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第十三章:《空の鴨撃ち》
プロローグ:ポンコツと鴨撃ちじいさん
ウクライナ・キーウ州北部。ロシアの電撃侵攻が始まってまだ数日。
ナディア中尉は、最後のMiG-29で出撃した僚機の背を見送っていた。
「ナディア。君の分の機体はもうない」
上官は申し訳なさそうに言ったが、現実は変わらなかった。
基地には煙が立ちこめ、シャヘドの群れが夜ごと爆音を響かせていた。
滑走路脇の整備エリアで、ナディアはふと一機の小さな機体を見つける。
錆びた骨組みに、褪せたウクライナ国旗。―Yak-52。
「……嘘でしょう」
息を切らして倉庫へ飛び込み、整備兵を探した。
出てきたのは、くわえ煙草に猟銃を担いだ年配の男。
「嬢ちゃん、何だってそんな顔してんだ?」
「このYak、まだ飛べるの?」
「弾痕は勲章だ。飛べるかどうかは、エンジンの気分次第さ」
男の名はミコラ。元空軍の教官にして、いまは田舎で鴨を撃って暮らしていたという。
その夜も、シャヘドがやってきた。
防空網はすでに破られ、町の一角が火に包まれた。
誰かがやらなきゃいけない。
誰も飛ばないなら、自分が飛ぶしかない。




