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第1幕 2.囚われた偽りの巫女

【辱しめを受けたのは初めて?】



「この傷が何の傷か知っているのか?」


ダリアンは子供の頃、乳母からこの地方に伝わる刑罰について聞かされたことがあった。


罪によって身体にそれとわかる傷を刻まれることがあると。


例えば盗人ならば、その腕を切り落とす。

人を騙した者は、舌を焼かれる。


あまりにも残酷な話で、想像もしたくない。


「目を……えぐるのは、その目で見てはいけないものを見たから……じゃない?」

「そうか、例えば?」

「それは、例えば人の女人に……」


手を出したとか、無礼を働いたとか。


「なるほど、他人の女を見てはいけない、か?それなら、あんたはどうだ?」


碧い隻眼がダリアンをじっと見つめた。


「どっ、どうって、なっ、なにが?」


この男何を考えているの?

ダリアンはしどろもどろになり言葉を詰まらせた。


「俺があんたを助けたのは、あんたが俺の好みだったからだ。こうやってあんたの顔をじっと見たら、俺はどうなる?」


男の手がさっと伸びダリアンは瞬時に彼の胸に抱き寄せられた。


「はっ、離して!」


抵抗するダリアンの両腕を、男はなんなく封じ込め、その顔を自らの顔へぐっと引き寄せた。

ダリアンの足がつま先立つ。


「世の中の礼儀ってやつを教えてやろうか」

「やっ―――!」


男の顔がダリアンの顔へと近づいてくる。

顔をそむけたくても男の指がダリアンの顎をしっかりと捉えているから逃れられない。


ダリアンの鼻筋に男の息がかかる。

ダリアンは怒りでブルブルと震えた。



【命の恩人だからってなんなの?!】



「その汚い手を離せ」


男の背後から低く威圧感のある声が聞こえた。


「はいはい、わかったって」


男はダリアンからあっさりと離れた。

男の喉元へピタリと小刀を突きつけているのは、ダリアンの従者である、スラオシャだった。

ダリアンはすぐに男から離れると、スラオシャの後ろに隠れた。


「どこに行っていたのよ!もう、肝心なときにいないんだからっ!早く、こいつをぶっ飛ばして!今すぐ!」


ダリアンは男を指差し、きっと睨んだ。


「殺してやります」


そこまでは言ってないわよ、ダリアンは驚いてスラオシャの横顔を見た。彼の目にその本気度があらわれている。


「えっ!ええ、もちろん。そうしないとダメだけど、でも今は人も見ているし、後も面倒そうだから、特別に許します!」

「しかし、こんな無礼者は、死に値するかと」


いつのまにか辺りには人だかりが出来ていた。

ここで変な騒ぎは起こしたくない。


「いいわっ、そのまま、静かにそれをおさめて。あなたも変な真似はしないで」


ダリアンはスラオシャの腕を押さえ、男に念を押した。


「しかし、ダリアン様」

「見てないかもだけど、この人は一応命の恩人なの」

「まさか」

「本当に、本当」

「やっとわかったか」


男は刃物を当てられながニヤニヤ笑っている。

何て嫌なやつ!

ダリアンはむっとしながらも頷いた。


「ああ、礼ならまた今度でいいぞ」


(何が礼よ、このならず者が。二度と会うもんですか!)

「きっと、また会うことになるさ」

「はっ?」


ダリアンは心の中の悪態が聞こえたのかと思いギクリとした。


「さあて、飲み直すとするか」


男は野次馬を掻き分け悠々と去っていった。


「何よあいつ」

「ダリアン様、お怪我はありませんでしたか?」

「大丈夫よ」


ダリアンは気づいた。

そう言われれば、確かにかすり傷ひとつない。

まったくの無傷だった。


男は完璧にダリアンを救ってみせたのだ。

その事が、無性に悔しくてしょうがない。

少しでも傷がついていたら、まるまる恩を着せられる筋のものでもない。


「スィオ!」

「はい」

「あなたは、どこに行ってたの!」

「申し訳ありません」


完全な八つ当たりだった。が、いつものことなのでスラオシャもただ頭を下げる。


「それで、ジュースは?」

「はい、あそこに……」


スラオシャの視線の先に半身のメロンが砂だらけで転がっていた。


「何やってんのよ!」

「申し訳ありません」


周りにいた野次馬はすっかり消え去り、商人たちの声が飛び交う、いつもの活気あるバザールへと戻っていた。


「ところで、先程の男が……」

「さっきの奴が何よ」

「こんなものを落として行きました」

「こんなものって?」


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