4.役立たずの使い道
ドタン!
俺の部屋が勢いよく開かれる!
「「坊ちゃま(ちゃん)!!」」
俺の部屋に入ってきたのは、セリアとルイフだ。
多分、俺の選定の儀の結果を聞いたのだろう。
部屋に戻る前ですら、ヒソヒソと話している声が聞こえたが、2人の耳にも入ったか。
「坊ちゃま! 使用人達が変なことを言っておりますが、私達は坊ちゃまの凄さをわかっております!」
「セリアの言うとおりでございます。神童と呼ばれる坊ちゃんには有用なスキルなど不要! 逆に与え過ぎになってしまわれるので……」
2人とも俺の芳しくなかった結果をおもって、慰めをしてくれる。
この4年間この2人はいつも俺によくしてくれた。
本当に信用できる人たちだ。
ただ、行き過ぎなライム信者なのは玉に瑕だが。
永遠と俺のいいところを語ってくる。
「大丈夫だ。俺は気にしてないよ」
「ですが、坊ちゃま! 私たち以外の使用人どもが本物の神童はキノ坊ちゃまだといいふらしているんです! そんなことはあり得ないのに……」
ま、賢者のスキルを得たのだからそういう噂が流れるのは当然か。
スキル〈賢者〉は魔法を扱うことができるスキルだ。
〈魔法使い〉の上のスキル〈魔導士〉のさらに上。
そりゃ言われて当然なほどのスキルだ。
そして、俺のは聞いたこともないスキルだが、名前からしてあきらかに不遇スキルだろ。
スキルを得た瞬間、所持者にはそれとなくスキルの詳細が伝わってくる。
俺にもなんとなくそれは来ている。
――無気力になっていくって感じはする。
使えねーじゃねーか!!
「神童なんてものも、学が人よりもあっただけだ。それよりもスキルを持つ人の方が偉いってだげ。それに注目される人生っていうのも疲れるだけだよ」
これはスキルによる無気力感から出ているものか?
いや違う、これは自分の意思だ。
強い力を持てば利用されるだけ利用される人生になる。
それよりも自分で切り開ける今の方が良い。
「ですが、このままではこの家での立ち位置が悪くなってしまいます」
「大丈夫ルイフ。俺はもともとこの家での立ち位置など気にしてない。気にしてたら、もっと上手く人に取り入ってるさ」
それもそうだという納得を見せる2人。
「俺が目指しているのは、この家を出て、縛られない人生を送ることだよ」
ここで、俺の本心を伝える。
俺が使えないスキルを手にしたとしても、心配をしてくれるこの人たちには味方になって欲しい。
「なんと……」
「君たちが良ければこれから家を出るために力を……」
その時、部屋の扉がまた強く開かれる。
そこには父、スラグの姿があった。
「おい出来損ない! お前が使えないスキルを手に入れたことはこの家の品位を下げた」
品位を下げただなんて、もーそんなものはとっくに下がりきってるだろ。
「だが、お前にはチャンスをやろう。一応お前は頭だけは良いからな」
ニヤリとスラグは笑う。
「ちょうどこの前、反乱のあった田舎領地があってな。そこの領主が辞した事件があったのだが、王直々にこの偉大なる公爵家に助力申請があった。優秀な人材を領主代理として派遣して欲しいと」
ここまで、聞けばわかる。俺に行けってことだな。
これは願ってもないチャンスだ。
家から出ることはできる。
だが、正直この家から離縁するとまではいかないから、完璧ではないが。
「待ってください! 公爵様! ライム坊ちゃまはまだ10歳です! 親元を離れるのは……」
「その親が決めてるのだ。それと、メイドが私に意見を言うな! お前なぞ、役にたつ息子が気に入っていたから側仕えにしてやっただけで、この家での価値などもうないに等しい!」
「父さん、それは流石に言い過ぎだ!」
今にも泣きそうなセリアを宥めながら、反抗的な目を向ける。
その姿がよっぽど惨めに見えたのか愉快そうな笑みを浮かべる。
「そのメイドは今日を持ってクビだ! それと、元執事長、お前はこの能無しではなく、キノの家庭教師になれ!」
なんてことだ!
俺が信頼していると言うのが伝わってしまったのか、醜い嫌がらせをしてきやがる。
でも、逆らえない!
それがこの家の現状なのだ!
「明日には使いのものにお前を領地に届けさせる。精々、そのメイド達と別れをおしみあっておけよ」
言いたいことを言うだけ言って、ガハハと高笑いしながら部屋を後にする。
これはまずいな。
ルイフは今まで通り家庭教師を続けれるが、メイドのセリアは違う。
まだ、幼い弟達のために出稼ぎに来ているセリアにとって、クビはダメだ。
でも、俺がどうこうできる問題ではない。
ただ、あの人なら可能か?
すぐ様、考えを行動に移す。
机にあった紙に一言だけ。
――母さん、セリアを頼みます。
絶望に打ちひしがれているセリアにある一通の手紙を渡す。
「これを持って母さんのところへ行くんだ。まだ、正式には辞めさせられてはいない。あの人ならどうにかしてくれるはずだ。ルイフもついていってやってくれ。頼んだぞ……」
「……!」
言葉にならない抵抗が2人の顔に浮かぶ。
でも、ルイフはわかっている。
それが今できる限界だ。
あのスラグのことだ。
2人を一緒に連れていくことは認めてくれない。
なら、せめて2人にはお咎めがないように、母に動いてもらうしか……
俺が今からできることは、2人を見送り、これからどうやってやっていくか、考えること。
そのためには、このスキル〈放置〉について理解しなければ……
俺は身支度をしながら、試行錯誤を繰り返す長くて短い夜を過ごすのだった。
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