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悪魔の暗躍

 銀河帝国の帝都にして銀河系の中心地であるインペリウムには数え切れないほどの超高層ビルが立ち並んでいる。

 そんなビル群の中で一際大きなビル『アマルフィ・セントラルビル』の地下には、銀河系屈指のアマルフィ財閥の最高幹部が集結して会合の場を設けていた。


 薄暗い地下会議室では、最高幹部達が席について白熱した議論が繰り広げられている。


「皇帝は帝国の中枢を、インペリウムからアウグスタへ移す気でいるのは明白です。この時流に乗り遅れるわけにはいきません」


「クリーヴランド公爵家が皇帝への資金援助を申し出たのを皮切りに、皇帝との関係をより強固にしようとする貴族は増え続けているとか」


「もはやクテシフォン同盟との秘密同盟は解消して、我等も皇帝と協力関係を結ぶべきではないか?」


 銀河系の名立たる企業のほとんどはアマルフィ財閥の傘下とまで言われるほど、人類社会の経済を牛耳ってきたアマルフィ財閥だが、皇帝ルクスの台頭により彼等は焦りを感じていた。


「大総裁のご意見をお聞かせ願えますか?」


 老齢の幹部の一人が最奥の席に座るアマルフィ財閥大総裁バスク・アマルフィに問い掛ける。

 幹部の質問を受けて、バスクは僅かな沈黙の後に小さく口を開く。


「皇帝の狙いは、自身に全ての力を集中させる独裁体制だ。そのような世では我等のような財閥の資本は全て接収されて、我等は滅びの道を歩むのは明らかというもの。元老院の様を見ればそれは一目瞭然だろう」


「「……」」


 バスクの話に、一同は反論できずに黙り込んでしまう。

 ルクスが元老院から全ての権力を奪い取った過去が全員の脳裏を過ったためである。


 「し、しかし、ヴェニス銀行を動かしての大総裁の策は、クリーヴランド公爵家によって水泡に帰しました。その結果、皇帝寄りの諸侯や大企業はヴェニス銀行を見放して、彼等は悲惨な有り様となっていると聞きます」


 皇帝ルクスを資金面から支援していた大手銀行のヴェニス銀行は、以前にバスクから秘密裏に指令を受けて、軍部への資金援助を打ち切った。

 これにより深刻な資金問題を将来に抱えるという事態に陥った皇帝ルクスだったが、クリーヴランド公爵家が軍部の全面資金に乗り出した事で資金問題がやってくる心配は無くなり、皇帝ルクスはヴェニス銀行と行なっていた全ての金融取引を停止した。

 この事態を受けて、皇帝ルクスに従う諸侯や大企業はルクスの不興を買うのを恐れてヴェニス銀行から次々と手を退き、ヴェニス銀行の凋落はあっという間に訪れていた。


「皇帝は敵対者には容赦が無い」


「クリーヴランド公爵家という強力な後ろ盾を得た今、もはや我等が生き残る道は皇帝に従うしかないのでは?」


「クテシフォン同盟の活躍に期待しようにもアルサバース星域は帝都から遠く離れている。我等の身を守る盾としては使えないかと」


 ここにいる全員がヴェニス銀行の二の舞になる事を恐れている。

 皇帝の目的がバスクの言う通り、皇帝による独裁体制の構築であったとしても、皇帝との関係が悪化してしまえば、いつ身に危険が及ぶか分からない。

 

「クリーヴランド公爵家の令嬢が皇帝と親密な仲というのは知っていたが、まさかこのタイミングで皇帝の支援に乗り出すとは流石に予想外だった。だが、我々にとっても不都合な話ばかりではないぞ」


 バスクがそう言うと、彼の横に控えている若い秘書が前に出る。


「ヴェニス銀行が進めていた事業の幾つかは我等アマルフィ財閥の傘下企業が引き継ぎ、ヴェニス銀行の株式の買収の裏で進めております。近い将来、ヴェニス銀行は我等アマルフィ財閥の傘下企業の一角となるでしょう」


「聞いての通りだ。これで帝都における財界はより一層我等の独占市場となる。皇帝がアウグスタに拠点を移すというのであれば、我等はこのインペリウムを掌握し、帝国全体の経済網を掌握する」


 皇帝ルクスが政治と軍事の中心をアウグスタに設けようとするのであれば、アマルフィ財閥は総力を挙げて経済の中心をインペリウムに留め続けて、帝国の財界をアマルフィ財閥が牛耳る事で帝国の経済を支配する。

 それがバスクの打ち出した策だった。


「クテシフォン同盟やブリトル星域の不穏分子による脅威がある限り、皇帝の意識はインペリウムで暗躍する我等ではなく、彼に向くのは当然の事。この隙を利用して、アマルフィ財閥がいなければ帝国が成り立たないと言われるほどの経済体制を築き上げるのだ」

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