ユフラテス戦役・決着
戦艦や巡洋艦が砲火を交わす傍らで、帝国軍の駆逐艦と同盟軍のフリゲート艦の交戦は熾烈を極めていた。
小型艦同士が至近距離まで接近して、敵味方が入り乱れた状態で激しい攻防を繰り広げる。
だが、その戦闘は次第に帝国軍の方が優勢に傾いていく。
パリアの考案した新戦術であるデルタ戦術は、同盟軍のフリゲート艦を一隻ずつ確実に沈めていき、やがて帝国軍の駆逐艦は敵艦艇を一掃する勢いで戦場を闊歩する。
フリゲート艦隊の劣勢を目にしたクゼルークは、敵の駆逐艦隊が本隊に迫るのは時間の問題と判断する。
「ティグラット提督に駆逐艦隊の迎撃を任せる。敵駆逐艦隊の接近を許すな!」
「し、しかし閣下、ティグラット提督の艦隊を戦列から外してしまっては、敵本隊の攻勢を支えきれなくなってしまいます!」
「分かっている! だが、どのみち駆逐艦隊の接近を阻止しなくては我が艦隊は崩壊する!」
帝国軍本隊に対応するための戦力を同盟軍本隊から他所に割けば、それだけ同盟軍本隊の布陣は脆くなってしまう。
そんな事はクゼルークも承知しているが、それでも駆逐艦隊の強襲は何としても阻止しなければならない。
そう考えて、彼が最も信頼する部下のティグラット提督に迎撃を命じたのだ。
だが、ティグラット提督の艦隊が戦列を離れて駆逐艦隊の迎撃に向かい、他の艦隊がティグラットの抜けた穴を埋めようとする僅かな隙をローランド元帥は見逃さなかった。
即座にその間隙へと集中攻撃を叩き込み、小さな穴を一気に押し広げようとする。
ただでさえ余裕が無いクテシフォン同盟軍に、このローランドの怒涛の攻勢を防ぎ切るのは難しく、小さな穴は次第に大きくなっていき、戦線全体に影響するほどまでに拡大していく。
◆◇◆◇◆
やがてクテシフォン同盟軍は、もはや艦隊と呼べるような存在ではなくなった。
陣形は無惨にも崩れ去り、各部隊の指揮系統は分断され、生き残った艦艇は個々で応戦するか撤退するかの二択を迫られているという状態だった。
「敵の旗艦は撃沈し、敵艦隊の統制は完全に崩壊しました。残敵掃討もほどなく完了するでしょう」
旗艦ヴァリアントの艦橋にて、ルクスはフォックスから報告を受ける。
それはこの戦いの終わりと帝国軍の勝利を告げるものであった。
「敵の残存戦力に降伏勧告を出せ」
「はい?」
「勝敗は既に決している。これ以上の戦闘は無意味というもの。敵が降伏してくれるというのであれば、それにこした事は無い」
「承知致しました」
フォックスは、皇帝ルクスの名において降伏勧告をあらゆる通信手段を用いて発し、クテシフォン同盟軍の残存戦力に降伏を呼びかけた。
これによりクテシフォン同盟軍からは続々と降伏する艦艇が現れ出し、戦闘行為は一気に終息へと向かう。
「クテシフォン同盟軍の多くは寄せ集めだ。敗北が目の前に迫ったこの状況で降伏勧告を受ければ、応じる者も多いだろう」
「逃亡を図る艦艇も多いようですが、追撃しますか?」
「その必要は無い。この戦いの勝利を掴み、クテシフォン同盟軍の主要戦力は壊滅させたのだ。これ以上の戦闘はただの浪費でしかない」
この戦いでの勝利の意義は、単なる戦術上の勝利に留まらない。
クテシフォン同盟軍の主要戦力が壊滅して、さらにクテシフォン同盟の継戦能力に致命的な打撃を与えた事を意味している。
この勝利を得た今、もはやルクスにとって残敵がいくら逃亡しようとどうでも良かったのだ。
「それより、未だに交戦の意思を示している敵軍の排除と負傷兵の回収及び救護を急げ」
「御意のままに」
艦橋のモニターに、撃沈した敵艦の残骸や集中砲火を浴びて炎上する敵艦が映し出される中、立体映像の通信画面が表示される。
その通信画面には、意気揚々とした駆逐艦隊司令官パリア・マルキアナ中将の姿がある。
「皇帝陛下、ご命令通りに敵艦隊を完膚なきまでに叩きのめしました!」
「ご苦労。貴官等の奮戦ぶりはいつもながら見事であった」
「お褒めに預かり恐悦至極にございます、陛下。ただ、流石に敵の数が多かった事もあって魚雷を切らせた艦が多く、我が艦隊は残敵掃討の任から外して頂けるとありがたいのですが」
「構わない。貴官等には損傷艦や負傷兵の捜索と救助を頼む」
「了解致しました、陛下」
パリアは姿勢を正して敬礼をすると通信画面が消える。
「今回も彼女の上げた戦果は多大なものがありましたな」
「駆逐艦の性能の高さは勿論だが、それを最大限に活かせる彼女の勇猛果敢な指揮ぶりがあってこそ、これほどの戦果を上げられたのだ」
ラヴェンナの戦い以降、幾多の戦場で駆逐艦の猛威を振るい続けてきたパリアの存在は、ルクスにとっては正に勝利の女神と言える。
駆逐艦の登場で、これまで戦場の脇役でしかなかったフリゲート艦などの小型艦が脚光を浴びるようになり、銀河の艦隊戦術は大きく変わった。
戦艦や巡洋艦などの大型艦のみが主役だった艦隊戦も今では、大型艦と小型艦の連携が重要な時代となった。
「この時代の変わり目にあって彼女は常に最先端を進んでいる。今回見せたデルタ戦術にしてもそうだ。誰もが新たな時代の到来に順応してきた矢先に、彼女はそれすらも考慮した新たな戦術を編み出してみせた。パリアには感服するばかりだな」
「そんな人材を発掘して重用し、ここまで使いこなしてみせた陛下にも私は感服しますがね」
「ふふ。素直に喜んでおくとしよう」
これからしばらくして、クテシフォン同盟軍の残存戦力は全て撃沈・投降・逃亡のいずれかを選択し、この会戦は終結となった。
そして終結と共にクテシフォン同盟軍の主要戦力は文字通り壊滅状態となり、銀河系を二分する争いの終わりは、もう目前に迫るに至った。




