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第3章 6.聖なる巫女の最後の願い


【 この人はこういう人でした 】



「あはは、それ……毒あるやつ?」

「死ぬな、刺されれば」


ナイフを振ってポイっとサソリを投げたスラオシャは涼しい顔で答えた。


「毒を持つヤツは見つけたら直ぐに殺す」


ひょえー。

やっぱり、怖い人だよ。

絶対に敵にまわしちゃだめだよ。


「じゃないと、誰が犠牲になるかわからない」


けど、味方なら絶対の安心感ではある。


まてよ、こんなのがいる荒野に私は無防備で一晩過ごしたのか?

知らないって怖い。

もう、絶対に外では寝たくない!


「無事に連れて帰れるといいね、王女様」

「馬鹿王女だが、あれで国民には好かれているからな、気さくで親しみがあるとか」


また、言ったよ。

馬鹿王女って。

王女様に会ったら言いつけるよ。


「だから、隣国に嫁にいったはずの王女が処刑なんかされてみろ、暴動が起きるレベルだ」

「人気者なんだね」

「王家が存続するには、国民からの好感度も大事だ」


スラオシャが、馬の顔を撫でる。


「後少し、頑張ってくれ」



馬の背でうつらうつらしていた私は

スラオシャの声で目が覚めた。


「バルフのスラオシャだ。国王の命でバルフより、リュトンを持って今戻った」

「朝まで、あちらで待たれよ」


門兵が示した方に、小さな小屋がある。

私達は馬から下りて、素直にそこで待つことにした。

兵士の待機場所のようで、長いベンチのような椅子が壁にくっついているだけの、何もない部屋だった。

その後暫く経って急に門兵達が、バタバタと動き始めた。


「なんか、騒がしいな」


スラオシャが様子を見に外へ出ていった。

私もその後へ続く。


「刑場へ急げ」


馬上から偉い人が指示を出していた。


門兵の何人かが走ってどこかへ行く。


「何事ですか?」


スラオシャが馬上の人に尋ねた。


「あなたは?」

「イルファン国王の命でバルフから使いに来たものです」

「そうでしたか、夜明けに国王自らが刑場で処刑を執行されることになったので。国王への拝謁はその後になります」

「こんな急に、一体誰が?」


急いで何処かへ行こうとした偉い人をスラオシャが追いかけ、更に尋ねた。


「国王様の献上品を盗んだ賊のようです」


えっ?!


「それって……」



献上品て……

林檎と薔薇?

まさか、ユージンじゃないよね?


頭の中が真っ白になる。

あの後、ユージンは捕まってしまったの?


私はスラオシャの腕を掴んだ。




【 嫌な予感はよく当たる? 】



「こんな早朝に、国王様自ら刑の執行をなされるなど珍しいことですね。余程の悪党か反逆者でない限りありえない話では?」

「確かに急なことではありますが、珍しいことではありません」

「……そうなんですね」

「あのっ、刑場はどちらですか?どこで行われますか?」


偉いおじさんが怪訝そうに私を見た。


「こちらは、バルフの巫女です」


スラオシャが、私の代わりに名乗ってくれる。


「刑場は、北の塔あたりですが……立ち入りはご遠慮頂きたい」


北の塔って、どっちだろう。

私はまず白々と明けてきた東の空を見上げ、そこから北へ目を向けた。

確かに円柱の塔がひとつ、その方角に見える。


「はい、承知しています。お忙しいなか有り難うございました」


スラオシャの声が遠くで聞こえる。

凄く凄く嫌な予感がする。

これが胸騒ぎっていうんだろうか。


「おい、聞いてなかったか? 一般人の見学はお断りだって」


「……行かなきゃ」


「えっ?」


ユージんじゃないよね??

そうじゃないといい、そう思う反面、絶対にそうだという確信みたいなものが、どんどん大きくなってきた。

そして、いてもたってもいられなくなる。


「……確かめてくる」


歩き始めた私の腕をスラオシャが掴んだ。


「おいっ!」

「!」

「処刑なんか見たって、胸糞悪くなるだけだぞ!」

「離して、早く行かなきゃ駄目なの」

「説明しろ、どうして行きたいんだ!」


スラオシャが私の前に立ちはだかり、行く手を塞いだ。


どうしてって、処刑されるのがユージンかも知れないから。


「ユージンなの」

「えっ?!」

「処刑されるのは、きっと」

「待てよ、どうしてわかる?」

「だって、私達だから、献上品を盗んだの」

「はぁ?!」

「成り行きでそうなっただけで、盗むつもりだった訳じゃない、だから、とにかく早く行かなきゃいけない」


スラオシャを避けて、私は走った。

北の塔を目指して。

あそこまでどのくらいある?

間に合う?

心臓が爆発しそうなくらいドキドキ言ってる。

足が思うように動かない、もつれそうでもどかしい。

まるで、夢の中で走っているみたいに足が重い。


「ツキ!」


後ろを見ると馬に乗ったスラオシャが、こちらへ向かってくるところだった。


「乗れ!」


私は差し出されたスラオシャの腕を掴んだ

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