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第2幕 13.聖なる巫女の千一夜


【 秘密と孤独 】




「つまりあなたがお店で酔って寝てしまい、起きたらその子が目の前に座っていたってことね」

「そうだ」


ダリアンは変に早合点したことを恥ずかしく思うのに加え、誤解だったと胸を撫で下ろしている自分に対して苛々する。


「それなら、ちゃんと最初からそう説明しなさいよ」


思わずそうひとりごちる。


「そんな会ったばかりの子を、どうしてそんな気にかけるのかしら?」


自然と語尾が強くなる。


「……一生懸命なんだ。自分が裸足だって気づかないくらい、他人のことで頑張るんだ」

「裸足の人なんて普通だわ」


ダリアンが毒づく。


「それが、今まで裸足で外なんか歩いたことがないみたいに、綺麗な足だった」

「なら、良家の娘じゃない?身寄りがない迷子だなんて出任せよ」

「……あるいはそうかもしれないが、人には言えない事情があるんだろう」

「どうして?何を根拠にそうやって信じられるわけ?」


最早やっかみしかない。


「俺も……同じだった。突然何もかも失くして、知らない世界に放り出された。だからその怖さが良くわかる」


言葉の其々が胸に刺さり、ダリアンは口をつぐんだ。


私にもわかる、その気持ちなら……。


ジンを失くしリュトンが消えたあの日から、私は恐怖に震え、そのことを誰にも言えず孤独に耐えてきた。


どうか、今日も何事も起きず国が平和でありますように、日照りや水害や山火事が起きませんように。

国の安寧を守る巫女として、それを願うのは当然のことなのに、無能な巫女の邪な祈りに過ぎなくなった。


(どうか、ジンを呼び出さずにすみますように)


これが毎日の祈りの締めくくりだった。

巫女など辞めたかった。

こんな屈辱的な祈りが他にあるだろうか。

けれど、辞められなかった。

誰にも言ってはいけないことだった。

それは母との約束であり、ジンとの契約だった。

そして母はそのために命を差し出したのだから。


「そんなに心配な子なら、自分で責任持ったらどうよ。さっさとここを出てバルフに迎えに行きなさいよ……つまり……それは、保護者として?そう、身寄りのない子の保護者として当然そうするべきよ」


最後の足掻きで悪態をついたが、ダリアンには敗北感しかない。


「……責任?」

「心配で、1人で放っておけないんでしょう?だからそれはつまり、保護者としての責任を感じているからってことよ」

「そうか……だからこんなに気になって心残りなのか……」



「牢番!」

「牢のおじさん!」



2人は、ほぼ同時に牢番を呼んだ。





【 王族の証 】



「なんだ、罪人の癖に人を呼びつけるとは生意気な!」


牢番がドカドカとユージンの前にやって来た。

ダリアンは柵に顔を近づけ隣の牢の様子を伺う。

松明の明かりがユージンを照らした。


「すまないが大事な物をそこに落とした、拾ってくれないか?」


ユージンは柵の間から腕を伸ばし、その下の石畳を牢番に示してみせた。


「大事な物だと?どうせ明日にはいらなくなるんだ、ほっとけ」

「ほら、そこだ指輪を落とした」

「指輪?」


牢番は松明でデコボコとした石畳を照らし腰を屈めた。


「赤い紅玉の石がついているやつだ」


牢番は石の間に赤い輝きを放つ金の指輪を見つけた。


「これか……」


牢番がそれを拾い上げようと、手を伸ばした時、ユージンはその右手を掴み自分の牢に引き入れ捻りあげた。


「何をするんだ!ううっ、やめろ!!」


牢番は柵に背中を当てたまま悲鳴はあげる。


「鍵を隣の牢へ渡せ」

「なんだとー、ひぃー」


腕の関節をせめられ、牢番は更に悲鳴を上げた。


「わ、わ、わかった、待て」


牢番は松明を投げ捨てると、腰から鍵の束を外した。ダリアンは柵から手を伸ばしその鍵を奪い取った。


「私が」


ダリアンがミーナに鍵を渡すと、ミーナは錠前の鍵穴にそれを差し込んだ。

牢から出たミーナは次にユージンの牢の鍵を素早く開けた。

牢から出たダリアンは牢番の腰から短刀を抜き取り、その首に刃を当てがう。


「動かないで」


ユージンは牢番をダリアンに任せることにし、彼の手を解いて外へ出た。そして肩を押さえて呻く牢番を自分がいた場所へ押し入れ鍵を閉めてしまった。


「少し体験するといい。改善点がわかるだろう」

「こら!お前ら!!ううっ……」


牢番は右手を押さえ苦痛に顔を歪ませた。

ユージンは松明を拾いあげ、その火で石畳を照らし落とした指輪を探す。

石の間に光る小さな輝きを見つけると、それを拾い指にはめた。

両翼の獅子はユージンの指の上で厳かに煌めき誇らしく天を見上げている。


「お似合いだわ、玉座に戻ればいいのに」


ダリアンはそれを見て思ったままを口にした。

ユージンはそれを鼻で笑う。


「これは友達の形見、俺のじゃない」


道すがら何人かの兵士を片付けながら牢の外へ出ると、すっかり日は落ちて辺りは暗くなっていた。ユージンは松明を捨て3人は月明かりの下を歩いていく。


「こっちだ」


ユージンは壁沿いの暗い道を、勝手知ったる我が家、とでもいうふうにどんどん歩いていく。


「良く知っているのね、お友達から地図でももらった?」


ダリアンがそんな嫌味を言うとユージンは苦笑しダリアンの手を取った。


「足許に気をつけて」


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