第3章 9.聖なる巫女の最後の願い
【 恋の戦死者 】
そうだよ……
どうして、いつも私ばっかりがこんなめに?
なんでみんな、ハナばっかり見るの?
ハルキ先輩も、
……ユージンも。
私、こんなに頑張ってるじゃん。
どうして私を見てくれないの?
誰も私を認めてくれない……。
リアルの世界でも、この異世界でも、私なんかいてもいなくても同じ、名前のない、ただのエキストラだ。
虚しくて、……悔しい。
「お前の望みはなんだ?」
私の望み……?
私を見てほしい、私だけを見てほしい。
疲れたとき、もう歩けなくなったとき、側に来ていたわって欲しい。
「頑張ったね」って、疲れた足をさすってもらいたい。
辛いとき、悲しいときには、一緒にいて助けてほしい、慰めてほしい。
「大丈夫」そう言って抱き締めて欲しい。
ただ、無条件に愛されたい……
ハナは何もしてないのに、ただ綺麗で可愛いってだけで、皆に大事にされる。
どうして?
不公平過ぎじゃない?
ハナさえいなければ……
「出でよ……我が魔神」
私はランプの持ち手を掴み胸元に引き寄せた。
「イフリート!姿を現し我の願いを叶えよ」
不思議だった。
今まで、ぜんっ全思い出せなかった魔神の名前が、迷うことなく、考えることもなく、自然と口から出てきた。
ランプの蓋がカタカタと鳴り始め、ヒンヤリとした冷たい風が、蓋の隙間から漏れてくる。
「お前の望みを叶えよう」
ボンっ!
蓋が飛んで、凄まじい冷気が空高く立ち上っていく。冷気は渦を巻き、あっという間に大きな竜巻に変わった。
竜巻は刑場の中を無秩序に動き移動する。
並んでいる松明の炎が次々に竜巻へと吸い上げられていく。
竜巻は赤い炎の塊となって、刑場の上に浮かんだ。
ラクシュが突然飛び起き立ち上がった。
私の足は解放されたけど、痺れて何の感覚もない。上体だけを起こして足をさする。
空気を巻き込む大きな音と、熱い風が空から強く吹いてくる。
そこにいる全ての人が、動きを止めそれを見上げていた。
空に留まる、大きな炎の赤い塊。
塊が形を成していく。
尖った口がある頭、長く鋭い爪を持つ手足。
背中が膨らみ、そこから翼らしきものが生えてきた。
その両翼は手足を伸ばすかのように、ゆっくりと何もない空に広がり、最後に翼の先までパーンと張る。
刑場は炎に照らされ、熱気に包まれた。
ハラハラと火の粉が舞い落ち、旗に落ちた赤い粒は炎を上げ布をなめていく。
旗を持った兵士は、悲鳴を上げ燃える旗を投げ捨て逃げていった。
燃えるドラゴン……ゲームのボスキャラみたいな……あれが、ランプの魔神イフリート……?
【 屍からゾンビ 】
「うわぁ……」
なんか凄いの出てきたな。
これが魔神イフリート……なんだ。
私が呼び出したの?!
イフリートが羽ばたく度に、熱い風がぐわっと吹き付けてくるし、火の粉も落ちてくる。
あちこちで小さな火事が起こっていた。
「あっつ!!」
おでこに熱いものが引っ付いて、慌てて払いのける。
あぶなっ、火傷するじゃん!!
王女様とユージンに対峙したイフリートは、大きく口を開いた。
ちょっ、ちょっ、ちょっと待って、口から炎とか吐くつもりじゃないよね??
「ちょっと!!」
イフリートが私の方へ頭を向ける。
「何をするつもりなの?」
「お前の望みを叶える」
「望みって?」
「二人を消す」
それって言葉どうり、物理的に消すってこと?
いやいやいや、待てよ。
「私、そんなこと望んでない」
「今さら良い子ぶるな、お前の本心はわかっている」
「そんなの本心じゃない」
「こんな世界、みんな消えてしまえばいいと思っただろう?」
「それは……本気でそう思ったわけじゃない……一瞬、ほんの一瞬思っただけだし」
「この世界も、お前のいた世界も、綺麗に消し去ってやる」
イフリートが笑う。
パチパチと火花を飛ばしながら、心底楽しそうに。
邪悪だ……
人では無い、人を遥かに越える力を持つもの、それがいとも簡単に人を凌駕出来るという恐ろしさ。
あまりの絶対的な力の前で、本能的にわき起こる恐怖に身がすくむ。
「ツキ!」
ユージンの声がした。
ユージンが何か言いたげにこちらを見ている。
兵士の盾を頭上に持ち上げ、王女様に火の粉が落ちないように守っている。
自分に落ちてくる火の粉にはお構い無しに。
王女様はユージンの後ろでぼんやりとイフリートを見上げていた。
また、チリチリと胸が焼ける。
ハナは何でも持っている。
何の苦労も努力もしないで、すぐに何でも手に入れてしまう。
そんなの不公平だ……。
悔しい……。
黒い石の上に火の粉が落ちては消えていく。
人の命もこんなふうに儚くて危ういんだ。
「ツキ!」
ふいに肩を掴まれた。
視線を上げると、スラオシャが鬼の形相で立っていた。
「スラ……」
スラオシャが私の正面に片ヒザをついて屈んだ。
「あいつと話すな!あいつは邪神だぞ!」
「邪神?」
「お前の心の弱味につけこんでるんだ、早くあいつを引っ込めろ」
やっぱり……私が望んだから出てきたのか。
今まで、散々助けを求めたのに出てこなかったのは、単なる魔神じゃなかったから。
「ツキ!」
「……」
スラオシャの真っ直ぐな視線をまともに見られず、私はまた下をむく。
「何を考えている?」
スラオシャの手にある剣の先から血が滴り落ちた。
何が違うのか?
この人だって、他者を傷つけているじゃないか。




