第十六章:「飴ちゃんとひまわりの種」
田舎の町に、戦車が入ってきた日。
おばちゃんは、いつものように市場の角に立っていた。買い物袋を両手に持ち、頭には派手なスカーフ。
「ちょっと、あんたら!あんたらロシアの子やろ!」
ロシア兵のひとり、まだ二十歳そこそこに見える若者が驚いた顔でこちらを振り返る。
彼女はずんずん近づいていく。
「なんでこんなとこ来てるん?あんたら、誰かに呼ばれて来たん?パンと塩で歓迎される思たん?おばちゃ
ん、あんたのオカンやったら泣いてるで。ほんま。どこが特別軍事作戦やねん。普通に侵略やんか」
若い兵士は困ったように頭をかく。
隣の兵士も口を開きかけて、何も言えずに視線をそらす。
「ええか、言い過ぎたかもしれんけどな。おばちゃん、怒ってるんとちゃう。悲しいんや」
そう言って、彼女は袋から何かを取り出した。
薄いビニール袋に入ったひまわりの種。塩味。
ウクライナではメジャーなスナック菓子である。
「これ、持ってき。食べるもよし、懐に入れるもよし」
ロシア兵が戸惑いながら受け取る。
その瞬間、彼女は笑って言った。
「でもな、あんたがここで死んだら、その種、芽ぇ出して花咲かすで。立派なひまわりになるわ。ウクライ
ナの大地にな」
場の空気が凍る。若い兵士はなぜかその袋をぎゅっと握りしめた。
おばちゃんは、くるりと背を向け、何事もなかったように歩いていく。
「次はな、ちゃんと飴ちゃん持ってきてや」




