5.レベルアップ?
目を覚ましたのは不思議なことが起きた時だった。
体の中で何が弾けたような感覚と、高揚感で目を覚ます。
初めは何が起きたのか、理解はできなかったが、すぐに正気を取り戻して思い出す。
これはレベルアップの感覚。
鑑定や神官のスキルでしか見ることのないステータスだが、レベルアップは感覚でわかる。
――でも、何故レベルアップした?
俺は文字通り寝てただけだ。
それ以外でもそれ以上でもなく、本当に何もしてない。
レベルは敵、モンスターや対人戦で経験値を爆発的に得ることができる。
それ以外にも、日々の経験などが経験値になるがそれは微々たるもの、1日では何にも成果を得ることはできない。
なのに、レベルアップをした?
思い当たるのは一つだけ。
――スキル〈放置〉の仕業か?
放置してたら、経験値がもらえる?
これって放置ゲームに似てないか?
……放置ゲームってなんだっけ?
これは前世での言葉か?
うーん。思い出せないな。
でも、その言葉の意味はわからなくても、レベルが上がることだけはわかる。
これならもしかして家を出ても上手くやっていけるかもな。
俺は窓の外を眺める。
まだお日様は少ししか見えてないくらいの時間だ。
トントン。
扉のノック音が聞こえる。
「ライム様。出発の時間です」
俺はその声に従って、昨日準備した荷物を持って出る。
持っていくものは何もない。
服くらいしか持ってくものはないが、何かに使えないかと、部屋にあったものを適当に詰めている。
スキルに関しての本と、読みかけの小説。
本だけあれば暇は潰せるかな?
部屋を出ると、そこにいたのはデッセン家お抱えの騎士。その中でも若い騎士だ。
「……おはようございます。私の後についてきてください」
俺は何も返事をせずに着いていく。
正直、この騎士との関わりもない初対面だから話す話題がない。
ただ、相手はそーではないらしい。
少し苦虫を噛んだような顔をしている。
「私を含む騎士三名で、ライム様をデッセン家が新たに保有した領地へ送り届けます」
「……そうか。すまないな。君たちもこんなはずれものの世話をさせられるなんて」
俺がねぎらいの言葉をかけると、騎士はまた先ほどと同じような険しい顔をする。
だが、ここでは話し辛そうに、口を固く閉ざして俺を先行する。
裏門に着いた。
ここは普段は屋敷の使用人達が出入りに使う場所。
ま、俺はこの家のものでは無いと言われているようなものだな。
「では、この馬車に乗ってください。2人の騎士が馬を走らせます。私は中でライム様の護衛を……」
護衛。いや、何をするかはわかっている。
護衛ではなく見張りだ。
俺が逃げ出さないようにな。
これも父からの言いつけなのだろう。
「わかった。ただ、ここから領地までかなり長い旅路になる。それなりに話し相手にはなってくれよ」
その言葉に騎士はまた同じような顔をする。
だが、そんなことを考えている暇もなく、馬車は出発した。
母さん、セリア、ルイフ。
お別れの挨拶ができなくてごめん。
いつか、また会える日を楽しみに……
馬車での旅は1週間ほどらしい。
かなり田舎の領地を任せられたらしい。
しかもかなり狭くて人も少ないとのこと。
全部、僕を連れ出した騎士から聞いた話なので実際に見てみないことにはわからないがな。
諸々の説明を受けながら、俺は窓の外を眺める。
これからあるのは自由なのか、それとも地獄なのか。
でも、これだけは言える。
デッセン家のいいようにだけはならないように。
そう覚悟を決めると、騎士は屋敷から離れたことにより少し緊張がほぐれていく。
そして、先程まで言いたいことが言えないような表情が何か懇願するような顔に変わっていく。
「私はライム様がデッセン家から離れることが納得できません!」
「……なぜだ?」
この騎士とは関わりが無いのだが?
てか、なんかあの信者2人のような既視感を感じて否めない。
「ライム様は私たち騎士のための食事を充実させてくださいました! 「体を作るのは食事からだ」と、奥様に言ったことが採用されて、改善案を奥様自らお考えになれたと聞いております!」
「……ああ、あのことか、」
あれは、確か俺が3歳の頃。
母さんが何か悩んでいる姿を見せていたので、笑かそうと、駄洒落を言ってみただけなのだが。
その時の母さんは確かに何かが晴れたように笑ってくれた。
こんなおもんないギャグで笑ってくれるのは優しい母さんだからコソだろうと思っていたのだが、まさかこんなことになっていたとは……
「だから私たちはライム様のおかげで今のような立派な騎士として……」
んー、話が長いなー。
こう言うのはあの2人でうんざりしてるんだけとなー。
これ、後1週間続くの?
次の日。
「だから、こそライム様がデッセン家をついでもらい……」
その次の日
「ライム様は本当に神様のようにお優しい……」
その次の次の日
「ライム様は神童と呼ばれていますが、私たちから見れば神が子供の姿で地上に……」
毎日
「ライム様は本当に素晴らしく……」
そして、領地へ到着する日。
うん。早くこの人から解放されたい。
俺を神かなんだと、異様に崇めてくるが、俺は『神に見放された子』だぞ。
その名から1番遠い存在なんだけどな。
ま、それもスキルの名前から取られただけだけど。
そのスキル〈放置〉も、この1週間の間で分かったことがある。
この旅路で俺のレベルは多分4になった。
毎日1上がるんなら8くらいになってないとおかしいが、そうでは無い。
と言うことはもらえる経験値は固定で、レベルアップの条件の経験値量が増えたからこうなったと推察できた。
そして、後1上がれば、新たなスキルを得ることができる。
領地についたら神官も探さないとな。
と、いろいろ考えていると、外で馬を走らせている騎士が大きな声を出す。
「もう見えてきましたよ! あれがライム様が領主代行となられる『ミフォイ』です!」
俺は窓から顔を出して、前方を見る。
そこは、俺が育った領地とは全く違う場所だった。
あたり一面を森で囲われた小さな田舎町。
領地という名の村だ。
でも、何故かこの景色嫌いじゃ無い。
僕の前世がそう言っている気がしたのだ。
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