第十七章:ブチャの三人組
2022年3月初旬、ブチャの町はまだ冬の冷たさを残していた。
ロシア兵の若い三人組──アレクセイ、ミーシャ、セルゲイ──は、泥と雪にまみれた戦車から降り立った。
彼らは本気で信じていた。
「ウクライナ人はネオナチに支配され、俺たちを解放者として迎えるはずだ」と。
だが、通りは静まり返っていた。
玄関先から、初老の男性が杖をついて出てきた。
その口から飛び出したのは、ウクライナ語の罵声だった。
「何しに来た! ここはお前たちの国じゃない!」
三人は顔をしかめた。
セルゲイが苛立った声で言う。
「ロシア語で話せ! おれたちはお前らを救いに来たんだ!」
男性は引かず、さらに抗議を重ねた。
銃口が上がった。
乾いた音が一つ、響いた。
男は膝から崩れ落ち、雪の上に赤いものが広がった。
彼の家に入ると、三人は目を見張った。
冷蔵庫、電子レンジ、液晶テレビ──田舎町の家とは思えないほど整った家電が並び、奥の棚には金や宝石が光っていた。
ミーシャが低くつぶやいた。
「…ネオナチは、民間人を搾取して贅沢してるんだな。」
彼らは、殺された男の妻──震えるおばあさん──の抗議を無視し、家財を次々と外へ運び出した。
戦車の上に、宝石の箱や家具、食器が積み重なっていく。
アレクセイが唇をかみながら言った。
「な、だから俺たちは正しいんだ。あいつらはきっとネオナチだ。」
彼らは次に、近くで殺した住民の遺体を黒いビニール袋に詰めた。
それを村はずれの穴へと運び、淡々と投げ入れる。
雪解けの土がぬかるみ、袋が泥に沈んでいった。
最後にセルゲイがつぶやいた。
「こんな所、さっさと解放して帰ろうぜ。」
その「解放」のあとに残ったのは、沈黙と、浅く埋められた人々の眠る穴だけだった。




