最終話 1.君は輝く
【 帰りたい場所がある 】
目覚めると目の前には大きな縦に長い箱があって、それは黒い布に覆われていた。
ああ……そうだった。
私はバルフの王女様と、そのお友達の棺と一緒に、馬車に揺られていたんだった。
疲れていたのと、馬車の揺れが適度に心地よくていつのまにか寝てしまったみたい。
よりによって、ポテチの夢を見るなんて。
また思い出す、酷く困難なこの現実を。
あんな夢を見たのは、スラオシャノせいだ、絶対そうなんだから。
少し前に、私たちはバルフへ向けて出発した。
幌つきの荷馬車の荷台に、王女と私とそして棺。
ユージンが荷馬車を走らせて、スラオシャは馬でその後をついてきていた。
水辺で一度休憩をとった。
私は荷台から降りて、外の空気を吸っていた。
さすがに棺と一緒に、つまりそのなかに仏さんがいるってことじゃん?
しかも、まったく見も知らない人だし。
ずっといるのが苦痛じゃないといえば、嘘だし、正直ユージンの隣にいたかった。
ユージンは馬車から馬を外し、水をあげてる。
なんとなくその背中が人を拒んでいるような気がして、近寄れない。
こんなとき、空気を読みすぎちゃうくらい、読んじゃう自分がだいぶウザイ、と思う。
空気を読まず、「ユージンなにしてんのー?」とかバカっぽく話せたら、どんだけ生きるのが楽だったろうか。
もしかしたら……もっと違う世界線があったかもしれない?
「なにぼんやりしてる?」
「びっくりしたっ!」
相変わらず気配を消してくるやつ。
急に声かけてくんな。
「別に、ただちょっと……気が滅入ってるっていうか、ご遺体と一緒だし」
フワフワとやわらかい風が吹いていた。
緑色の短い草がさわさわと揺れ動いている。
スラオシャの髪も揺れて、青白い額が見える。
「夢を見たんだ」
「えっ、夢?あんた寝てたときあったっけ?」
「一瞬、馬上で」
「馬の上で寝れるなんて、器用なやつ」
「変な服を着てた」
「変な服って?誰が?」
「俺もお前も、あと王女も。紺色の服で、お前と王女は、ヒラヒラした短い丈の布を巻いていた」
「……」
「知らない国だった。見たこともないものだらけだった」
それって、もしかして……そんなわけないよ、スラオシャは私の世界なんか見たことないんだから、夢に出てくるなんてあるわけない。
人って見たことのないものは、夢で見ないって話じゃん。
「王女のことを、ハナって呼んでいた」
へっ?
それって、
どういうこと?
【 巫女じゃない私の居場所 】
「王女のことをハナって呼んでた」
スラオシャの顔をたっぷり10秒くらいは眺めたと思う。
「ハナって、私が呼んでたって?」
短いヒラヒラが制服のスカートのことだとしたら?
「凄く気になる夢だった。それに本当にそこにいたみたいな……」
スラオシャは向こうの世界へ行ったってこと?
「超リアル」
「リアル?どういう意味だ?」
私は飛ばされてきて、でも、スラオシャは元々ここの人で、だから、えっ?
ちょっ、わかんない?!
「どのくらいいた?」
「どのくらい?」
「あっちの世界で何してた?劇の練習してた?」
「あっちの世界?とは?」
スラオシャの様子をみると、彼はほんとに少しだけあっちの世界の夢を見ただけみたい。
「実は私は、あんたが見たっていう夢の世界にいたんだよ、それが何の因果か罰ゲームか、この世界に飛ばされてきてさ」
「あの世界が実在するのか……」
スラオシャが口元に手を当て驚いている。
よっぽどリアルな夢だったんだな。
私が今言ったこと、素直に信じて納得してるっぽい。
「ハナは王女っていうか、あっちの世界で友達で、……だった人で、ハナって名前の人」
「髪や目の色が違ったが、王女にそっくりだった」
「だよね、私も最初は驚いた」
「俺に似たやつもいたのか?」
「うん、まぁ」
「……その、そいつは」
「シミズっていうんだ」
「そうか、そのシミズってやつは……お前がいた世界でも、その……」
「なに?」
「人を殺しているのか?」
スラオシャは自分の腰に視線を落とす。
「まさか!!」
「……そうか、じゃあ、何をしているんだ?」
「何って……学生?」
私、シミズのことは全然知らないんだよ。
ごめん。
「がくせい?」
「学校行って、あっ、学校って勉強するとこ、勉強したり、塾いったり……」
「じゅく?」
「大学ってところにいくために、勉強するところ?」
「勉強ばかりするんだな」
「もちろん勉強以外にも、学校の帰りに友達と遊んだり、ごはん食べたり」
ハナと過ごした放課後が思い出された。
いつもハナと一緒だった。
心が、疼いた。
「ともだちと遊ぶ?」
「スラオシャにだって、友達いるでしょ?」
「俺は……小さい頃兵士に売られて……」
スラオシャは昔の記憶を辿っているようだった。
友達、いなかったのかな。
すぐに名前が出ないなら。
私にはいた。
忘れたくても忘れられない、
友達、、、ハナ。