第十章:「地に降りた翼──アントノフの夜」
冷たい川の水が、イヴァンの顔を打つ。
パラシュートが水を吸い、体が重くなる。
必死にバックルを外し、濡れた服のまま岸へと這い上がる。
岸辺にはウクライナ兵が数人。
驚いたように彼を見つめたあと、一人が叫ぶ。
「パイロットだ!味方のパイロットが落ちてきた!」
手際よく救助され、装甲車の荷台に乗せられる。
数分後──
小さな医療テント。
応急処置を受ける間も、無線が飛び交っていた。
「アントノフ空港に敵空挺部隊が降下中!……制圧されるのも時間の問題だ!」
野戦司令官がイヴァンに声をかける。
「休んでる暇はない。あんた、MiGのパイロットだろ?」
イヴァンは無言で頷いた。
「空は取られたが、地上はまだだ。アントノフを死守しないと、キーウは持たん。……頼めるか?」
イヴァンは応急手当の包帯をギュッと巻き直し、
隣に立っていたAK-74Mを手に取った。
「もちろんだ。飛べないなら、走るさ」
「空挺の影」
夜のアントノフ空港。
既に敵のIL-76から降下したロシア空挺軍が滑走路を制圧し始めていた。
燃えた輸送車、横転した兵員輸送車両。
照明塔の一部は破壊され、闇の中に閃光と銃声が走る。
イヴァンは、数人のウクライナ兵とともに管制塔の守備に就いた。
滑走路を見下ろすその場所こそ、奪われてはならない「目」だ。
「弾、あと4マガジン。……敵、南東から来る」
照準を覗きながら、イヴァンは心の中でつぶやく。
「……また戦場だ。空から、地へ──今度は、目の前の命を守る」
管制塔からの一斉射撃が始まる。
闇の中、**照明弾が空を裂き、**新たな戦いの幕が開いた。




