第十二章:「ムーリヤの灰、夜明けの風」
味方の増援が、滑走路を制圧してゆく。
敵兵は散り散りに逃げ出し、一部は白旗を掲げて膝をついた。
「もう大丈夫だ……イヴァン、終わったぞ」
仲間の肩に寄りかかりながら、イヴァンはよろめく足取りで立ち上がった。
空港の構内に戻っていく彼の視線の先、
黒煙があがる格納庫の瓦礫の中に――
あの巨鳥が横たわっていた。
世界最大の航空機──An-225 ムーリヤ
かつて宇宙船ブランを背負った夢の象徴、
巨大な翼を広げていたはずのその機体は、
もはや骨組みだけを残して焼け焦げていた。
イヴァンは、ヘルメットを外し、
無言のまま、数歩だけ近づく。
「……お前まで、燃えることはなかったんだ」
風が吹く。
機体の破片が、カラリと乾いた音を立てて落ちた。
それでも
その日の午後、敵の増援部隊は完全に撤退を始めた。
滑走路を奪われ、補給線を失い、占領計画は破綻した。
「防衛成功――キーウ奪還、現実的な情勢に」
軍無線から聞こえる朗報に、周囲の兵士たちは歓喜の声を上げる。
だが、イヴァンは微笑むことなく、
ただ遠くを見ていた。
終章
「夢は、灰になっても、次の空へ」
ムーリヤの遺骸のそばで、
小さな子どもが手を合わせていた。
彼の母親はつぶやいた。
「あの飛行機は、もう飛ばないの?」
イヴァンは少し考え、こう答える。
「……飛ぶさ。どこかの空で、いつかまた」




