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第2幕 2.聖なる巫女の千一夜

【 王子様の暇潰し 】



「はい、あの、こちらは牢獄でございますから……」


「そうか、では絨毯と腰当てを持ってこい」

「はい、只今!」


牢番が走り去る。


「おい!」


牢番が立ち止まる。


「誰にも見られてはならないぞ、こっそり持ってくるんだ」

「……承知致しました」


いったい王子様は何を考えているのか。

牢番は首を傾げながら出ていった。


「さあ巫女、夜は長いぞ。話を聞かせろ」

「なんですか話って?」

「巫女は伝承の話し手でもあるんだろう?何か面白い話でも聞かせてくれ」

「なぜ私が?あなたに話して差し上げなければならないの?」

「では、このままここで眠れるというのか?何か気を紛らわすことが必要じゃないか?」

「……」

「そうだな、怖い話がいいな。あっ、でも血がたくさん出るとか、首が飛ぶとかは止めてくれ、そんなものは日常の光景だからな、少しも怖くはない」


ダリアンとミーナは顔を見合わせた。

この王子は一体何が目的なんだろうか?

本当に話が聞きたいだけだろうか?


「王子様、お待たせ致しました。絨毯を……」


牢番が丸めた絨毯を担いで戻ってきた。

急いで王子の足元に広げようとした手を王子に止められる。


「違う、私にではない」


と言って、牢獄の中を顎で指した。


「……あ、はい……?」


牢番は鉄柵の鍵を開け、中に入るとダリアンとミーナが座っている場所へ絨毯を敷こうと待った。


ダリアンとミーナは立ち上がり王子と向かい合う。


「夜はさぞかし冷えるでしょうから」


屈託のない笑顔がそこにあった。


「失礼致します……」


牢番は丁寧に一礼してから、絨毯を敷き腰当てを鉄柵に立て掛けた。


「少しはマシになったか」


ミーナがダリアンの耳元へ口を寄せた。


「どうせなら、ここから出して頂きたいですよね」


牢番は再び鍵をかけてから持ち場に戻った。

ギルディールは鉄柵の前に座り胡座をかいた。


「さぁ、初めてくれ」


まるで子供のような好奇心に溢れた目だ。

ギルディールに、弟のアデルの姿が重なった。

アデルにもよく話をしてくれとせがまれた。

この人はいったい何を考えているんだろう?

母親が恐ろしいと言いながら、ここまでやって来る、その真意は?

それでも、ミーナと2人寒さと不安に耐えながら長い時間を過ごすより、彼の言うように少しは気が紛れるかもしれない。


確かに厚い絨毯は暖かく有り難かった。


「―――それではこんなお話はいかがでしょうか?」



【 影のない男① 】



とある街に、ジャンガという男がおりました。

ジャンガは働くのが嫌いな男で、様々な仕事を転々としておりました。

ジャンガが王様の宮殿を造る仕事をしていたときです。

「ああ、仕事に行きたくないな。力仕事は疲れるし俺の性に合わない」

そう、ぼやきながら家を出ました。

「なぁ、そんなに行きたくないなら、俺が替わりに仕事をしてやろうか?」

どこからかそんな声が聞こえてきました。

「誰だ?」

辺りを見回しましたが誰もいません。

「ここだ、お前の足下だ」

男は自分の足下に目をやりました。

「俺はお前の影だ、今日お前の替わりに仕事に行ってやるよ」

「影?」

男はにわかには信じられませんでしたが、仕事をするのが本当に嫌だったので、影の言うとおりにしました。

ジャンガは影になり、影はジャンガになってよく働きました。

夜になると、ジャンガはもとの体に戻り、影はまた影になりました。

ジャンガは影の間、何もせずに、ただ自分の体の後について行けば良かったので、大変楽でした。

ひと月が経った頃には、よく働くジャンガは雇い主に気に入られ、稼ぎが少し良くなりました。

「やぁ、影のお陰で随分楽になったな」

ジャンガは毎晩美味しいものを食べ、酒をたくさん飲みました。

ふた月が経った頃には出世までして、雇い主の娘と結婚することになりました。



「おい、おい、そんなうまい話があるか?」


ギルディールが話の途中で口を挟んだ。


「もちろんでございます」


ダリアンはゆっくりと低い声で答えた。



またふた月が経ち、ジャンガの婚礼費も充分に用意出来たところで、いよいよ雇い主の娘との婚礼の日となりました。

「影よ、今までご苦労だったな、今日は替わらなくて良いぞ」

「わかりました、それでは今日、私は影でいましょう」



「まてまて、それはずるいじゃないか、今まで苦労してきたのは影のほうだ」


またもや、ギルディールが口を挟んだ。


「そうやって、もう影とは替わらないつもりだろう?それじゃぁ、怠け者が特をするただの良い話じゃないか」

「結末をご存じならば、もうこのお話はよろしいですか?」

「いや、待てよ。影だって黙っているわけがない……」

「王子、お話を続けますか?」

「ああ、もちろんだ」


ダリアンは話を続けた。

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