アレクセイは立ち尽くしたまま、しばらく何も考えられなかった。
冷たい風が吹き抜け、焦げた油と血の匂いを遠くへ運んでいく。
背後の村からは、もう銃声も聞こえない。
それが何を意味するか、彼はわかっていた。
ゆっくりと背を向ける。
足は重く、地面に貼り付くようだったが、一歩、また一歩と前に出た。
向かう先は北――ベラルーシ。
仲間も、任務も、理由も置き去りにして。
その目に、もう希望の色はなかった。
ただ灰色の空と、果てしない雪解けの泥だけが広がっていた。




