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国家の敵

 銀河帝国元老院ぎんがていこくげんろういん

 皇帝即位の承認や皇帝の戴冠式を行う、銀河帝国の重要機関である。


 そんな元老院は、銀河帝国の帝都となっている惑星インペリウムに存在する。

 無数の超高層ビルがそびえる都市部の中心部には、皇帝が住んで帝国全体を支配する皇帝の宮殿(インペリアル・パレス)があり、さらにその周囲には行政機関各所や元老院議事堂などが建ち並ぶ。

 そしてその元老院議事堂の中に設けられている議場では現在、皇帝ディティール・ユリアヌス元帥が議員達の前で演説を行なっていた。


「セウェルスタークは我々の銀河帝国に対して反旗を翻し、裏切り者のアルビオンと結託して、大きな脅威となっている。早急に手を打たねば、帝国は再び分裂と混乱の時代を迎える事になるだろう。よって私はここに、反逆者ルクス・セウェルスタークを“国家の敵”と定める事を元老院に要請します」


 短めの茶髪に大柄の体格をしたユリアヌスは、落ち着いた口調ながらも力強い印象を与える演説を披露する。

 それを聴く議員達は、議席に座って自分達の皇帝の話にじっと耳を傾けていた。


  この議場には、皇帝と議員の他にも武器を携えた兵士達の姿が各所に見られる。彼等はユリアヌス軍閥に属している帝国軍人達である。

 本来、神聖な元老院議事堂に武器を装備した兵士が足を踏み入れるのはタブーなのだが、それを咎める気骨のある議員はもはや存在しなかった。

 この光景だけでも元老院がユリアヌスの傀儡と成り果てている事が現れていると言えるだろう。


 皇帝の要請が、集まっている議員達の耳に届いたところで、議場の中で一際高い位置に設けられている議長席に座る、白髪に白い髭を生やした老齢の男性が声を上げる。


「皇帝陛下より議題が提出されました。早速、議決に移ろうと思います。議員各位の投票を求めます」


 そう言って元老院の進行を仕切っているこの老人は、元老院議長を務めているアダム・ガーディナー公爵。

 元老院の議長を務めている彼は、ユリアヌスに帝位を授けた時点で彼とは事実上運命共同体であり、ユリアヌス軍閥の破滅は自身の破滅と考えていた。

 そのため、元老院で議論を繰り広げる気などさらさら無く、短時間だったとはいえ彼なりにできる限りの根回しを済ませた上で今回の議会に臨んでいたのだ。


 そして議長の言葉を受けて、議場に集まっているおよそ千人の元老院議員は自身の前に設けられているデスクにある青か赤のボタンを押す。

 青が賛成、赤が反対、をそれぞれ意味している。


 議員達が投じた票は、議場のコンピュータによって自動で集計され、議長のデスクにあるテレビ画面、そして議場にいる者全員に見える巨大スクリーンにその結果が表示された。


 「皇帝陛下の議題は、満場一致により可決されました。今日を以ってルクス・セウェルスタークは“国家の敵”となりました」


 議員達は盛大な拍手で今回の決議を賞賛する。



 ◆◇◆◇◆



 元老院議事堂を後にしたユリアヌスは、自身の居城である皇帝の宮殿(インペリアル・パレス)へ戻る。

 宮殿と言いつつも、ここは飾り気も無く白一色の巨大な要塞のような見た目をしていた。

 豪華な装飾や洗練された芸術性などとは無縁の、一切の無駄をそぎ落としたようなシンプルなデザインのこの宮殿は、見る者に奇妙な威圧感を与える。


 宮殿の廊下を、大勢の兵士を引き連れながら歩くユリアヌスの前に、軍服姿の若い青年が立つ。


「皇帝陛下、皆は既に集結しております」


「レペンドール大将か。出迎えご苦労。で、提督達の動向に不審な様子は無いか?」


「はい。憲兵を動かして監視を強めていますが、とくに警戒すべき人物は今のところ確認できません」


 アルビオンの裏切りにあった事もあり、ユリアヌスは傘下の提督達に不信感を抱くようになり、最も信頼の置ける腹心レペンドール大将に命じて提督達の身辺調査を行なっていた。


「監視体制はこのまま継続しろ。それと元老院の動向にも目を向けておけ」


「元老院に何か御懸念が?」


「とくにどうと言う事はないが、念には念をだ」


 元老院は千人以上の議員を擁する組織であり、その意志は決して一枚岩ではない。その事は銀河帝国の歴史が証明している。

 今はユリアヌス軍閥を支持する形で纏まっているが、いつ別の軍閥に鞍替えしても不思議ではない。

 その事を理解しているユリアヌスは、元老院を決して信用しようとはなかった。


「元老院にしても民衆にしても、私に従っているのは私が覇権を確立しつつあるからに他ならん」


「そうですな。しかし、セウェルスタークめが勢力均衡を崩したばかりか、我々の陣営の一角を突き崩しました」


「この機に乗じて他の軍閥も動き出すやもしれん。セウェルスタークはさっさと叩き潰してやらんとな」


「いっそ近衛艦隊も動員しては如何でしょうか?」


 近衛艦隊このえかんたい

 それは皇帝直属の宇宙艦隊であり、銀河帝国軍の最精鋭部隊だ。

 かつては皇帝の下で数多くの戦場を渡り歩いた伝統と格式のある艦隊だが、現代では戦場から離れて実戦経験にも乏しく、エリート部隊という肩書きだけが残った艦隊に成り下がっていた。

 主な任務の中には、帝都インペリウムの防衛も含まれていた事もあり、ユリアヌスが覇権を確立する前は元老院の指揮下で動いていた時期もある。

 ユリアヌスが元老院から皇帝の承認を得られたのも、この近衛艦隊を傘下に収められた事が大きい。


「いや。近衛艦隊は帝都の防衛から外すつもりは無い。下手に出撃命令など出せば、帝都から追い出す気か、などと文句を言われるのは目に見えているからな」


 ユリアヌス軍閥は、銀河系で最大規模の軍事勢力だが、元老院と同じく決して一枚岩ではない。

 しかもその大半は、ユリアヌスの巨大な軍事力を目の当たりにして恭順しているに過ぎないのだ。

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