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首脳会議

 アマルフィ・セントラルビルの一角にある大総裁の寝室にて行なわれた銀河帝国皇帝とアマルフィ財閥大総裁による首脳会談。

 この会談は、それぞれ一人ずつの随員のみを伴い、その内容は外部には一切漏れない密室で行なわれた。

 まず二人が議題に上げたのは、インペリアル・ネットワーク・エクスプレス、通称INEとアマルフィ財閥による貿易戦争の終結だった。

 

「双方が値下げ競争に走った結果、安価な輸送費は銀河系の物流の活性化を呼び起こした。しかし、それはお互いの身を切る経営による一時的な成果に過ぎない」


「陛下の仰る通りです。我がアマルフィ貿易は既に経営赤字に陥っており、この状況を維持する事は本意ではありません」


 アマルフィ貿易は、アマルフィ財閥の中核を担う企業であり、財閥における星間貿易業務の全般を掌握しているが、現在は深刻な経営赤字に悩まされてもいた。


「INEも似たようなものだ。そこでだ。まず法規制により過剰な値下げを禁止とする」


「遷都事業がおおよそ完了した頃にですか?」


 バスクが口にした予想に、ルクスは思わず小さく笑みを零す。


「察しが良いな。そのつもりだ」


「……しかし、この過剰な値下げ競争を規制しただけでは経営の再建に時間が掛かりすぎると思いますが? それに両社による競争そのものが無くなるわけではない以上、また形を変えて何かしらの問題は起きるように思えます」


「貴公の推測はおそらく正しいだろう。そこで一つ提案がある」


「伺いましょう」


「INEとアマルフィ貿易を経営統合して新たな会社を設立する。それにより銀河系全域の星間貿易を一元管理する」


「ほお。それはまた大胆な事を。しかし、統合ともなると、色々と厄介な問題も出るかと」


「新会社の出資比率は、INEが六割とアマルフィ貿易が四割。両社が抱えている負債の清算には帝国政府も協力しよう。その代わりに役員には顧問として政府の者も加えさせてもらいたい」


「それでは我がアマルフィ貿易がINEに吸収合併されるようではありませんか?」


「INEとアマルフィ貿易は、それぞれ別部門として存続させる。あくまで競争を抑制するための統合と考えていただきたい」


「……」


 バスクは様々な方向に考えを巡らせる。

 経営権の優劣がINE側にやや有利となる以上、どうしても吸収合併の感が否めない。

 とはいえ、両社が結ぶ事で結果的にもたらされる莫大な利益、これまでの競争で抱えた負債の清算。INEとの統合によって帝国政府からの融資が得られるようになる。

 それに星間貿易業務が財閥から切り離されれば、現在推進している惑星開拓や都市開発、金融業、製造業により力を注ぐ事もできる。


「陛下のお考えは分かりました。この統合案を私も支持します」


「ご理解に感謝する」

 

「ただし、私からも一つ、陛下にご提案がございます」


「提案とは?」


「インペリウムを銀河系屈指の金融センターとするための融資と支援です」


「金融センターか。なるほど。貴公はインペリウムを銀河経済の中心に据えようというのか」


「はい。陛下はアウグスタへの遷都を進められ、帝国の政治の中心をかの星に移されました。そして新たな経済圏を構築し、帝国の基盤を整えようとされています」


「そうだな」


「しかし、人類社会の力の全てを一箇所に集中させる事のリスクは陛下も御存知のはずです。玉座が主人を失って、帝国が屋台骨を失い、その末に元老院や近衛艦隊、そして軍閥が権力争いを始めて収拾がつかなくなったのも、帝国の全てがインペリウムに集中し過ぎていたからに他なりません」


「そこで政治はアウグスタ、経済はインペリウムに分けようと言うのかね?」


「その通りです。既にインペリウムは経済の中心として機能しています。陛下に掛けるお手間も最小限で済むかと」


「だが、リスクを言うなら分散させたとしても同じだろう。軍が帝国各地に過大な戦力を配置していたからこそ軍閥の台頭を許したとも言える」


「仰る通りです。結局のところ、どれだけ考え抜いた体制も時の流れと共に綻びが生じるもの。だからこそ全てを一箇所に集めてしまうのは危険だとあえて申し上げます」


「集中によって生じるリスクより、分散によって生じるリスクの方がマシと言うのか?」


「はい」


「では、インペリウムを経済の中心にするとして、私は一体何をすれば良いのかね?」


「帝国中央銀行及び帝国金融センターをアウグスタに移転させずにインペリウムに留めて頂きたい。それによりインペリウムは銀河系最大の金融市場を維持できます」


「なるほど。良いだろう。貴公の提案を受け入れよう」


「ありがとうございます」


 元々ルクスは、インペリウムを陪都ばいとに定めて事実上の第二の首都とする方針で進めていた。

 インペリウムが経済の中心地として栄えるのは、ルクスにとっても悪い話ではない。

 とはいえ、インペリウムの存在があまりに巨大すぎるためにアウグスタの経済発展が阻害されてしまうのでは、という懸念がまったく無いわけでもないが、帝国の首都としての地位から差別化も充分に図れるだろうと判断した。


 こうして、『INEとアマルフィ貿易を経営統合』と『インペリウムを銀河最大の経済都市とする』という大枠の方針が決定するのだった。

 この会談は、今後の銀河系の情勢に大きな影響を及ぼすものであり、皇帝暗殺に端を発する銀河内戦の終結を決定づけるものとなった。

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