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通商協定

 惑星クテシフォンでの一通りの戦後処理を終えた皇帝ルクスは、艦隊を率いてクテシフォンを出立し、惑星アウグスタへと凱旋した。

 アウグスタの大本営へと戻ったルクスは、休む間もなく皇帝としての職務に精励する。


「臣民の生活水準を向上させるには流通の活性化が不可欠です。どれだけ物資を確保できても、それが肝心の臣民の手に渡らなければ、臣民の生活の困窮はいつまで経っても改善されないでしょう」


 そうルクスに進言したのは大本営総監ピーター・ドレルジーニ元帥だ。

 帝国の新体制の土台作りとも言える重役を担っている彼は、人と物の動きを活発化させる事の重要性をルクスに訴えた。


「軍による交通統制が足枷になると言いたいのかね?」


 流通の重要性はルクス自身も理解しているが、まだ戦乱の影が見え隠れする情勢下という事もあり、ルクスはアウグスタを中心とする経済網の構築を進める一方で、要所要所の管理を軍部で行なっていた。

 それは秩序と治安の維持という意味では重要ではあったが、経済の活性化という意味では軍が歯止めを掛けてしまっていると言わざるを得ない。


「はい。ただし、治安の観点からも軍による交通統制は今しばらく続けるべきかと。それよりも別の問題がございます」


「交易船の数か?」


「はい。この広い銀河系の全てを帝国の流通網でカバーするには、そもそもの交易船の数が圧倒的に不足しています。軍の輸送艦の多くは、紛争宙域での活動に集中せねばならない事もあり、民間の貿易商に頼らざるを得ないというのが現状です」


 クテシフォン同盟が倒れて、帝国に正面から戦いを挑む大勢力はこの銀河系から消滅したと言って良い。

 しかし、小規模な弱小勢力が辺境星系などで今も活動を続けており、帝国軍の主な敵性勢力はこの弱小勢力となっている。

 銀河帝国軍と言ってもその母体となっているのはセウェルスターク軍閥であり、銀河帝国の最盛期に比べるとその戦力は大きく劣っている。銀河系全域にその威光を轟かせるには数が圧倒的に不足していたのだ。


「船の不足というのは頭の痛い話だな。船にしろ乗組員にしろ、足りないからと言ってすぐに手配できるものでもない」


「しかし、だからと言って先延ばしにして良い問題ではありません」


「分かっている。……仕方がない。対価に何を要求されるかが些か怖いところだが、アマルフィ財閥に助力を頼むとしよう」



 ◆◇◆◇◆



「お初にお目にかかります、陛下。アマルフィ財閥副総裁を務めますイレーナ・アマルフィでございます」


 身の丈ほどもある長い銀髪をした、まだ二十歳にも満たない若さの美女は、アマルフィ財閥を統べるバスク・アマルフィの孫娘にして、彼から直々に次期大総裁の地位を約束された才女である。


「わざわざご足労願ってすまなかったな」


 大本営の応接室に通されたイレーナは、皇帝直々の出迎えを受ける。


「いいえ。皇帝陛下のお召しとあれば、いつでも参上するのが帝国臣民の責務ですから」


 イレーナはルクスに促されてソファーに腰をおろし、ルクスも彼女と相対するようにソファーに腰掛けた。

 そこへフルウィが二人分のティーセットを運んで姿を現す。

 フルウィは慣れた手付きで、ルクスとイレーナの前に香ばしい香りのする紅茶をそれぞれ用意すると、二人に一礼をしてその場を退出する。


 ルクスはフルウィの用意したカップを手に取り、紅茶をまず一口飲む。


「早速本題に入るが、帝国政府としては帝国全土を結ぶ流通網を構築するために、多数の交易船を必要としている。その助力をアマルフィ財閥にお願いしたいと考えている」


「私どもでお役に立てるのであれば喜んで協力させていただきますわ。ですが、私どもはあくまで会社です。相応の見返りが無くては、」


「分かっている。無論、相応の額は支払うつもりだ」


「恐れながら、他にお願いしたい事があります」


「言ってみろ」


「クテシフォン同盟軍から接収した艦艇を何隻か我が社にお譲り頂きたいのです。交易船として再利用したく考えております」


「なるほど」


 クテシフォン同盟軍は帝国軍と戦うために様々な種類の艦艇を用意したが、今では帝国軍の下で武装解除が進められている。

 武装解除後は、ひとまず軍部で再武装して軍艦として用いるか、軍の輸送艦として活用する事になる。

 そしてその中でも旧式で使い道も乏しい艦から順に民間に払い下げる流れとなるだろう。


 イレーナはそんなクテシフォン同盟軍から接収した艦艇を譲り受けたいという。

 その狙いは、船の数を増やす事になる事業の拡大だろう。

 接収した艦艇であれば、帝国軍としても特に懐が痛む事もなく、比較的受け入れやすい条件と考えての事に違いないとルクスは瞬時に判断する。


「……武装解除した商船十五隻を無償供与、二十三隻を期限付きで貸与、という事では如何かな?」


 会談の前に、ルクスはイレーナが何かしらの要求をしてくるだろうと予想し、その返答に必要な情報を一通り集めていた。

 その中には当然、クテシフォン同盟軍から接収した艦艇の情報も含まれている。

 ルクスにとってはイレーナの要求は、まだ想定の範囲内であったのだ。


 対するイレーナは、満更でもないという様子で小さく笑みを浮かべる。


「合計で三十八隻ですか。半分以上はあくまで貸すだけというのが些か引っ掛かりますが」


「この事情拡大で収益が増せば、新型の船を買い揃える事も将来的にはできましょう。下手に中古船ばかりを買い込むのも、あまり賢い買い物とは言えないのでは?」


「ふふ。陛下も中々の商才もお有りなご様子ですね。ではその条件で、帝国政府からの交易事業を引き受けさせて頂きますわ」


「帝国にとってもアマルフィ財閥にとっても有益な協定の誕生だな」


 これ以後、専門家や事務官などを交えて詳細が協議されていき、帝国政府とアマルフィ財閥との間で新たな通商協定が締結されていく。

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