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皇后

 ルクスからアウグスタへ来ないかと誘われた瞬間、ファウスティナの瞳にはこれまでに無いほどの輝きが宿った。

 しかし、ファウスティナはそれをルクスに悟られないようにと咄嗟に視線を逸らす。


「で、でも、私、インペリウムから出た事が無いのよねえ」


「心配は無いさ。この邸によく似た宮殿を用意する予定だ。生活に不便を感じる事は無いだろう」


「そもそもアウグスタって遠いじゃないの」


「そんな事は無いさ。銀河系の広大さを思えば、アウグスタなどすぐ近くだ」


 ファウスティナに限らず、インペリウムに在住している帝国貴族のほとんどは名家になればなるほど、インペリウムに居を構える事が一種のステータスになっていた。

 そのため、インペリウムから宇宙に出て、他の星に行った事が無いという貴族はとても多かった。


 「何なら銀河中を一度、旅してみるのも良いかもしれんぞ。戦乱も終息して、各地の治安も回復している。タイミングも良い頃だ」


「簡単に言ってくれるわねぇ」


「何なら私が案内しよう。私は皇帝だ。この銀河の全ては私の庭のようなものだからな」


「あらあら。皇帝陛下自らご案内頂けるとは光栄な事ね」


 ルクスは何かを言おうとして口を開くが、一度それを呑み込んで軽く深呼吸をする。

 そして意を決したように視線をファウスティナに向けて、改めて口を開く。


「ファウスティナ」


「何かしら?」


「単刀直入に言うが、そ、その、私と結婚してもらえないだろうか?」


 この言葉を伝える事が今日、ルクスがファウスティナを尋ねた目的だった。

 ルクスが軍閥を起こして玉座を狙い、皇帝として銀河系全域を征服したのも全てはファウスティナとの約束に端を発する。

 愛する者の願いを叶えたい。それがルクスの行動原理の一つでもあった。


「私にとって、あなたがどれだけ大切な人なのかをこの二年間、アウグスタでよくよく思い知らされた。あなたには、私の傍にいてもらいたいのだ」


「……へ、へえ。久しぶりに会いに来たと思ったら告白ねぇ。二年も人をほったらかしにしておいて」


「ほ、本当にすまなかったと思っている。だが私には、皇帝としての責務がある。戦火で荒廃した銀河を立て直すためにやらなければならない事が山のようにあったのだ」


「それは分かっているわ。でもね。流石に長すぎるわ。私の気が変わったらどうするつもりだったのよ?」


「だから、それはすまなかったと言って、って、ファウスティナ、今、何と言った?」


「もう! だから! 私の気が変わったらどうするつもりだったの? って聞いてるの!」


「と、という事は、結婚してくれる、という事で良いのか?」


「肝心な時に察しが悪くなる所は、相変わらずなのね」


 そう言いながら、ファウスティナは呆れたと言わんばかりに溜息を吐く。

 しかし、そんな彼女の口元は僅かに微笑んでもいた。


「ま、まあ、そんなあなたのために、はっきりと言ってあげるわね。私、ファウスティナ・クリーヴランドは、ルクス・セウェルスタークと結婚します」


 ルクスが結婚を申し込んできた時、どう返答するかをファウスティナはずっと前から決めていた。それこそルクスが皇帝になるより前からだ。

 今日までその意思が揺らぐ事は無かったが、いつまでも結婚の申し出が無い事に対してはファウスティナは不満を抱いていた。

 その腹いせにもう少し焦らしてやろうかとも思ったが、待ちに待った瞬間の到来を喜ぶ気持ちの方がずっと強く、それが彼女に返答を促した。


「あ、ありがとう! 絶対に後悔はさせないぞ!」


「ふふ。期待しているわよ、ルクス」


 後に、ルクスとファウスティナは新都アウグスタにて壮麗な結婚式を挙行。

 この結婚は、帝国にとって時代の変革期から新たな時代へとステージが移り変わった瞬間だと銀河中の臣民に印象付けた。

 ファウスティナは皇后としてルクスの傍らにて国政を支え、後世では「国母ファウスティナ」と呼ばれるようになる。

 そうして銀河帝国は、内戦を乗り越え、経済戦争を乗り越えて、遂にセウェルスターク王朝の安定期を迎えた。


 そして何よりルクスは、愛する者と結ばれるという人生最大の目標を達成するのだった。

最後までお読みくださりありがとうございました。

本当なら一年以内には書き上げるつもりだったのですが、自分の集中力の無さ故に書いたり書かなかったりで執筆を始めてから一年半以上が経過してしまいました。

ここまでお付き合いいただいた読者様には心より感謝申し上げます。

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